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百二十九、雨乞い師

 突如として阿黒隊長が、休暇を与える、と言い出し、隊士たちは汚れた底の街に放り出されたのだった。そこで、一人さまよう鷹丸は、かつて出くわした特徴のない青年に再会した。彼は関太郎、関門として現れたが、あまり道を塞ごうという意思の無かった人物だ。


「また会ったな、鷹丸よ。お前もそこいらをうろうろする立場となったようだな」


 関は百鬼隊の一員ではなく、周囲をうろついているだけの人員だ。実はそういう者は彼以外にもいて、行列に興味本位で近づいて来て、そのままなんとなく付いてくるだけの人が何人かいて、離脱した者もいるが、武陽から一緒にやって来た者さえいる。大竹は彼らにも何らかの名目で食料や旅費をいくらか手渡していた。


 関に対して、あなたは何が目的なのか、と尋ねると、


「このおれに目的は、ない。おれにとっては全てが過程だ。お前にとってもそうじゃないのか? とにかく向こう側に辿り着くのを待っているのだ。それがどこであってもいい、黄泉の国だろうと家だろうと、草生した駐車場だろうとな。肝心なのは何かをすることだ、何処かへ辿り着くための何かだ。


 そのために、仕事を依頼していいか? 実は現在、この近くである病気が流行っている。それは感染するものではなく、ある食べてはいけないものを食べてしまったのが原因だ。〈背犬病〉という名前で、背中から犬が生えてくる。治すにはこの裂罅の底では〈むらもち〉というものが必要だ。これが何かは分からない。その探索と、確保を依頼する。


 頼むよ、〈雨乞い師セロニアスセロニアス・ザ・レインメーカー〉殿。この商都ヴェードゥのギルドじゃ、あんたくらいにしか頼れねぇんだ。男爵閣下も騎士団長殿も、ロガリホシャ様もあんたに依頼しろってさ。この街を救ってくれ!」


 気が付くと関太郎は、ダミ声の、ずんぐりとした小柄な、長い髭の人物と化していた。鷹丸はうっかり「おう、この金級冒険者セロニアス様に任せとけ!」と口走りそうになったが、自分は百鬼隊六番隊士、〈髐羸〉の鷹丸だ、と自分に言い聞かせて耐えた。

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