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第11話



 ミーンミンミンミンミン


 ジジジジ…





 そうだ。


 僕たちはこの海にいた。


 瀬戸内海の水平線に、積乱雲。


 どこまでも広い青の向こう。


 そして、——雨上がりの街。


 

 ずっと、大きな夢を馳せていた。


 ずっと、何かに期待していた。



 クシャクシャの笑顔を向ける彼女に、僕は何も言えずにいた。


 伝えたいことがあるはずなのに、何も言えなかった。


 彼女と一緒にいられる時間が、あとほんの僅かしかないということを信じられるはずもなかった。


 言葉にしたくなかったんだ。


 僕は彼女ようには強くなれない。


 こんな時、どんな顔をしていいのかもわからない。


 それなのに彼女は、何事もなかったかのように波打ち際の岸辺にいる。


 果てしない海の向こうを見つめ、昔と変わらない目をしている。




 今年もまた、暑い夏が始まろうとしていた。


 梅雨が明け、梅雨前線が北上した後の雲の通り道が、空を切り裂いたように広がっていた。


 漣に持ち上げられた7月中旬の空気が、海岸線沿いの街の表面を洗っていた。


 神戸空港から飛び立った飛行機。


 国道2号線を疾っていく、雨のような蝉の声。


 神戸シーサイドラインのガードレール越しに立ち並んだ巨大なガントリークレーン。


 湿った風の匂いが、そこにあった。


 街の喧騒の中に響く賑やかな潮騒を、ゆったりと運びながら。

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