第17話
ボッ
雲の表層にぶつかる、——音。
重力加速度の先端。
——湿った破裂音が、空気を切り裂くように響いた。
1秒にも満たない距離と、密度。
ぶ厚い雲の表面が、跳ね上がるように弾む。
乱流。
雲の領域は、人々の間ではそう呼ばれていた。
雲の“厚さ”は何千メートルにも及び、光も通さないほどに深い深淵が、激しいジェット気流の中に広がっていた。
ナギサは頭にかけていたゴーグルをはめ、雲の領域へと突き進む。
突入と同時に弾んだ空気。
千切れた気体の断片が、フワッと持ち上がりながら回転した。
烈しい気流の変化が、重力に逆らいながら渦のように躍動していた。
「侵入成功。無線を切る」
「…了解」
雲に突入後、無線は切れた。
無線連絡ができる領域はE・ゾーンの上層まで。
中腹から下、つまりミスト・ロードよりも下の領域では、激しい気流の乱れによって深刻な電波障害が起きる。
ここから先は「分岐点」だった。
雲は一種の「壁」であり、境界線。
下降するに従って周りの景色は不安定になり、とめどない波が行き交うようになっていた。
逆巻く重力の中心で、体に触れていく空気の冷たさをそばに感じていた。
視線は動かさなかった。
まっすぐ前を向いて、全身にぶつかってくる確かな風の感触を、特殊スーツ越しの肌の先で感じていた。




