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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
麺と列は伸びない方がいい

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68.  特に予定がなかったはずの日



 この日、備吾はスズメの鳴くわずかな声で目が覚めた。今日は特に予定はない。そのまま、マットレスの上でゴロゴロとまどろみの中を過ごした。


 目を閉じ、ひと眠りすると、仁良の声で再び目を覚ます。




「起きろ、備吾。怜雄くんが来たぞ」


「うーん、怜雄?」




 なんで怜雄が自分を尋ねてくるのだろうか。




「昨日約束したって言っていたぞ」


「昨日? ああ……」




 学校から帰って来た怜雄にたまたま道端で出会ったのだ。コンビニ弁当の袋を提げていた。母親がいなければ、買って食べるしかないそうだ。仁良の料理を食べるかと尋ねようと思ったが、それよりも外食をすることの方があまりないだろう。そう思って、ラーメンを食べに行こうかと誘ったのだ。




「へえ。珍しいな、人付き合いの苦手な備吾が」




 話を聞いた仁良はにやにや笑っている。備吾はケッと言って立ち上がった。




「着替えるから出て行けよ」


「ああ。怜雄くん待っているからな」




 仁良が出ていくと、備吾は白いTシャツとデニムに着替える。黒いキャップも手にして尻のポケットに突っ込んだ。


 部屋からリビングに行き、そのままキッチンの冷蔵庫に向かう。備吾専用の牛乳を取り出して、コップに注がずに口をつけて飲んだ。パタンと冷蔵庫のドアを閉める。




「行儀悪いと思います、備吾さん」


「ぶはっ!」




 思わず口の中の牛乳が飛び出た。




「なんでそこに立っているんだよ!」




 怜雄がすぐ冷蔵庫の横に立っていたのに気づかなかった。




「待っている間、仁良さんにパンをごちそうになったので、お皿を洗っていたんです」




 冷蔵庫の隣は食器を洗うシンクだ。ただでさえ気配の薄い怜雄が背を向けていたから気づかなかったのだろう。




「じゃあ、もう満腹か?」


「いえ、一個だけだったので。満腹という程じゃないです。起きるのが遅かったですけれど。備吾さん、昨日は夜遅くまで仕事だったんですか?」


「いや。昨日は調べものを軽くして早めに……」




 言いながら、備吾は何だか取り調べを受けているような気分になった。怜雄を見ると、何か探るような目をしている。そういえば、怜雄には自分の職業を当ててみろと言っていたのだった。




「お前、探りを入れているな」




 すると、怜雄は視線を逸らす。




「備吾さんが教えてくれないなら、自分で考えるしかないじゃないですか」


「まあ、いいけどな。俺はお前が探りを入れているつもりで話すから」


「……普通に教えてくれてもいいのに」


「とにかく行くぞ。仁良はどうする?」




 備吾は振り返って、リビングでくつろいでいる仁良に声をかける。




「ああ。俺はいいよ。今日はミートソースのストックを作るつもりだから」


「そうか」




 つまり、今夜はミートソースを作った料理になるのだろう。昼にラーメンを食べても問題なさそうだ。


 備吾と怜雄は雑居ビルを出て、駅の方へと歩いていく。




「怜雄は駅の近くの我竜堂(がりゅうどう)は行ったことあるか」


「いえ、初めてです」


「この時間だと、並んでいるな」




 目的の我竜堂に着くと十人ほどの行列が出来ている。暑いが建物の影になっているので、耐えられないほどではないだろう。




「たぶん三十分ぐらい待つけど大丈夫か」


「ええ。俺は大丈夫です。でも、意外ですね。備吾さんこそ、行列に並ぶのは嫌なタイプじゃないですか?」


「ここの魚介スープが美味いんだよ」




 我竜堂は最近出来たラーメン店だが、備吾は気に入っていた。麺は中太麺で程よい弾力があり、スープはあっさりなのにコクがある。なによりニンニクを使っていないところがいい。


 二人は大学生の男女二人組が並んでいる後ろに並んだ。なんとなく世間話をする。




「高校、始まったんだよな」


「そうです。でも夏休みも、補講があったからそんなに高校も久しぶりって感じじゃないです」


「補講なんて面倒なことよくやるな」


「一応、進学校ですので……わっ」




 怜雄が突然前のめりに倒れ組んでくる。大きな衝撃ではなかったからか、つまずく程度で済んだ。




「え。あ、すみません」




 怜雄の後ろにはポロシャツを着た中年男性が背を向けていた。どうやら後ろ向きに話していて怜雄にぶつかったようだ。怜雄も一瞬驚いていたが、すぐに頷く。




「大丈夫です」




 中年男性と連れの女性はそのまま列に並んだ。


 前に並ぶ大学生たちがスマホを見ながら大きな声で話す声が聞こえる。




「ここのラーメン屋、ブログでめっちゃ美味いって書かれていたけど本当だと思う? あんま信用できないブロガーなんだよね」


「じゃあ、何で来たの?」


「食ってみて不味かったら、ブログに文句言ってやろうと思って」


「えー、なに? 暇人じゃん」




 確かに暇人だし、これだけ行列が出来ているのだから、やたら不味いということはないだろうにと備吾は心の中で思う。


 しばらく、手持ち無沙汰で列に並んでいたが、順番が回ってきた。店員に案内されて、店内に入る。――いや、入ろうとしたときだ。


 一歩、足を店に踏み入れようとしたときに世界が反転する。




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