十、不開の四郎
鷹丸の次に自己紹介したのは、例の影のような異形だった。〈不開の四郎〉とだけ名乗った彼は、ある陰陽師の家系に生まれたのだが、恐ろしい怪物に変異したことによって、開かずの間に幽閉されている。その力の大半を用いて作り出した分け身が、この影の姿らしい。大して強くはないが、生身の人間よりは戦えるということだった。
分身とはいえ脱走しているのは、家中で問題になっていないのか、と尋ねられると、何も言われてないし、バレてないか、泳がされているかどちらか、と四郎はどうでもよいことのように話す。
『そもそも、変異した時点で僕を殺しておけばいいだけの話じゃないですか。そうしなかったのは家族の情とかじゃなく、殺せなかったからですよ。封印するので精一杯だったのです、全く情けない話で。しかしそのお陰で、このように旅行することもできるので、せいぜい楽しませてもらおうかと思っている次第です』
四郎は朗らかに言うが、思考は物騒に思えた。これも変異の影響か、彼の家の方針か、元からの性格かは分からなかった、力を失っているというのも自己申告に過ぎないので、どの程度の強さか定かではなかった。




