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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
本食う虫も好き好き編

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60/72

60. 巻き戻り一回目 PM12:13



 午後十二時十三分。


 鶴の家は川向うの住宅街だ。雑居ビルがある側は店も多く栄えている。住宅街は公園や個人の店があるぐらいで穏やかな雰囲気だ。


 鶴は橋を渡ると、川上の方へと足を向ける。そちらは新しく開拓された川下の土地より、昔から住んでいる人々が多く住む土地だ。川下よりも高級な住宅が多い。


 鶴の家も風格がある和風の造りをしていた。純白の壁に四方を囲まれ、黒々とした瓦屋根が見えている。門はモダンなものに変えられているようだが、中に入ると松が植えられた庭が広がっていた。




「広いな。ここにお鶴ちゃん、ひとりで住んでいるのか」


「そうよ。一応、平屋なんだけど、子供たちはみんな独立しちゃって。たまにしか、様子を見に来ないのよ。さあ、入って。ちょうど、昨日作った煮物がたくさんあるの」




 家に入るとやはり一人暮らしの家としては玄関から広々としている。通された居間は畳を変えたばかりなのか、イ草の匂いが香っていた。




「座っていてね。すぐに飲み物を持ってくるわ」


「あ。鶴さん。自分が手伝います」




 台所に向かう鶴を仁良が追いかけていった。備吾はテーブルに着かずに、縁側に向かい庭を見る。やはり立派な日本庭園だが、鶴の趣味なのか小さなバラの鉢植えも置かれていた。




「呪われている、か」




 蝉が鳴き、青い空に巨大な入道雲が湧き上がっている。呪いとは縁遠い穏やかな光景だ。




「まあ、目的があるんだろうな。地上げとか」




 静かで駅もほどよく近く、よい立地の土地だ。高く売れることは間違いない。




「しかし、この文面では悪戯の可能性が高いのでは。この町にもいくつか不動産屋はありますが、こんなふざけたことをするような方には心当たりはないですよ」




 三国巡査の言うことにも一理ある。




「さあさ。たくさん食べてくださいね」




 鶴が大きな器に煮物を持って来た。後ろでは仁良がおにぎりを並べた皿を持っている。この短時間でよく用意したものだ。


 塩が程よくきいた、おにぎりを頬張りながら、備吾は思い出す。




「そういえば、まだあの文字に使っている紙を確認していなかったな」


「ああ。確認するまでもないとは思いましたが」




 三国巡査もおそらく本を切り取ったものだと思っているのだろう。そうだろうとは思うが、確認はしておいた方がいい。




「はいどうぞ。要らないから、どう扱ってもいいわよ」




 鶴が差し出した紙を三人でのぞき込む。備吾が指でとんと机を叩くように指す。




「この怪物の怪の字が剥がしやすそうだな」


「じゃあ、慎重に」




 三国巡査が爪を差し入れると、簡単に剥がれた。




「よし。裏の文字は……、愛ですね。だからなんだと言うわけではないですが」


「まあ、偶々だろうな。だが、この紙質で裏にも同じ字体の文字があるとやはり小説を切り刻んで脅迫文を作ったんだろうな」




 仁良が再び煮物に箸をつけ始める。




「どうして、小説なんだろうな。新聞紙でも雑誌でもチラシでもない」


「まあ、どれも手に入れる手間は関係ない。インパクトを狙うなら新聞の見出しのデカい文字を選んだ方が衝撃も大きそうだ。だが、そうしなかった。あまり新聞では出てこないような文章にしたかったから小説なのか。……いくら話しても憶測の域を出ないがな」




 備吾は二つ目のおにぎりを手にする。犯人を捕まえるのは難しいかもしれない。なにせ巻き戻る前は、脅迫文が届く以外は何も起きなかったのだ。ただ、鶴が怯える姿が見たかっただけなら、巻き戻ったりはしないだろう。




「話していても解決しないでしょう。自分は鶴さんのお宅を定期的にパトロールするようにします。お二人もなるべく声掛けや訪問をするようにしてください」


「あら。悪いわ。お巡りさんはお仕事かもしれないけれど、仁良くんや備吾ちゃんはやることもあるでしょう」




 遠慮する鶴だが、そういうわけにもいかない。こちらは時の牢獄から出られるか出られないかの瀬戸際なんだ。




「気にしないでくれ、お鶴ちゃん。やることと言っても急ぎじゃないんだ。それに警護をすると言っても一週間かそこらだからな」


「そう? くれぐれも無理はしないでね」




 三人でたくさん用意された煮物とおにぎりを平らげた。






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