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消滅都市のベッケンシュタイン  作者: じゃがマヨ
グラウンド・ゼロ
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第22話



 特定保護対象の1人である、木崎亮平。


 彼がその“対象者”に登録されているのは、タイムクラッシュ爆心地である神戸市内の住人であるというだけでなく、ある特殊な「事情」が、彼の周りの環境に付随しているためだった。


 彼は“ファースト・キッド”であるだけでなく、行方不明者(ゴースト)の1人だった。


 このゴーストというのは、グラウンド・ゼロに於いて断層(E・ゾーン)に“閉じ込められた者達”のことを指す。


 閉じ込められる要因は未だ研究段階にあり、解明が急がれている事象である。


 主にタイムクラッシュの影響下によって引き起こされた、自然現象上の“イレギュラー”な出来事だと考えられているが、ゴーストになる人物と、そうでない人物との明確な差も、未だ明らかになっていない。



 彼は約束していた。


 甲子園に行く。


 それは子供の頃からの夢だった。



 穏やかな波打ち際の向こうで、確かな明日を見つけようとしていた。


 丘の上にある一本の長い坂道。


 彼の家は、神戸の街並みを一望できる山の上にあって、学校に行くときはいつも、自転車を使っていた。


 鉢伏山の麓の向こうに見える明石海峡大橋と、風の岬。


 自転車を漕ぐその視線の先には、いつも、海があった。


 波の音が聴こえる須磨海岸の防波堤の横で、シャワシャワと靡く蝉の声。


 夏の景色の向こうに続く「夢」を追いかけて、ボストンバックを肩に担いでいた。


 ガードレール沿いの道を走りながら、バックの中で揺れる色褪せたグローブが、染み付いた汗の匂いを運んでいた。


 夢はずっと変わらなかった。


 どんな時も、日常のそばにあった。



 世界一のバッターになる。



 その夢を胸に抱きしめて、空を見上げていた。


 彼はずっと憧れていた。


 彼の人生を変えたのは、海辺にいた1人の少女だった。


 少女の名前は、桐崎千冬といった。


 後ろ向きに帽子を被り、ほっぺには絆創膏。


 「誰よりも速いストレートを投げる」


 それが口癖の、変わった女の子だった。



 彼は彼女の背中を追いかけて、いつか、“世界一速いストレートを打てるバッター“になりたいと思うようになった。


 当時は野球に興味はなかった。


 ルールでさえ、ろくに覚えていなかった。




 

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