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怪物たちの再三たる事件簿  作者: 白川ちさと
偽りの真贋編

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26. 巻き戻り二回目 開始


 朝早くから、仁良はパンをこねている。


「おい……。なんでまた、ハンバーグの総菜パンなんだよ」


「あれ? 備吾ハンバーグ、好きだっただろ?」


「……嫌いじゃないが」


 頭を押さえながら、ダイニングの椅子に座る。


 巻き戻り二回目の六月二日。開始。


 備吾は仁良が依頼を受けて来るまで待った。その上で、猫を捕まえるために準備を始める仁良に言う。


「猫が見つかったら教えてくれ」


「……備吾も猫を撫でたいのか?」


「違う!」


 むしろ、お前は撫でたかったのかと思った。


 とにかく、迷い猫を備吾が捕まえてはいけないことが発覚したことは間違いない。強盗範にたどり着く前に元の時間に戻ってしまうのだろう。何が駄目なのか教えてもらいたいくらいだが、都合待つことしか出来なかった。


 巻き戻る前のように、ダラダラして毎日を過ごす。


 変化があったのは六月八日だった。


「今日は何かあったか」


 何日も見張っているのも退屈なので、夜に夕食を食べに帰って来たときに話を聞く。小学生の母親でもあるまいしと思いつつ、こうする以外に方法はない。


「実は……」


 あまりに暗い顔に猫のココちゃんは野良猫に襲われて、死んでしまったのかと思った。しかし、そうではなかった。


「壺が」


「壺?」


「青い壺で、……韓国の」


「高麗青磁の壺か。確かに韓国での伝統工芸ではあるな。独特な釉薬で淡い青緑色が特徴的だ。日本ではあまり見かけないが、それがどうした?」


「割ったんだ。おじいさんが持っていて、罠を仕掛け終わって立ち上がったときにぶつかってしまって……」


「そうか……」


 道理でしぼんでいるはずだ。だが、壺を割ったなら賠償しなければならないだろう。まさか、その金を作るために強盗を働いたのではと勘ぐる。


「骨董商のおじいさんで、これがその残骸」


 取り出したビニール袋にはバラバラになった青磁の欠片が入っていた。


「で、いくらだって?」


「二百万円……」


「これが? 吹っ掛けすぎだろ」


 相場など知らないが、元は小さな花瓶のように見える。どう考えても高すぎた。


「確かに高いけれど、割ったのは事実だ。とりあえず、一週間は待ってくれるらしいが」


 これから一週間というと、ちょうどコンビニ強盗が起きたときと同じタイミングだ。まさかこれが原因でと思わざるを得ない。


 しかし、二百万円程度で強盗をするなど、非効率極まりない。今時コンビニに現金がそれほど置かれているとも思えない。それに、仁良なら強盗をするくらいなら、夜逃げを選択しそうなものだ。


 とはいえ、他に強盗の当てはない。仁良を見張る他なかった。


「まあ、現行犯逮捕出来るのが一番なんだが」


「ああ。ココちゃんのことか? それが、全く罠にかからなくて……。あと三日で約束の期限だ。まあ、やれるだけのことはするさ」


 ここで金策に走らないところが仁良らしいだろう。







 巻き戻り二回目の六月九日。午前九時四十五分。


 朝から猫のココちゃんを探しに行くと言うので、備吾もついていくことにする。


 どんなに強盗に関わりはなさそうと言っても、逮捕されたのは仁良だ。何かしら関連があるに違いない。動きがあるなら、そろそろ何かあってもいい頃だ。


 二人で雑居ビルの階段を降りていく。


「あ、こんにちは。小椋さん、そちらの人は初めましてですね」


 室谷が店先の花を整えていた。


「ああ。そうか、初めましてか」


「鈴華さんに俺のこと聞いていたんですか? 新しいアルバイトの室谷です」


 備吾のつぶやきに室谷はそう判断したようだ。まさか、もう何度も過去に会っているとは思わない。仁良は柱に貼っている張り紙を指さす。


「室谷くん。あの猫、見なかったかい?」


「いやー。一応、狭い路地とか覗いてみているんですけど、さすがに見かけないですね」


 ハハハと笑いながら、頭を掻く室谷。そんなことでは、あの警戒している猫は見つからないだろう。


「すみません」


 そこに客がやって来た。へらへら笑っていた室谷が営業スマイルを浮かべる。


「はい。いらっしゃいませ」


「鈴華さんはいらっしゃいますか」


 客のことを備吾は知っていた。確か高級レストランのシェフだ。レストランに飾る花を選ぶことにかこつけて、鈴華にアプローチしている。


「すみません。店長は配達に出ています。御用でしたら、自分が聞きますよ」


「じゃあ……」


 鈴華がいないせいか、シェフの表情は沈み、とても花を選びに来たようには見えなかった。開店時間があるから後でというわけにもいかないのだろう。


「行こうか、備吾」


「ああ」


 公園の方へと歩み出す。すると、前から見覚えのある顔が歩いて来る。高級スーツに身を包んだIT会社の社長だ。すれ違って少ししてから振り返ると、やはりフラワーショップりんに入っていく。鈴華は不在だというのにご苦労なことだ。



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