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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
炎の分身編

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35/72

35. 探偵事務所への来客



 午後三時四十五分。


 この日は珍しく、小椋探偵事務所に大勢の人が押しかけていた。


「とういうわけで、探偵の小椋さんにも協力していただきたい。もちろん警察には相談しているけれど、出来れば早めに犯人を見つけてもらいたいんです」


 大勢と言っても、大人の男三人だけだ。スーツの男にツナギ姿の男、普段着の男と共通点は見られない。年齢も五十代から二十代と様々だ。


 仁良は一枚の紙を受け取る。


「これが、この二週間でこの町でボヤがあった場所ですか」


 町の噂は仁良の耳にも届いていた。フラワーショップりんでも、挨拶代わりにボヤがあった話がされるらしいことを聞いている。自主的に夜の町を見回りもしていたが、こうして正式に町の消防団から依頼があるとは思わなかった。


 消防団の一人が代表して説明をする。


「時間も場所もまばらです。ただ、そのほとんどが町内で起きています。今は小さなボヤ程度で済んでいますが、いつ大きな火事になるか。我々は気が気ではありません。猫の手も借りたいほどなんです」


 仁良は地図に目線を落とす。確かにバツ印と共に時間が書かれているが、昼間から深夜遅くまで規則性は見られないように思える。


「分かりました。これまでも見回りはしていましたが、より積極的に動くことにします」


「よろしくお願いします」


 消防団の人々が去ると、町内の地図をテーブルに広げる。


 仁良がボヤのあった場所を見回るルートにしようか、あえて避けて見回るルートにしようかと考えているときだ。


「ふわあぁ……」


 備吾が小椋探偵事務所のドアを開けて入って来た。そのまま歩いてきてソファにぶつかると、そういうおもちゃのように頭からボスンとソファに沈む。


「校ー了ぉー」


 どうやら原稿を本にするための作業が全て終わったようだ。そのことを校了と言うことを備吾と暮らしだして初めて知った。


 ソファに突っ伏したまま、寝息を立て始める備吾。過去の傾向を見ても、この状態になると三日はだらけて過ごす。常にも怠惰な男だというのに輪をかけて締まりがなくなる。


 来客が去ったあとで良かったと仁良はつくづく思う。とりあえず、空き地や林の近くなど燃えるものが多そうな場所を重点的に回ることにする。








 その日から、仁良は朝から深夜まで、昼夜問わず、思いついた際には外出するようにした。昼間はなるべく声を掛けて回る。ボヤの噂はやはり町中に広まっていて、大人しい学生は足早に帰宅し、大人たちは仁良のように見回りをしている姿も見かける。


「大変ね、仁良くん。今日も川沿いの土手で燃えたあとがあったそうよ」


 鈴華も積極的に情報を集めていた。実際に現場を見に行ってみると、やはり小枝を集めて燃やした後があった。ただの焚火のようにも見えるが、見つけた人物の話では後始末もされずに放置されていたらしい。


 仁良だけでなく、何人もの町民が様子を見に来ていた。町全体が警戒している。無邪気な子供以外は全員、張り詰めた空気を醸し出していた。


 ある者は犯人ではないと示すかのように家に直行し、ある者は誰も逃がしはしないと目を光らせていた。


 それでも事件は起きる。


 消防団が小椋探偵事務所を訪ねて、四日後の深夜――。消防車のサイレンが遠くから聞こえて来る。


 仁良はいつでも動けるよう。いつもの寝巻姿ではなく、Tシャツにジャージという姿で寝ていた。起き上がると、自室の窓を開ける。


「近くだ!」


 窓からは煙と共に炎が上がっているのが見えた。二筋奥のアパートに違いない。すぐに向かおうと、部屋を出る。すると、備吾がリビングに眠そうな顔で立っていた。


「なんだ。この音? 火事でも起きているのか?」


「ああ。裏のアパートが火事だ。行ってくる!」


「お、おい!」


 仁良は動きやすいようスニーカーを履いて、玄関を出ていく。階段を滑り落ちるかのように、駆け降りる。そのままの勢いで、アパートへと向かう。


 すでにアパートの周りには人が集まっていた。避難して来たような寝巻姿の人もいる。消防車と救急車はまだ来ていない。悲鳴が満ちている中、仁良は声を張り上げた。


「皆さん! 避難は済んでいますか!?」


「とっ、隣のばあさんが居ない!」


 隣の家の塀にもたれかかっているご老人がせき込みながら叫んだ。すぐに仁良は隣にしゃがみ込む。


「どの部屋ですか」


「一階の一番奥の部屋だ!」


 仁良はアパートを振り返った。火元は二階で真逆の位置にある。高齢で耳が遠く、寝ている状態なら、まだ火事に気づいていない可能性もあった。


「早く非難させないと!」


 仁良は走った。煙を吸わないように腕で口元を塞ぐ。部屋の前はまだ煙も来ていなかった。チャイムを鳴らさず、乱暴にドアをドンドンと叩く。


「起きていますか!? 火事です! すぐに出て来て下さい!」


 ところが、何度ドアを叩こうと叫ぼうと無反応だ。この騒ぎで気づいていないのだから当然なのかもしれない。


「ドアか窓を破るしかないか」


「どけ」


 いつの間にか備吾が隣にやって来ていた。彼も避難に協力しに来たのだろう。


 備吾はドアから少し距離を置く。軽く走り、ドアに向けて豪快な蹴りを繰り出した。バンッと大きな音を立てて、ドアが蹴破られた。


「やった! すごいぞ、備吾!」



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