『少女世界攻略記録』
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これを読んだとき、色々と思うところはあったのですが。
まずですね、こいつを読む約束をずっと前にしていて。
しかし圧倒的話数と予想される内容の濃さから、重い腰が上がらず、何年も読むには至らなかったものです。
ずっと心残りではありました。
ただ一念発起し、去年(2023年の年末)から2月まで、2カ月ほどかけて終章(終章ではない)まで読ませて頂きました。
クリスマスも正月もバレンタインも潰れたのは良い思い出です。まったくちくしょうめ!
そこまでして、空き時間にひたすら読んで得られた結論は……。
これは「何か」であるということです。
はい。「何か」です。
既に作品のレビューでは「何か」であることを述べていますが、この作品、極めて深い計算と構想力で練られた「何か」であり。
その「何か」っぷりを十分語るには、レビューや感想の文字数ではあまりに短過ぎる。
そこで、だいぶアレなんですが。
私のツイート(今はポストって言うのでした。哀しみ)を元ネタに、『少女世界攻略記録』という恐るべき作品が、何がどう「何か」なのかを改めてちゃんと語ってみたいと思います。
まずは黙って私の感想ツイートを見てみましょう。
ちなみに『少女世界攻略記録』のことを私は某少女と呼んでいますので、今後は某少女で統一します。
ツイート引用開始(一部改変)
某少女読む人向けの注意
アリスと出会うまで:擬態期。唐突具合は最初から。何かやばいのは伝わる
アリス初期(数十話付近):初見バイバイ。文字詰まってるし思考はやばい。何か
数十話~200いくらかまで:ハナちゃん不安定期。仲間同士の殺し合いが一番多い。魔銅とか戦争とかリルトンとかエネステラとかAIがどうとか見どころはたくさん。
200いくらか~オリジン弁当手前:砂糖が入り始める。GLがどんどん香ってくるので注意。
オリジン弁当~330:第一部完。輝きのある何か
神は七日で世界を創る、花は七日で何を想う?
331~400 七日がひたすら日常というエンタメとしてはあまりにも厳しい何か。少女たちのボーナスステージであり、読み手にしたらきつい。何か。
予測と全知の六より、自由と境界の七へ。 『少女達の想う世界』 Re:『少女世界攻略記録』 401~554
章いくつかあるけど本質的にはおじいちゃんシリーズ。 リルトン復活関連とおじいちゃんの試練が見どころ。他はもう何があったのかろくに覚えてない。虚無。何か
未来を辿る暗闇の架け橋、未だ届かずの境界 555~601
第三部スタート。しかし相変わらず少女たちの何かが繰り返されている。天異境がメインコンテンツ。何か。
白亜の王城テラスは斯くして煌めく 602~660
お出かけ回。なんだけど10話くらいにまとめて欲しい内容。やはり何か。
章が細かいの 661~663
い つ も の
お ま た せ
や っ た わ
ア リ ス か わ い い
白亜の王城テラスは斯くして煌めく 664~710
この章の後半からやっと面白さが戻ってくる。おかえり。最後の遺産とかその辺の話はぐっと来る。
世界を掲げ、救い、忘るるは災能の星 711~776
い つ も のはあるが、多くは輝ける何か。やっと第一部の面白いところが帰ってきた。ラティお前もっと頑張れ。
イシュタム戦は背景設定が面白く、ラストホープ戦はアツい。ラティお前やればできるじゃん
『少女世界攻略記録』<終章>
何かおかえり。けど一時期よりはひどくはない。『観測』の制御という第三部のメインテーマがやっと出てくる。
最後のアリスの啖呵はとてもすき
某少女のここが素敵!
実は世界観とても深い。壮大な背景。考察しがいのある設定。謎多き物語。種明かしパートのワクワク感。
某少女のここがダメ!
ノイズ情報が多過ぎて素直に考察したい気持ちを阻害する。そもそも辿りたいときに辿れない。どこに何があるかわからない。
花素
オハナメント
ハナエレメント
ハナフレグランス
フラワーメント
アリスに捧げるもの
アリスとは最初の親友
アリスとは異世界の象徴
アリスとは夜明け
アリスとは始まりを告げる者
アリスは壁
普通は小説って進んでいくとこなれて読みやすくなっていく傾向があると思うんですが、某少女の場合、途中から「情報量は多ければ多いほどよい」病と「四人の世界で回し過ぎ」病を発症するため。
小説としてバランスが取れているのは第一部の中盤以降~終盤くらいです(ただし恋人になってから糖分注意)
マジで振幅増大しながら砂糖とどろどろと衝突を繰り返してるような作品なのでマジで。
ハナちゃんとアリスが付き合い出してからは、一話ひたすらGL見せ付けられる回とかが何話おきかってレベルできます。
人によっちゃむせます。気付いたらまた来てます
アリスの妹リルトン関連とか、さりげない一つのイベントの掛け違いで物語上でもそうなっているとかいう、マジで「あのときのさりげないあれ」小説なのでほんと厄介です。
お前だったらもっと読み手フレンドリーに書けやwww
よく読むと「アリス以外いらない」とか「世界をどうこうしても」みたいな物騒ワード並びつつの「すべてを染めたいけどアリスらしくしててほしい」みたいな面倒臭いのを何話~十何話おきかに聞かされるこっちの身にもなれ(アリス→ハナも当然あるし、セリア×ラスティリアも始まってるよちくしょう!)
読んでて世界どうこうより「こいつら果てしなくやべえな面倒くさいな」となってしまう某少女のメインキャラたち。
普通の小説だと十分重め枠のセリアとラスティリアが癒し枠になってるのすごいぞ
331~670辺りまでを除けば良い小説です。天音ちゃんという燐がすべてを救ってくれた。
イシュタムくんのゴミカスっぷりが物語としては楽しくしてくれたため
ハナちゃんがどんだけ底隠してんだよってくらいn番底キャラなのが話を厄介にしてまして。
これだけ長いのに読み直したらまた違った味わいなんだろうなと誘ってくるのやめてもらっていいですか?
ユウとハナちゃんが見事に対照的なキャラであること以外は(というかそれすら面白い)
・ぼっちスタート
・アリスとの出会い
・【神の器】と『観測』の性質と厄介具合
・いわゆる「神」になること
・『運命』と呼ぶべきものとの戦い
・本来と本編
妙な共通点すごいな
ツイート引用終わり
……まあ最後は拙作フェバルとの対比なのですが。おいといて。
まず最初に言っておこう。某少女は紛れもなくある種の天才の作品である。
類まれなるセンスと構想力、その構想を実現する確かな筆力と執筆熱量。
しかしエンタメ小説として面白いかと言われると……面白くはない!
一部世界観・設定や一部話を除いて、という注意書きは入りますが。
むしろ(特に第二部とされる331以降から)雑談と日常を重ねに重ねまくり、『物語』としては逸脱し放題。
脱線に次ぐ脱線で、虚無かと思うほど読めたものではないところがあります(個人の感想です)。
しかしまあ、これだけ熱量あるツイートを連発してしまうくらい、そのくらいやられてしまったのは事実です。
すごい作品です。本当に凄まじい作品だと私は思います。
一物書きとして、思いっきりぶん殴られました。
学ぶべきところが多かったし、何より「面白かった」。
けれど他人に勧めたいかと言えば、とても勧める気分にはなれません。
「面白い」のは、小説それ自体が面白いのではなく。
物書きでない一般読者には、あまりにも楽しめるポイントが特殊過ぎると思うからです。
ではなぜこんなことになってしまっているかと言うと。
作者の力が足りないからではないのです。
なんと。なんとだな。
作者はわざとつまらない『物語』を描くパートを展開するという、恐ろしく変態的なことをしているのだよ!
……やべえ。こいつはやべえ。
普通小説というのは、ネット小説も含め、面白さを大なり小なり目指して書かれるものだと思っています。
ところが某少女は、『物語』としての面白さを目指していない。
作者のやりたいようにやるというのはネット小説の一つのスタイルですが、とことんそのスタイルを突き詰めている。
そして普通、小説の面白いところってメインキャラが活躍するところなのですが。
某少女に限っては、個人的感覚としては逆です。
少女たちが少女してるときが一番虚無で、他のキャラとの絡みとか世界の話が進んでるときの方が普通に面白い。
こういうことが普通に起きます。
おそらくやりたいことが『物語』としての面白さではなく、その先のメタ構造にあるからです。
あらすじから引用しましょう。
”突然の『異世界転移』に巻き込まれた片瀬花奈。
お決まりの『ステータス』『魔法』『特殊技能』を引っ提げて目指す先は絶対平穏たる日常、ただ一つ。”
ここで大事なのは、主人公たる花奈が目指しているものが「絶対平穏たる日常」であることです。
どういうことか。
少女にとっての日常とは、ありふれた幸せであり。
「語るべきところのない」、お話として読むにはつまらない日常なのです。
つまり、われわれを楽しませる『物語』を紡ぐモチベーションが、当事者である少女たちにはない。
もちろんただではいきません。すんなりとはいきません。
作品中では、厳しい世界や色んなことを考えている汚い大人のキャラたちが、少女たちに『物語』をさせようと。
わかりやすく言えば、世界を救う英雄だったり、悲劇のヒロインだったり、そういうものにさせようとしてきます。
さらには、所々開示される深い世界観や悲惨な背景設定にそそられるものがあるため、読者すらそういうものを期待して読むところがあります。
だけど、そんなもの知るかと。
私たちは末永く幸せに生きるんだと!
変テコで癖の強くて。言動も所々やばい。色々重かったりする、メインの四人の少女たち。
彼女たちは隙さえあらば、あるいはそうすべき状況でなくても無理やりにでもねじ込んで、『物語』そっちのけで雑談とか対話とかに花を咲かせ始めます。
少女たちは積極的に定められた、あるべき路線から脱線し、読者にさえつまらない、注目されないものとなろうとする。
我々読者さえ、いつでも彼女たちに挑戦される立場にあるのです。
でもね。それでいいんだよ。
「世界の都合!? 読者の都合!? そんなの知るか!」でいいんだよ。
そんな胸のすく想いを抱かせるような。
根っこは純粋な少女たちの強く、そして健気な想いがそこにはあります。
このメタ構造を突き付けられたとき、私は「やられた」と思いました。
すげえよ。作者けゆの民、もといラティ。
あんたはマジで天才だよ。見事だ。
このテーマでよく超長編をやろうと思ったし、それをしっかり1000話以上もかけて徹底的に描いてよ。
ああ。とても真似できない。尊敬するよ。
でもさ。もうちょっとエンタメ小説として読み手に優しくてもいいんじゃない?
世界観も設定もしっかりしてて。『物語』してるときはお話としてマジで面白い。
こんな普通の意味で面白くできるものを、そうできる実力があるのにさ。
メタ的な「面白さ」のためにあえてつまらなく書こうとするお前は、とんでもない変態だよ!
意図を悟り、歯がゆくてむかつくくらいにな! 素直にエンタメ小説として楽しませてくれよ!
やろうと思えばできるんだろう!?
え、そんなんじゃ筆が乗らない? 好きなようにやらせてくれ?
うん。じゃあしょうがないね。これからも応援しています。