54. 巻き戻り三回目~
巻き戻り三回目。
「備吾が張り切ろうぜって言うから、今日は張り切ってかき氷機を借りて来たんだ!」
かき氷は美味いが、立てこもり犯は来ない。
巻き戻り四回目。
「……うん。ちょうどいい塩梅って難しいよな。たこ焼きパーティって」
たこ焼き機を買って来たが、全員たこ焼きを作るのに夢中で花火を見ない。
そもそも、立てこもり犯は現れない。
巻き戻り九回目。
「やっぱ、パーティといえばこれだよな! 季節外れだけど、鍋!」
備吾はその場を去った。立てこもり犯もいなかったし。
巻き戻り十回目。
「もう、回りくどいことは止めにしよう」
「なんだ。起きて来たと思ったら、何を言い出すんだ。備吾」
やはり、仁良は朝っぱらから簡易テーブルを倉庫から引っ張り出している。その背中に向けて思い切りひとさし指を突き立てた。
「お前はバケットを焼くんだ! 手作りのソース付きで!!」
宣言された仁良はポカンとしている。だけど、すぐに顔つきが高揚して来た。
「お、おお! それいいな! ちょうど、花火を見るのに何を食べようかと悩んでいたんだ! あ、花火っていうのはな――」
今夜、隣町で花火大会があることを切々と説明している仁良。その横顔を見て、こんなに興奮させて大丈夫かと心配になってしまう。だが、もうやってしまったことだ。あとはのんびりと怜雄と一緒に立てこもり犯が出たという報告を待つのみだ。
午後三時五十五分。
程なくして、洗濯物を取り込みに行ったはずの仁良は、怜雄を引き連れて家へ戻って来た。
「なるほど。立てこもり犯が屋上に出たと」
今、知ったような口ぶりで言う。これほど言いたかったセリフはない。
「一応、説得してみたんだけど」
「いや、それでは不十分だな。俺が行って来よう」
備吾はすぐに住居スペースを飛び出して、雑居ビルの階段を駆け上がる。屋上のドアを開けようとするが、すぐに何かにつっかえて動かなくなった。
「よし」
立てこもり犯はまだ屋上にいる。
「どうしたんですか、備吾さん。そんなに慌てる必要はないと思いますけど」
下から怜雄がやって来た。確かに屋上には野菜が植えてあるぐらいで、何も貴重なものはない。だからこそ、立てこもり犯の目的が気になった。その目的は時が巻き戻るほどの何かがある。
「おい。そこで何をしている」
怜雄のことは置いておいて、ドアの隙間から話しかけた。返事はない。
「答えないと俺はずっとここに座り続ける」
備吾はむしろドアを通せんぼするように座り込んだ。すると、弱々しい声で返事がある。
「……それが、とても大事なことなんです。すみません」
心の中でだろうなと思う。その大事なことが果たせなかった故に、時が戻ってしまうのだろう。声からして男だろうということだけは分かった。
「何が目的だ」
「……実は火が無くて。少し困っています」
備吾は立っている怜雄を見上げる。
「お前、マッチは?」
「え。も、もう持っていませんよ」
眉をハの字にして困っている怜雄についでに頼みごとをする。
「ライターとか、チャッカマンとか。そういうの買って来てくれないか。金はやるから」
「……はあ」
怜雄は頼みごとが不可解というよりも、どうして立てこもっている人間にそこまでするのかという顔をしていた。それでも、金を受け取って階段を下りていく。
「……ありがとうございます。そんなことまでしていただいて」
火があったとして、屋上で燃やしたとしても、余程のことがなければ火事に刃ならないだろう。それに声は気弱そうで、怜雄ほどの度胸もないように思えた。だから、仁良の説得にもすんなり応じたのかもしれない。
「何があったんだ? 話してくれないか」
「……もうひとつ。要求を聞いてくれるなら、お話します」




