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ソシャゲでスタミナドリンク売ってる女の話

「じよう、きょうそう」


扉を叩いた後、女が声を震わせながらも張る。


陽はとうに暮れていた。


ギシカラル城下町の外れにある石造りの家の前。

玄関に生い茂る薬草たちが不穏な夜風に吹かれ、かさ、かささ、と音を立てながら無表情で揺れている。


薄汚れ、ところどころ破れた服を着て痩せた、そのくせ胸だけは豊かないかにも貧しそうな女が小瓶がいっぱいに入ったカゴを持って佇んでいた。


女は少しためらった後、先程より強く扉を数回叩いて更に声を張り上げる。


「じようきょうそう」


反応はない。


はあはあと震えながら女は目を泳がせたが、更に強い力でどんどんどんどんどん、と扉を叩いて叫びに近い声で放つ。


「じようきょうそうー!!!!!」


ほとんど泣き出しそうな声色だった。


ふぅ、ふぅー、と俯いて肩を上下させた後、女は意を決したように顔を上げると扉を叩きながらやけになったように叫んだ。


「じようきょうそう!じようきょうそう!!じようきょうそう!!!じようきょうそうー!!!!」


家の中からどすどすと足音が近づいてくることにも気づかず女は扉を叩き続け同じ文言を繰り返す。


「じよ」


ギッと嫌な音をさせて、扉が開いた。


痩せて背の高い、白衣を着た一重で三白眼の男が怪訝そうに女を見下ろしている。


「……じよう、きょうそう」


女は怯えながらもしっかり男の目を見て言った。


「帰れ」


毅然として言い放ち、男が扉を閉めようとするとすんでのところで女は慌てて扉を引っ張ってそれを止める。


「じようきょうそう、」


先程よりも強い力で扉を閉めようとするも女も負けじと扉を開ける。


「じようきょうそう」


扉を閉めようとするがまた止められる。


「じようきょうそう!」


苛立って扉を更に強い力で閉めようとするが、


「じようきょうそう!!」


止められる。


溜息をついて本気の力で扉を閉めにかかるも、


「じようきょうそう!!!」


「その細腕でなんて馬鹿力を出すんだお前は!?滋養強壮とやらの賜物か?!」


またも止められた男は遂にそう叫ぶと女を手で押しのけて扉を閉め、鍵をかけた。


息を荒らげながら女は扉に向き直り、声を張り上げて身振り手振りをつけながら何やら突然語りだす。


「じようきょうそう、じようときょうそうなんです。

あの、あの、力は!時が経たねばかいふく、しませんよね!?

ですが、これ、この瓶!瓶に入った水…水?薬!を、飲む、飲むんですよ、そうします!と!まあ!すぐさま!力が!かいふくするんですよ!

石…なん…なんか石…虹色だとかいう…虹色をしているらしい!きちょうな石があるらしいじゃないですか、きちょうな石を砕いてもたしかにきちょうな石がなんかして力がかいふくするとは言います、ですが!!

きちょうな石は、きちょうなものですから、使いたく、ないですよね!使いたくないと思うんです!なにせきちょうな石は、違う時空のつよい戦士さまや、りっぱなホムンクルスをしょうかんできるとのことですから!まあ使いたくない!

そこで!!この薬を飲むんです!すると……

…わ…わあー!!力がー!!いっぱいだあー!!やったあー!!かいふくしたぞー!!

…と!!なるわけ!!なるわけ、なんです!!

これが、たったの1500マニーで買えるのです、とてもとてもきちょうな…いこく?いせかい?のおカネを使わないと手に入らないあの、ありがたい、なんか虹色だとかいう、きれいな石を砕かずとも、力がみなぎるのです!!!

…す、すてきー!!わたしも、ほしー…」


言い終わる前にガチャガチャと荒々しく鍵が開き、扉が開いた。


「回復薬売り、ご苦労なことだな。まあ冗長にべらべらだらだらと」


先程の白衣の男が精一杯怒りを抑えた声で言い放つ。


「マスター」


何事かと思ったのか、奥から能面のように無表情なメイドが主の様子を伺いに来た。


「アイリス、寝てていいよ」


打って変わって優しい声で男はメイドに下がってよいと伝える。


「じようきょうそう、つくんです、つくんです」


女は遂に男の服の裾を掴んですがりだした。


「教えてやろう、私はお前の言う石…虹水晶を2500個使って召喚できるホムンクルスを作っているんだ。錬金術で」


男はギシカラル王室に認められた5人の錬金術師のうちの一人であった。


「…れんきんじゅつ」


錬金術師は髪をかきむしりながら続けた。


「ああー、とにかくその召喚に必要な何十倍もの石を頂戴してホムンクルスを提供しているわけだ、ゆえ私は2500個も石を砕く必要もなければ天井まで石を溶かして(イェン)を支払うこともない、野猿のように戦って遊ぶことなどもないからホムンクルスもいらん、というかホムンクルスくらい欲しけりゃ自分で好きなのを錬成する」


先程のメイドがまた顔を覗かせて、錬金術師と回復薬売りの方を見つめている。


「そういうわけだ、帰れ」


「じようきょうそうは、よいものです!!!!」


聞いた事もない言葉をいちどきに浴びせられた回復薬売りは、混乱に混乱しわけもわからず男の腕を掴んで売り文句を叫んだ。


「私が丁寧に語ってやった労力を返せ!!!!!!」


錬金術師の怒号が響く。


「春が始まる頃の野辺のように温厚で聡い私の声を、翠の妖精たちが眠る森の奥にある泉のように静かな私の心をよくも、よくもよくも荒らげやがって、貴様……

そういえば悪くない顔をしているし、か細いのに胸だけやたら重そうにしてるなあ…

善いなあ、生身の女を手篭めにするのは久々だ!!

穴という穴、肉という肉が擦り切れるほど犯して骨までねぶってやろうか!!!!」


遂に腕を掴んで、錬金術師の男は女に顔をすれすれまで近づけ脅した。


「アイリス!!!」


メイドに背を向けたまま、女を捕らえた手を離さずに錬金術師がメイドを呼びつける。


「はい、マスター」


先程と同じ抑揚のない声でメイドが返す。


「食費用の財布を持ってきなさい!」


「かしこまりました、マスター」


音もなくメイドは家の奥へと向かう。


「お待たせ致しました、マスター」


メイドがぱんぱんに張った革財布を手渡すと、錬金術師はイライラしながら財布から札をごそっと全て抜きとり、襟元が破けしっかりと見えている女の胸の谷間にねじ込む代わりに瓶の入ったカゴをひったくった。


「帰れ!!!釣りはいらん!!!どうせ一生かかっても返せんだろう、身体で返したいと思ったとき以外二度と顔を見せるんじゃない!!!!」


言い放ちながら回復薬売りを突き飛ばし、倒れたところに白衣のポケットに入っていた虹水晶を2、3個投げつけるとガン!!!!と乱暴に扉を閉めた。


女は立ち上がり、狼狽し躓きながら走り去って行った。


「…はーっ」


メイドの肩を抱きながら、錬金術師は玄関からすぐの寝室へと戻って行った。


「大きな声を出してすまなかったね」


先にメイドをベッドに腰掛けさせてから隣に座ると、甘い声で詫びながら頬を擦り寄せる。


「眠る前でしたし、感情が、動くでしょうから」


メイドの声に感情は宿っていないようだった。


錬金術師は何気なく床に置いたカゴを見ると、小瓶を一本取り出して眺めた。


「滋養、強壮だそうだ」


「伺っておりました」


メイドの方を見てからもう一度小瓶を見つめて口角を上げると、蓋を開け、中身を一気に飲み干す。


「試してみよう。


じようきょうそうの力とやら」


そう言うと男はメイドを押し倒し。


乱暴に口づけた。

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