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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
本食う虫も好き好き編

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64. 巻き戻り二回目 三日目


 次の日。巻き戻り二回目の三日目。


 どうしたものかと、朝食のクルミパンをかじりながら思案する。


 脅迫文の犯人は分かったようなものだ。ただ、全く話が通じない。果たして、昼間の富丘に話して素直に白状するだろうか。


 いぶかしみながらも、備吾は鶴の様子を見に行った。


 居間で出された麦茶を傾けながら尋ねる、




「なあ、お鶴ちゃん。どうだい、昨日はよく眠れたかい?」


「ああ……。備吾ちゃん。わざわざ来てくれてありがとうね。それがね。昨日の夜は風が強かったのか、何かが飛んでぶつかるような音がしてよく眠れなかったの」




 鶴の疲労の色は濃い。富丘が遠慮なく暴れていたからだ。




「そいつは大変だったな。今日は多く昼寝をするといいさ」


「そうね。そうしようかしら」




 鶴とは簡単に話しただけで、よく休むように言い渡してその場を去る。その足で、裏手の家へ向かった。


 富丘の家は和風ではない。横に並んだステンレス製の塀で囲まれていた。玄関も黒く大きなものだ。横に設置されている呼び鈴を鳴らす。




「はい。おや、備吾さんじゃないですか。少々お待ちください」




 何気ない声の調子だった。昨夜は備吾が来たとは認識していないのだろうか。眼鏡を外していて、興奮していたからその可能性もある。




「どうかしましたか。あ、もしかして裏のおばあさんに何か……」


「ああ。実は昨晩のことで尋ねたいことがあってな」


「ここは暑いですので、中へどうぞ」




 どうにかして中に入って証拠を見つけようと思ったが、富丘の方から招き入れる。玄関も広々としていた。スリッパを用意されて履いて中に入る。


 廊下を少し歩いてドアを開けると、昨日庭から見たリビングだ。大きな窓が奥にある。暗くてよく見えなかったが、ダークブラウンの家具で統一されていた。


 大きなテレビにガラスのテーブル、L字型のソファが並んでいた。




「いま、冷たい飲み物を」


「いや、お鶴ちゃんのとこで貰ってきたからいい。それよりも、聞きたいことがあるんだ」




 備吾は壁の一面に置かれている本棚の方へ向かう。




「ここに置いてある本はどうしている」




 富丘は丸眼鏡のフレームを持って上下させる。




「どう? 普通に時間があるときに読んでいますよ。二階にも書斎がありますから、ここは一部ですね」


「読み終わったあとは?」


「そうですね。処分することはあまりありませんが、もし気になる本があれば差し上げますよ」




 富丘は備吾が蔵書を見に来たと思ったようだ。備吾は本のタイトルを一通り眺めると、富丘を振り返る。




「……昨晩、お鶴ちゃんが不審な物音を聞いた。どうやらこの家からだったようだ」


「裏のおばあさんが」




 富丘の笑顔が初めて消える。




「昨日、何をしていた」


「ゴミを処分するために庭で分解していました。すみません。静かにしていたつもりでしたが、どうやら騒がしかったようですね。あとで謝っておきます」


「ゴミを処分だと?」




 破いた本はゴミのような本だと言いたいのだろうか。




「そのゴミは本当に捨てるのか?」


「ええ。もちろん。もう使い物になりませんから」




 富丘は微笑むがまるで作り物のマネキンが笑っているように思えた。




「ゴミを見せてくれないか」


「……さすがにそれは。お話は済みましたね。お帰り下さい」




 近づいてきて備吾の背中を押す富丘。やはり力が強い。


 夜でさえ、敵わなかったのだ。昼間では備吾は常人以下の体力しか持たない。




「分かった。帰るから押すな」




 大人しくリビングをあとにする。ふと、もう一度本棚を振り返った。そこにはもちろん本が並んでいる。


 少しおかしい。昨日見たボロボロにされた本は、確か文庫本だった。ここにあるものは全てハードカバーの単行本だ。文庫本は他の場所にあるのだろうか。


 なぜ、ゴミとして破り捨てるのに文庫本なのだろう。ただの偶然か、それともやはり選別されたゴミなのだろうか。例えば気に入らない作家とか――




「備吾さん?」




 富丘に呼びかけられた。いつまでもここに居ては、その気に入らない作家の仲間入りしそうだ。


 今度こそ、大人しく富丘邸をあとにした。


 それから四日。何かと証拠を掴もうと、夜中は富丘の家の庭を見張っていたが、何かが起こることもなく朝を迎える。


 事件は進展することなく、また一週間前に戻るのだった。





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