落とし物はコイだった
僕は祖父の仏壇に手を合わせた。そして心から感謝を伝える。
「じいちゃん、ありがと」
「直也。次の授業何?」
「音楽だったと思うけど」
「マジで?あと二分じゃん。ヤバっ。急ごうぜ」
森の中に差し込む静かな風のように直也は走った。僕は次の授業に間に合うことを祈るばかり、大切なものを落としたことにまだ気づいてなかった。
(はぁ、ぎりぎり間に合った。あの先生、遅刻するとクラスメイトの前で合唱させられるから嫌いなんだよなぁ)
校内に鐘の音が響き渡る。
キンコンカンコン授業終了のチャイムが鳴った。持ち物の確認をしているとあることに気づいた。
(え?待ってなくなっている!どうしよキーホルダーないじゃん)
急いで校内を探しまわる。探すのに夢中でいたため後ろからかけられた声に全く僕は気づいていなかった。
「直也君、直也君」
声がどんどん大きくなってきてやっと僕は気づき振り返った。そこにいたのは学校一の美少女「赤井瑠美」だ。
「直也君、そんなに必死になった何かあったの?」
話しかけてもらえて内心ドキドキしているがこういう美少女は誰でもやっているだろう。
顔が赤くなってそうだと思い、顔もそむけた
「実は大切なものをなくしちゃったんだ」
「そうなの?一緒に探すよ。でさ、なんでこっち見てくんないの。もしかして私のこと嫌い?」
別に嫌いではないが、こんな風に見つめられて聞かれると好きになりそうになる。
「もしよかったら一緒に探してくれないかな?」
(そんな風に言われたら誰だって好きになっちゃうって)
「おっけ~~」
「私のこと嫌いにならないでよ。これでも顔は自慢なんだからさ」
自分でそれ言う人は顔が良くないとうわさで聞いたが、彼女は特別だ。う
(そういう風に言われると惚れちゃうって)
「自分でそれ言うww別に嫌いじゃないから」
「良かったぁ、で大切なものって何?」
「祖父からもらったキーホルダーなんだ。これを持ってると祖父が守ってくれてるように感じて」
「て、いきなりこんな話されてもなんだよな、ごめんごめん」
そんな話今まで誰にも言ったことがないのになぜ話せたのだろうと疑問に思うが気にしないでおく。
「別に大丈夫だよ。そんなに大切にしているものなんだね。そうとなったら今すぐ見つけなきゃね」
「本当にありがと」
今まで言った感謝の中で一番の気持ちを込めてそう言った。
「いつ気づいたの」
今日一日の流れを脳で音楽を聴くように思い出させる。
「え~とね・・・朝は見たんだよなぁ、地理の時間もあって、音楽は・・あ!間に合わなそうで走って音楽室向かったんだった。多分その時かも」
「それたぶんじゃなくて絶対じゃん!」
(満面の笑みで見られてもなんも言えないって)
「そ、そうかな?」
「ちょ、なんでそっぽ向いていうのさ??、ひどいっ、目見て言ってくれなきゃ、めっ!だからね」
(くぅ~それは反則だって)
「わかった?」
「わ、かったよ」
緊張して少し間が開いてしまった。顔が赤くなっていたらどうしようと思うが気づかないでくれることを願うしかない。
「また~顔赤い~もしかして照れてたりして~」
本当はそうなのだが、本当のことを言うと、からかわれそうなので、あえて嘘をつかなくてはならない。そしたら、寂しそうにして戻っていくと僕は感じた。
「そんなわけねぇじゃん」
しかし、瑠美は植物を観察するように顔を目の前に近づけてきた。その距離は、五cm未満である。さすがに黙っているわけにもいかないので声を出す。
「ちょっ顔近すぎだって!」少し怒っているように今回は言ってみた。
「ご、ごめん、嫌だってよね?好きじゃない女子に顔近づけられたって」
瑠美は少し、いやとても悲しそうに逃げ去ってしまった。
僕は、彼女にとても最低なことをしてしまった。好きな子にこんなことするなんて失格だ。
こんなことになるくらいなら照れ隠しなんかせずに正直に言っていればよかった。
もう遅いと思ったけれど、一応奏太に相談してみた。
「奏太、好きな人に照れ隠しして逃げるのってどう思う?」自分だと思われないようにそれとなく聞いてみることにしてみた。
「そりゃあかわいそうでしょ。思わせぶりに思われるって、まさか直也、お前」
やはり親友に隠し事はできないか十年間も一緒にいたらさすがにお見通しだった。
「うん」
と小さな声でコクリと頷いた。
「直也、今からでも遅くない!その子に謝罪してくるのだ!」
(お前はどこかの国の国王かっ!)とツッコミを入れたかったが、納得できる部分も多々あったので、その通りにする。
(まだ、帰ってないよな。間に合う!)全速力で廊下を駆け巡る足。それは、動物のようだった。
(ハァ、ハァ、ハァ)と息切れしているがそんなの今はどうでもいい。
「瑠美!」大きな声で教室の隅で本を読む少女に声をかけた。
ハッと振り向いた瑠美。
「慌ててどうしたの直也くん?」
「さっきはごめん!本当は瑠美が大好きなんだ。でも瑠美は可愛いし俺なんかじゃ釣り合わないとか勝手に決めつけてた。照れ隠しなんかしてごめん。でもあの時の瑠美の悲しい表情を見て気づいたんだ!照れ隠しをしてる俺が一番かっこ悪いことに」
精一杯の思いで思いを伝えた。
「やっぱり照れ隠しだったんだね」と笑顔でほほ笑む瑠美。
「俺なんかって否定しちゃだめだよ、自分のことは褒めてあげないと。実は私も大好きだよ。でも恥ずかしくて話しかけられなかった。そんな時慌ててる直也君を見てチャンスだって思ったんだ。私こそ直也君が大変な時にそんな思いで話しかけてごめん」
ハハッと僕は笑う。
「俺たちお互い好きだったんだね、なのに照れ隠しなんかして、最初から伝えていればよかったよ。」「改めてだけど瑠美に伝えるよ。」
「ま、まって・・私から・・」と慌てて止める入る瑠美。しょうがないと思って僕が言うことはただ一つ!
「じゃあせーので言おうか!」
「せーの!」「付き合ってください!」二人の声は夕日の中の校舎に静かに響き渡る。
次の日、二人は手をつないで笑いながら登校してくる。
「そういえばさ、直也、キーホルダー見つかった?」
「見つかったよ。で少し言いたいことがあるんだけど」
「何??」と首をかしげる。
「実は、なくしたキーホルダーは鯉のキーホルダーなんだ。祖父に、これを持っていると恋がかなうと言われてたんだ。でさ、今瑠美と付き合ってるやん。鯉のキーホルダーのおかげだと思ってさ。だから、これ瑠美に持っていてほしい」
「いいの?こんな大切なもん」
「いいんだ。鯉が恋のキューピッドだからね」
「何それ~」
家に帰ってすぐに僕は祖父の仏壇に手を合わせた。