62. 巻き戻り一回目 PM1:03 その2
インターホンを鳴らすと、すぐに鶴はすぐに出て来た。
「暑いのにごめんなさいね、備吾ちゃん。すぐに上がって」
「ああ。それより先に、お鶴ちゃんにプレゼントだ」
備吾は少し身体で隠していた花束を差し出す。
「あら! まあ、素敵! ひまわり!」
やはり少女のように顔をほころばせて喜ぶ鶴。鈴華が選んだのは小ぶりなひまわりの花だ。それに白い花が添えられている。
人間は年を取ると忙殺されて、恋心というものを忘れていくことが多い。だが、鶴のように老人にまでなるとふと恋心を取り戻すことも多いことも事実だった。
「おじいさんと夏になるとひまわりを植えたのよねぇ」
鶴は本当に嬉しそうに眺めている。しかし、このままここに居ては暑さで参ってしまうのは鶴の方だ。
「お鶴ちゃん。そろそろ、麦茶でも一杯ごちそうしてくれないか」
「そうね。さあ、入って」
備吾は居間に通されて、冷たい麦茶を目の前に置かれる。鶴がひまわりを花瓶に飾っている間に、何か家の中に異変はないかと見渡すが特別何もない。
向かい側に鶴が座ると、備吾は身を起こした。
「なあ、お鶴ちゃん。昨日、よく眠れなかったんだって?」
「あらやだ。仁良ちゃんね。実はまた近所の犬が吠えていたの。それだけなら、いつものことだと思ったんだけど……」
「他にも何かあったのか?」
「……それがね。犬ではなくて、妙な物音が聞こえて。何か大きな鳥でもいるような、バサッバサッとした物音なの。でも窓を開けるのも怖くて。布団の中で震えるしかなかったのよ」
「それは、怖かったな。お鶴ちゃん」
目の前の鶴はしょんぼりとしぼんでいる。おそらく不気味な声が聞こえて、脅迫文のことを思い出したに違いない。そうなると、脅迫文も意味のあるものだったのだろう。ただのでたらめではない。
備吾は家に帰ると、仁良に告げる。
「これから夜はお鶴ちゃんの家の周辺を見張ることにした」
「そんなに怖がっていたのか、鶴さん」
鶴は花を渡したからか、すぐに忘れたのか分からないが、話しをした後は元気そうにしていた。
ただ、間違いなくヒントは夜にある。
この日の夜から、備吾は鶴の家の屋根で過ごす。備吾と夜は常に共にある存在だ。大して苦でもなかった。
しかし、それから三日経っても何も起こらなかった。




