表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
麺と列は伸びない方がいい

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/72

69. 巻き戻り一回目


 巻き戻り一回目。午前七時二十二分。


 気づいたら、自分の部屋のマットレスであお向けに寝ていた。もちろん、寝ていたときのスエット姿だ。




「朝……」




 外でスズメが鳴いている。枕元のスマホを見ると、日付は同じだった。




「ったく。何だってんだよ」




 眠気はないので、すぐに起きられる。とりあえず、巻き戻る前のことを思い出そうと服に着替えながら頭を巡らせた。




「ないな……」




 解決しなければならない事件は何も起きなかった。怜雄とラーメン屋に行き、並んで待ってただそれだけだった。起こった出来事といえば、怜雄が人にぶつかられたことぐらいだ。


 つまり、解決する出来事から見つけないといけない。そして、神の意向通りに解決しなければ、巻き戻りからは解放されないのだろう。


 どうしたものか分からないが、ラーメン屋に関わりがあることには間違いない。再び行くべきだ。一応、なるべく同じ状況を作り出すために怜雄も連れて行こう。




「仁良。怜雄は来たか?」




 自室からリビングに出ると、キッチンに立つ仁良の背中に声をかける。仁良は黒いエプロンで手を吹きながら言う。




「おはよう、備吾。いいや。怜雄くんが遊びに来る予定なのか?」


「いや。昼飯を一緒に食うだけだ。……まあ、まだ随分早いが」


「ちょっと待っていろよ。いま、ミルクパンを作っているから」




 備吾は食べていなかったが、今日の朝食のパンはミルクパンだったようだ。待っている間、リビングのソファに寝そべり、スマホをチェックする。目ぼしい事件があるかもしれない。しかし、近隣での事件はなく平穏なものだ。唯一見つかったニュースは、駅前でボランティアが清掃活動したというものだった。




「朝食が出来たぞ」




 仁良に呼ばれて、備吾もテーブルにつく。目の前には出来立ての湯気が出ているミルクパン。レタスとトマトのサラダ。カリカリに焼かれたベーコン。いつもの牛乳。健康的な朝食だ。


 備吾はミルクパンをひと口かじった。しっとりとしていて、甘みが他のパンより強い。


 朝食を済ませると、スマホで調べる。我竜堂は十二年前に出来たラーメン屋だ。本店から暖簾分けされて、駅の近くにオープンした。


 スープは魚介で取ってあり、ネギ多めのラーメンは老若男女に人気がある。備吾もニンニクは最初から入っていないから好んで食べに行く。


 店主は四十代後半の男で、黙々とラーメンを作っているので声も聞いたことはない。あまり広くない店内で、カウンターのみ。店員も店主を除いて三人ほどが調理とホールを担っている。


 注文は食券を購入する。備吾は大抵、ラーメンと一緒に煮卵を付けていた。


 しかし、巻き戻る前は注文どころか店にも入れなかった。






 約二時間後。玄関のチャイムが鳴る。




「ふごっ」




 ソファでうたた寝していた備吾は、音で目が覚めた。顔を擦っていると、玄関が開く音がする。




「いらっしゃい。怜雄くん。備吾と一緒にご飯を食べに行くんだって」


「あ。はい。そうです。備吾さん、覚えていたんですね。意外です」




 意外は余計だと言ってやろうかと思ったが、巻き戻る前は覚えていなかったので口をつぐんでおいた。代わりにスマホをズボンのポケットに突っ込んで、玄関の方に歩いていく。




「よお」


「備吾さん、おはようございます」


「じゃあ、行くか」




 靴を履くと怜雄の横をすり抜けて、雑居ビルの階段を下りていく。




「え。まだ、十時前ですよ。お昼には早くないですか」




 困惑している様子の怜雄が後ろからついてきた。だが、無視して雑居ビルを出ると駅の方に足を向ける。




「ラーメンだから大丈夫だ。それに店が開いて一番だと、列も少ない。待ち時間が少ない方がお前もいいだろ」


「そうですけど。……朝ご飯食べて、そんなに時間も経っていないのに食べられるかな」




 文句がありそうだが、聞くわけにはいかない。何しろ巻き戻りの原因が何も分かっていないのだから、行ってみないことには始まらないのだ。




「着いた」




 巻き戻る前には赤い暖簾がかけられていたが、開店前の店には暖簾がない。時間を見ると開店の五分前だった。




「少しですけれど、もう並んでいますね。本当に人気の店なんですね」




 店の前には三人ほど男性が並んでいた。きっと常連客で、店が混む前に食べるつもりで来たのだろう。備吾と怜雄も後ろに並ぶ。


 前の男性たちの話し声が聞こえて来る。




「このところ店長は元気がないよな。どこか病気じゃないだろうか」


「そうか? いつもと同じで黙々と作業していたけれど」


「いや、麺を湯切りするのに前みたいな勢いがない気がするんだ」


「そんな細かいことよく見ているな……」




 備吾はよい情報を仕入れたと思った。もしかしたら、この巻き戻りは店長の不調が何らかの関係があるかもしれない。その原因を突き止めることがひとつのきっかけになる。とりあえずの取っ掛かりは見つかった。


 そろそろ開店時間だ。店員が出て来て赤い暖簾をかける。




「先頭のお客様からどうぞ」




 順番に店内に案内される。四番目と五番目に並んでいた備吾と怜雄も待つことなく、店内に入っていく。


 そのまま、備吾の世界は反転した。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ