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十二、金平鹿之助
黒眼鏡の青年は金平鹿之助といい、自分のことを〈浪人〉と称していた。周囲の参加者の中では最もまともそうな人材だった。
「オレがこの旅に参加したのは……まあ傷心旅行って奴だね。手に入るはずだったものが失われて、非常にがっかりしていた所で、しかし元々持っていなかったのだから嘆くことはないじゃないか、って自分に言い聞かせようとしてもダメだね。もしかすると、まだ一縷の望みはあるかも知れないってとこだけど、大して期待していない、ああ、そうとも」
阿黒が、具体的には何、と直截に聞いた。
「オレに憑いた異相体の話だ。それはすごく強力なものだったし、オレは自在にコントロールできると自覚しているけど当局から使用許可が出ず、現在凍結されているんだ。今、審査中で、もしかすると一部解禁できるかも、って言われてるけど、あまり期待はできないってわけ。だからオレは、こうしてやけ食いとやけ旅をするしかないんだ」
鹿之助はそう言いながらも、実際は大して悲しんでいる様子ではなかった。彼は今、梨を齧っている。




