ブルーズ
ラフィが最後の敵兵を撃ち抜いた瞬間、音楽が盛り上がりきったサビで止まった。
「Are you gonna be my girl!」
その余韻が空間にこだまする中、武器庫を満たしていた熱がすっと冷えていく。
金属片が床に転がる音が、やけに大きく響く。
燃え残る火薬の匂い、ゆらめく煙のカーテン。
耳元のヘッドホンも沈黙し、MUSE ですら言葉を飲み込んでいる。
緊張と静寂が交わるその空間に、足音が割り込む。
コツ、コツ、コツ――。
どこかリズムを刻むような、余裕のある足取り。
金と紫のスーツに身を包み、まるで舞台役者のような男が姿を現す。
「へぇ……」
ブルーズだった。
戦場に散らばる敵兵たちを鼻で笑いながら、宝石を散りばめたアサルトライフルを片手で軽々と担ぎ上げる。
「ずいぶんと派手にやってくれるじゃねえか。いいぜ、お嬢ちゃんよ。」
ラフィは焼けた弾薬の匂いを背負いながら、静かにショットガンを構える。
「「あなた、何者?」
挑発的な笑みを浮かべるラフィ。
だがその眼差しは鋭く、ブルーズを正確に射抜いている。
「気に入ったぜ。」
ブルーズは口元を歪め、イヤリング型のスピーカーに触れる。
指先でリズムを刻むように弾くと、空気の中にわずかな震えが走った。
彼は余裕たっぷりに、肩をすくめる。
「オポールのリズムとファンクを背負ってる男……ブルーズだよ。」
ブルーズはにやりと笑い、ギラつく成金アサルトライフルの銃身を撫でるようにして見せる。
「この街じゃ俺がビートで法律を刻む。ここは俺のダンスフロアで、俺が DJ ってわけだ。」
軽く銃を片手で回しながら続ける。
「この“Uptown Funk”が鳴り出したら、何もかもが俺のリズムになる。逃げ場はねぇぜ、お嬢ちゃん。」
そう言いながらブルーズは銃を片手で翻し、わざとらしく大きな音を立ててコッキングレバーを引いた。
重厚な金属音が響き渡り、弾丸が薬室に叩き込まれる感触が戦場の空気を震わせる。
その動作さえもリズムに乗せるように、ブルーズは小気味よく銃身を跳ね上げる。
「チャンバーにビートを詰め込んだら……いよいよ開演だ。」
銃が応えるように低く唸り、まるで楽器が調律を終えたかのような響きが戦場に広がった。
その言葉を合図に、耳元の MUSE が短く告げる。
『楽曲侵入。』
一瞬の静寂のあと、戦場の空気が弾け飛ぶ。
「アーーーーーオ!」
炸裂するようなシャウトが耳を貫き、塔内にこだまし、ブルーズが笑みを深める。
肩にかけた「Uptown Funk」が、陽炎のように歪んだ熱を帯びていく。
「まずはご挨拶代わりだ!」
ブルーズが片手で銃を持ち上げ、引き金を引いた。
重い動作。だが、その分だけ確かな手応えと破壊力が感じられる。
バンッ!
空気が押しつぶされるような重い銃声。
まるでベースドラムが一発鳴り響いたかのように、腹の底に響く。
『単発モード。高威力弾使用。弾道予測:初速750メートル毎秒。』
「一撃が重いわね……!」
ラフィは跳ねるように身を翻す。
撃ち出された弾丸がすぐ脇を掠め、塔の鉄柱を粉砕した。
鉄骨が引き裂かれる金属音がこだまし、火花が散る。
「だけど、それじゃ当たらないわよ!」
ラフィは壁を蹴って宙を舞い、天井の配管に飛びついた。
体を一回転させながら、逆さまの姿勢でブルーズにショットガンを向ける。
ブルーズはすでに次弾を装填し、わずかにリズムを刻みながら引き金を絞った。
バンッ!
重い銃声がラフィの耳を打つ。
だが彼女は身をねじるようにして弾道を外れ、配管から飛び降りざまに反撃の一撃を放つ。
ズドン!
ショットガンの銃声がブルーズの銃撃と重なり、ファンクビートのように塔内に響き渡る。
「ノッてきたな!」
ブルーズが愉快そうに吠え、銃身を少し傾けた。
リズムに合わせて、弾を込めては撃つ、込めては撃つ。
バンッ! バンッ! バンッ!
それはまるで戦場を叩くリズムセクション。
一発一発が重く、響き渡るたびに空間が震える。
『弾道リズム解析中。敵の発射間隔、およそ1.04秒周期。』
「つまり……その隙を狙えってことね!」
ラフィは敵弾が空気を裂く間を見計らい、スライディングで接近。
地を這うように滑り込みながら、転がる金属片を拾い上げ、盾代わりに前方へ投げつけた。
ブルーズの弾がそれを貫き、火花を散らす。
ラフィはその瞬間、無駄なく体勢を整え、ショットガンを再装填する。
ブルーズがにやりと笑う。
「その余裕がいつまで続くかな?」
そう言いながらも、銃撃のテンポをわずかに上げる。
バンッ! バンッ! バンバンバンッ!
拍が早くなる。
戦場のビートが熱を帯び、次第に加速していく。
『警告。射撃リズムに変化。連射モードへの移行を検知。』
MUSE の声が響いた瞬間、ブルーズが銃口を跳ね上げ、音楽のサビに合わせてトリガーを絞り続ける。
重低音が連続するファンクビートと融合し、戦場が一気に沸き立った。
「踊れよ、お嬢ちゃん!!」
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