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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
天に咲く編

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53/72

53. ~巻き戻り二回目


 午後七時二十二分。


 備吾は屋上で簡易イスに座ったまま、テーブルに突っ伏していた。




「やっぱり、来なかった……」


「……備吾さん。こんなところで何しているんですか?」




 抑揚のない声に振り返ると怜雄が蓋つきの小さな赤い鍋を持って立っている。中身はおそらく牛タンシチューだ。場所を空けてやる。




「なあ、怜雄。店に立っていて、不審な人間はいなかったか?」




 怜雄は簡易テーブルに鍋敷きを置いて、その上に鍋を置く。




「不審な人? たぶん、見かけなかったかと……」


「そうか」




 ということは、巻き戻る前には立てこもり犯が屋上に来る要因があるのだ。


 ぼんやりと薄暗くなってくる空を見上げる。


 おそらく、自分が動いたことが関わっている。もしかしたら、備吾が怜雄に花火のことを伝えたことが立てこもり犯を屋上に来させなかったのかもしれない。


 普通、そこに雑居ビルの階段があるから上るとは思わないだろう。おそらく、仁良が花火のことについて話していたことを立ち聞きしたのだ。屋上でイベントがあるとなると、そこの鍵がかかっていない可能性が高い。そして、実際に常には閉まっているはずの鍵は開きっぱなしだったのだ。


 ということは、余計なことをしない方がいいということだ。仁良や鈴華、水木も屋上にやって来る。




「備吾。ワイン開けてくれるか」




 どうやら、仁良は秘蔵のワインも開けるつもりらしい。だけど、鈴華が口を開く。




「仁良くん。みんな、飲まないんでしょう。そこまでしなくていいわよ。私もコーラで十分よ」




 仁良一人で飲んでも仕方ないので、結局全員コーラだ。やはり買って来て良かったらしい。牛タンシチューとコーラという両極端な組み合わせで食事をする。そのうちに、花火も上がり出した。やはり大きくはないが、仁良たちは楽しんでいる。


 しかし、備吾は一人、胡坐をかいて思案していた。


 花火は問題なく見られた。これでは巻き戻る前と全く同じだ。巻き戻りが解決する糸口はやはり立てこもり犯が持っているのだろう。


 眠りにつく。そして、また同じ日がやって来る。








 巻き戻り二回目。


 今度は余計なことをしないことにした。仁良が立てこもりによって、住居スペースに戻って来るまで何もしないことにしたのだ。


 だからといって、最低限の口出しをしないわけではない。倉庫から簡易テーブルを運び出している背中に話しかける。




「仁良、お前。牛タンシチューでも作ろうってんだろ」


「え!? なんで分かったんだ!」


「重いからやめとけ」


「お、重い。……重いか……」




 実際は喜ばれるが、それはバケットの場合も同じだった。おそらく、何を用意しても鈴華は喜ぶだろう。ただ、備吾が二回連続で食べたくない。それだけの理由だった。


 おにぎりの朝食を済ませると、部屋にこもって本を読む。


 昼飯に呼ばれると、ボロネーゼのパスタだった。少しおかしいと思う。




「なあ、花火を見るときはどうするんだ?」


「ああ。買って来たお菓子でもつまもうかと思うんだ。うん、軽く」




 言い方がまずかったのか、すごく重いという言葉を気にしているようだ。まさか、市販の菓子にまでレベルを下げるとは思いもしなかった。


 これはまずいと思う。おそらく、仁良は買い物ついでに鈴華か怜雄にでも花火のことを伝えたのだ。それを立てこもり犯が偶然聞いていたに違いない。


 そう偶然だ。偶然だから、話題に出すことが早すぎても遅すぎても聞き逃してしまう。


 それから、数時間後。仁良が屋上に洗濯物を取り込みに行くというので付いていった。案の定、立てこもり犯の姿は見えない。そして、いくら待っても現れなかった。






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