第一監視塔
旧工場地帯を睥睨するように建つ第一監視塔は、本来の軍事施設の枠を超え、異様な輝きを放っていた。
塔全体に金属光沢が広がり、ところどころに贅沢な金箔が無造作に貼り付けられている。曇天の下でもネオンが妖しく光り、夜ともなれば塔全体が巨大な宝飾品のように闇を照らす。
企業の巨大なエンブレムが壁面に彫り込まれ、下から見上げる市民たちを威圧していた。まるでこの塔そのものが「支配の象徴」であり続けることを誇示するように。
入り口の門は過剰な装飾が施され、無意味なまでの豪華さで輝いている。近隣の住民たちが嫌悪のまなざしを向けても、その輝きは街の荒廃を物ともせずギラつき続けた。
内部に目を移せば、装飾の悪趣味さはさらに際立つ。
床には赤い絨毯が敷かれ、壁面の金箔の間には企業の標語と反抗者たちの顔写真が飾られている。壁際には無駄に高級なワインラックや、飾り物と化した武器が陳列され、支配者の余裕がいやというほど漂っていた。
その中枢、大広間のガラス張りの部屋で、幹部ブルーズは気だるげにソファへ沈み込んでいた。
真紅のスーツに身を包み、金のチェーンを胸元で輝かせる。
膝に置かれた愛銃「Uptown Funk」もまた、成金趣味の極みだった。艶めく金属の銃身に宝石が散りばめられ、黒革のストックは重厚でありながらどこか舞台道具めいて派手だ。マガジンに込められた弾丸ですら黄金色で、銃そのものがひとつの美術品として成立していた。
ブルーズは退屈そうに指で銃身を叩き、鳴った金属音の余韻を楽しむ。
「退屈だなぁ……」
塔の外を眺めると、灰色の空の下でスラムの民たちが小さく蠢いているのが見える。今日も瓦礫の山を掘り返し、明日食うものを探す彼らの姿は、ブルーズにとって心地よい「支配の景色」に過ぎなかった。
「ネズミどもは変わり映えしねぇ……こっちが手ぇ叩くまで踊りもしねえ。」
言葉とは裏腹に、ブルーズは満ち足りたように薄く笑う。
何も起きない日常。何の抵抗もないまま続く支配。
それこそが、彼にとって至福の時間だった。
「……だがまぁ、サプライズってやつは忘れた頃にやって来るから面白ぇのさ。」
軽く鼻を鳴らしながら、銃を肩にかつぎ上げる。
銃の重量感が心地よさそうにブルーズの手に馴染む。
「たまには音でも鳴らしとくか。」
そう言って指を弾くと、片耳のスピーカー型イヤリングが小さく震えた。そこから漏れるリズムに合わせるように、Uptown Funk の機構がわずかに共振する。
だが、その飄々とした男はまだ知らなかった。
塔の外れ、瓦礫の影で、ひとりの少女が静かに機会を窺っていることを。
その怒りと決意が、間もなくこの塔を揺るがすということを。
このときブルーズはまだ、「いつも通りの退屈な一日」が終わるとは微塵も思っていなかった。
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