59. 巻き戻り一回目 AM11:30
午前十一時三十分。
交番は小椋探偵事務所の入っている雑居ビルからあまり遠くない。とはいえ、この季節は五分と外を歩けば汗だくになる。交番の中はさすがに涼しいのが救いだ。
「すみません。相談したいことがあるのですが」
相談主の鶴がカウンターの机越しに話しかける。
「はい。こんにちは。何か困りごとですか?」
背の低い青年が爽やかな笑みを浮かべて振り返った。
「やあ。三国くん」
「あれ? 仁良さん。また落とし物ですか?」
どうやら、以前言っていた警察の知り合いとはこの青年のようだ。
バスジャックのとき警察が仁良の通報で何台ものパトカーが動いた。
仁良同様に人の良さそうな青年がそれだけの警察を動かせるとは思えないが、何かパイプがあるのかもしれない。
「いや。この町に住んでいる鶴さんが交番にお願いしたいことがあるんだよ」
「そうなの。実はポストにこんなものが入っていたんです」
鶴は三国巡査に茶封筒を渡す。広げるとすぐにプルプルと手を震わせる。
「な、なんですか。これは!」
あまりの大きな声に思わず備吾は耳を塞ぐ。
「そう騒ぐなよ。脅迫文だろ。どう見ても」
「脅迫文だから騒いでいるんじゃないですか! あと、あなたは誰ですか!?」
どうやら三国巡査は暑苦しい性格のようだ。
「彼は備吾で、俺の同居人だよ。前に話しただろう」
「ああ。この人が。しかし、ですね。これは由々しき事態ですよ。町のおばあさんにこんなものが届くなんて。とにかく、こちらでお話を聞きましょう」
対面していた机の横から奥へと入る。机と椅子だけがある個室に通された。三国巡査と仁良、備吾と鶴で向かい合わせに座る。
「では、詳しく聞かせてもらいましょう」
三国巡査は専用の紙に調書を取り始めた。
「そうね。この手紙がポストに入っていたのは昨日の朝のことなの。いつも通り、朝の散歩に出ようとしたら……」
鶴は簡単に語り始める。しかし、前日に脅迫文が届いたことと、特に恨まれるような覚えはないことを話した。横で聞いていた仁良が質問をする。
「何か異変のようなものは感じませんでしたか? 些細なことでも構いません」
鶴は首を捻って考え込む。
「そうねぇ。そういえば、この前異様に近所の犬が吠えていたわね。確か三日前くらいだったかしら」
「何か不審な行動をする奴が近くにいたのかもな」
「やだ。怖いわ。備吾ちゃん」
鶴が備吾の腕に手を置く。
「やれやれ、お鶴ちゃんじゃなければ振り払っているところだ」
鶴はこれぐらいなら許されるだろうというのが分かっているような笑みを浮かべた。
「……彼はホストかなにか?」
三国巡査がペンの先を備吾に向ける。
「ちげーよ」
端的に否定しておいた。正解を教える必要はない。
「聞くべきことはこれぐらいでしょう。では、送りがてら自宅の様子を拝見してもよろしいですか」
「ええ、構わないわ。こんなにお客さんが来るなんて久しぶりね」




