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ある高校の美術部のツンデレとヤンデレと厨二病によるラブコメは、歯痒くて。

作者: 犬さん



俺は今日、鹿島に告白する。


『よう、今日だな!照っ!お前らイチャイチャしてるもんなあ!絶対いけるぜ!』


『お、おうっ!あー沸るぜーっ!ついにかの者を我が眷属に迎え入れる手筈は整った!!今からっ、降魔の儀式を行うっ!さあ、生贄たる、涼なる女子は何処だっ!!』



『おい、照、あそこーーー』


『ーーーーー』



鹿島だ。

1人ではない。誰かといる。女ではない。

恥ずかしげに手を繋いでる。男だ。



『・・・。』


距離感はかなり近い。




『あれ、彼氏・・・?』


『ーーーーー』


視界が揺れた。そのまま流れる雲と青い空が視界に入る。



『おいっ、照!照!誰かー!救急車を呼んでくれっ!!』














『ふあああっ・・・。』


今日もいい天気だ。窓から見える流れる雲はゆったりとしていて、ずんだ餅とお茶をつまむ優雅なひと時。



『こらあっ!!ここは、喫茶店じゅわあないわよっ!!!』


『なんだ、外道。神の御前ぞ。頭が高い。』


『はい、はい、厨二病乙。あんたねえ!ここは美術部なの!茶道部でも喫茶店でもないのっ!』



『お主、その超音波で我が羽をもごうとしてるな!許せん!あちょー!』


ドロップキックをかます。

『バカね!こうやって避けて、アンタが自爆するのを待てばいいのよっ!』


背中から落ちる。


『い、痛い。ああ、これは神の怒りを買うぞ!無礼者がーっ!』


見上げる。


『今日は紺色の布地か。ふむ。なかなかアダルティで、ギルティ。』


『み・る・なーーーー!!』



両足を持たれて、腰のあたりに座る。えびぞりの形だ。



『ぎえっ、タップ!タップアウトぉぉぉ!』



こんな戦々恐々とした日常を、鹿島涼、高校2年のJKと過ごしている。黒髪ロングにカチューシャの一見大人しく頭良さそうな見た目。




『また、やってる。あ、鹿島先輩お疲れ様です。』


青みがかかったポニーテールに、豊かな胸元。

神宮寺麗華である。




『鹿島先輩も、男に構う暇ないですよ。コンクール、何描くか決めたんですか??』



『コンクールかあ。何がいいかしらねえ。照は何描くの?』


『なぜ貴様のような魔力を使えない平民に我が脳内イメージを晒さねばならないのだ。それに我が領内では絵を描くことは神への冒涜行為だ。』



『先輩、コンクールに出品しないと美術部、廃部になるらしいですよ。』


『な・・・・。眷属との儀式の場がなくなると・・・。』


『眷属だが、なんだか知らないですが、とりあえず部室がなくなるってことですね。』



『だ・か・ら!描くしかないのよ!!描こうよ!照!!』




描くしかないのか。面倒だし、それに・・・・。




『テーマはどうしようかしらっ!?』


『風景画とかどうでしょう?』



『我が片足が疼く!くうっ、ああああああっ!』


風景画はそれなりの場所に移動するのが必要になる。

非常に面倒だ。


『だったら何描くの?描かないは無し。部活無くなってもいいならいいけど。』



『うむ!お互いの顔でも描こうでないかっ!この場にいて描ける!』


『ふーん、まあ妥当かと。外出になると土日になるだろうし、人物画なら平日も楽です。』



『よしっ!じゃあそれで行こう!』


かくして人物画を描くこととあいなった。








『描きたくねえなあ。』


『いつまでぼやいてるの!』


鹿島に背中をバシッと叩かれた。





『痛えっ!パワハラ!虐待!いじめ!セクハラっ!』


『うるさいわね。あとセクハラはよくわからないんだけど。』



背中がヒリヒリする。




『先輩、座ってください。描けません。』


『あ、ごめん。』



鹿島がモデルになった。

黙っていれば、絵画のモデルとしては十分なのだ。黙っていれば。


流れるような黒髪。吸い込まれるような瞳。両手を膝においてこちらを見る。長い足は、見るものを釘付けにする。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

キャンバスに向かい合う照。


私を射抜く様な真剣な眼差し。描いては私を見て、またキャンバスに描き加えていく。



(何よ、真剣に描けるなら、、最初からそうしなさいよ。)



照が、キャンバスに向き合う姿を初めてみた。



そんな目で見られると自分の体温が上がる様な感覚に襲われた。


『先輩?少し肩が上がってますよ?』


『あ、いやごめんなさい。』


『疲れてしまいますよ。』


麗華に言われて、肩の力を抜く。







『あっ、いいね!その表情!ナイス鹿島!』


『え、あっ、いやそ、そうかしら。オホホホ・・・。』



『先輩、動かないでください。』


『あ、ごめん。』



照に、言われたようないい表情でいる様に努めた。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

コンクールで金賞を取ることができた。



『先輩、すごいですね!』

神宮寺は、身を乗り出してくる。


『神宮寺、近い。』


『ええ、いいじゃないですか。』


そんな棒読みで言われてもな。




『ひょおっ、美術部発足以来の快挙よ!照っ!』



滑り込むように部室に入ってくる鹿島。




『私が見込んだだけあるわっ!さすがっ!』


『いや、そうでも。それに今回は・・・モデルが良かったからな。』



『え・・・・。』


茹で蛸のように顔を赤くする鹿島。

『へ、へえ、まあ、私にかかれば、こんなものよっ、ふふーんだ。』



『さすが我が眷属!供物としてよい働きをしたっ!1つ褒美を取らせようじゃないかっ、さあ、もうしてみよ!ふーはっはっはっー!!!』




鹿島は顔を赤くし、もじもじしている。


『いや、じゃあさっ!じゃあ、その、美術館行きたいな、、、、その2人で。』


『ほうほう、眷属よ。美術の館とはなっ、2人でか、、、そうか、そうか、、はっ!?2人でだとっ!!』



『うん。だ、だめかな??』



『べ、別に構わんぞぉっ!!これしきの、はあどる我が邪眼が発現した儀式に比べれば!』




『あのっ!』


俺と鹿島は声の方を見る。



『び、美術部員として!私もついて行きます!』


普段クールで大人しい神宮寺の声だった。

眉間に皺を寄せて口がへの字になっていた。




♦︎♦︎♦︎♦︎

土曜日。


美術館前で待ち合わせすることになっていた。

『せんぱーい!!』



胸をポヨンポヨン揺らしながら。ニットにミニスカ、ショルダーバッグで見事なパイスラッシュ。


神宮寺だ。




『おお、神宮寺。』


『先輩。どうでしょうか私の格好。』

くるりんと一回転して見せる。




『に、似合うんじゃないか?』

『ふふふ。』


目のやり場に困る服装だ。



『おーい!』


『あ、鹿島ーーーー』


Gパンに第二ボタンまで開けたクレリックシャツ。頭にはサングラス。大人っぽい。



『な、何よ?ジロジロみて。おかしいかしら?』



『ふむ。我が眷属に相応しい姿だ。褒美を取らせてもよいぞ。』



『こんな時も厨二病なのね。ふん。』


『何を怒っているのだ?』


『うるさい!』


両手を組み、明後日の方を見てプンプンしている。



『はいはい、先輩方。美術館に行きましょうか。』



鹿島と俺を押しのけて、神宮寺が間に割って入る。



そんなわけで美術館に入った。




♦︎♦︎♦︎♦︎


そんなに混んでおらずゆっくり見て回れた。


アクリル板に絵がかけられて、不規則に配置されている。天井が高く、太陽光がアクリル板に向けて落ちるようになっており、絵が照らされる幻想的な作りだ。



『この絵・・・・。』

館内のコースの最後に飾られている絵。非常に評価の高い絵だ。



『この絵、私好きなんだよね。』


胸元にサングラスをかけた鹿島が近づいてくる。


『この画家の絵に私は救われたの。』

『そういう人間もいるんだな。』

『照も誇らしいんじゃないの?』

『世間で言われるほどじゃないさ。』


言い捨てて、先に美術館を出た。











俺の親父の絵だ。

家族を犠牲にしてでも描き続けて名を売った父。

そんな父を俺は尊敬出来ない。だからこの絵も嫌いだ。




♦︎♦︎♦︎♦︎

『鹿島せんぱーい、美術館行ってから照先輩、絵を描かなくなりましたねえ。』


『うん、なんか!もったいないよね!もったいないっ!圧倒的に才能の塩漬け!絵を描かせるっ!』


鹿島先輩は、照先輩に駆け寄る。



『照!絵を描くわよっ!』


『描かぬ!絶対描かぬ!』


『なんでよっ!』


『何のメリットがあるのだっ!』


『賞が取れる!プロから目をつけられて、一気に世界的画家になれるわっ!』


『我が幸福は、名誉にあらず!かくして、メリット無し!』


『何があれば、描くのよっ!』


『我が眷属になるならば!考えてもやらんでもないっ!』



『はあっ!?いいわよ!煮るなり焼くなり食べるなり、揉むなり!なんでもアンタの好きにしていいわよっ!』



『な、、好きに、、』




『絵を描くなら、処女膜の1枚くれてやるわっ!!』



『し、しょ・・・』





『あー、ストップ、ストップ。意味不明ですって。』


このまま放置しておけない会話だ。


美術館や絵画コンクールがきっかけに、2人の距離が縮まっている。


私は、そこに割って入れるのだろうか?










♦︎♦︎♦︎

『な、なんでおヌシはそんなに我に絵を描かせたがるのだ!?』


『・・・・っ。』


鹿島の顔が赤い。

目を伏せて、両人差し指をツンツン合わせている。





『だってえ・・・・。』

上目遣いで見てくる。



ドクン。

心臓が一気に鼓動する。カァッと喉から何か出そうになる。


なんなのだ。

この感情は。

ぐぬぬぬ!否っ、負けてはならぬ!わけを聞こうでないかっ!







『だって、絵を描いている照、かっこいいから。』






急激な体温上昇を感じた。



『ふ、ふん!ま、まあ。綺麗に描く技術はあるからなっ!!』




『先輩のお父さん、有名画家ですからね。』


『・・・・。』


体温が冷や水をかけられたかのようにぐっと下がる。


『家庭を顧みず絵ばかり描いて。それで、売れただけだからな。』



土玉を吐き捨てるような思いで、言葉を吐いた。



家庭が壊れるくらいの情熱を傾けた。父とどこか連れていってもらったり、遊んでもらった記憶がない。お風呂に入ったり、ご飯も一緒に食べた記憶すらない。



父はアトリエで美術館にあった絵を完成させ、亡くなった。心筋梗塞だった。悲しすぎる。そんな父を虜にした絵が憎い。



そんな事情を話し終えると、鹿島は手を握ってきた。




『私なら!何があってもついていく!絵も描いて、一緒に幸せにもなるわっ!!だから描いて!照。お父さんを超えるのっ!』



『え、、それって、、、』



『あ、いや、べ、別にそんな意味は!ないと言うか、あると言うか。ははは・・・。』


顔が真っ赤だ。俺も鹿島も。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

授業中。

先生の話も聞かず、気がついたらノートにデッサンをしている。あれから1週間。寝ても冷めても鹿島を描いていた。



『おい、照、何描いてんだよ?』


『ひゃうっ!』


腐れ縁の浩二だ。ちょっとロン毛で、チャラい感じだ。



『ひゃうって・・・これ、、鹿島か?』


『み、見るでない!くっ殺せ!』



『女騎士、乙。厨二病はどこへやら、、、ふーん、よくかけてんじゃん?』


『か、返せよ。』



『なあ、昼休み、話聞かせろよ?』




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎


『ははーん。それは、照。恋だっ!』


『こ、恋だと!誰が誰に!?』


『お前が鹿島にだ。』


『ぬ、ぬわに!』


『脈ありじゃんかよ?告れよ!愛のパワーで親父超えだっつうに!!』


『い、いやでも。』


『絵を描け。孕ませろ。さすれば道は開けん!』










そうして勝負の日。



俺は今日、鹿島に告白する。


『よう、今日だな!照っ!お前らイチャイチャしてるもんなあ!絶対いけるぜ!』


『お、おうっ!あー沸るぜーっ!ついにかの者を我が眷属に迎え入れる手筈は整った!!今からっ、降魔の儀式を行うっ!さあ、生贄たる、涼なる女子は何処だっ!!』



『おい、照、あそこーーー』


『ーーーーー』



鹿島だ。

1人ではない。誰かといる。女ではない。

恥ずかしげに手を繋いでる。男だ。



『・・・。』


距離感はかなり近い。




『あれ、彼氏・・・?』


『ーーーーー』


視界が揺れた。そのまま流れる雲と青い空が視界に入る。



『おいっ、照!照!誰かー!救急車を呼んでくれっ!!』





♦︎♦︎♦︎♦︎

愛など要らぬ。

そんなものは捨てたとも!



そんなわけで、部室で朝から晩まで絵を描き続けた。

『せんぱーい、ずっと絵を描いてたんですか?』


『おう、神宮寺。我は愛を捨てた。己の技を鍛錬するのみよ!はーはっはっはっ!』


『先輩。』




神宮寺の顔が目の前に来たと思うと、柔らかいものが口にあたる。



ガラッ!


『お疲れー照、神宮寺ーーーーーーー』


鹿島が立っていた。

目の前には唇を重ねた俺と神宮寺。




『ーーーーあ、ごめんね。』


鹿島は部屋を出て行った。


唇を離す。








『鹿島っ!』


袖が掴まれる。


『先輩、行かないでください。』


神宮寺の声は震えていた。



『私は照先輩しか見てませんから。行かないで。』


目に涙を浮かべて、かわいい女の子にそう言われたら。


ズルい。



なし崩し的に俺から愛を告白し、神宮寺は彼女になった。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

間 京介。

髪はウェーブがかかっていて、センター分けのロン毛だ。頼りない感じであるが、かわいい顔。

私の彼氏だ。海外留学に行っていた。海外でも、ガールフレンドが居たみたいで、ふってやるつもりだった。


京介は挫折した。

フルート奏者を目指していたが、海外のレベルの高さについていけなかった。


空港で壮大に振ってやるつもりだった。


私に会うなり抱きしめてきて、赤ん坊のように甘えてきた。



情で京介と恋人を続行したのだ。




『中途半端だから後輩に取られちゃうのよね。』


肩を抱きしめるように、その日は自室で声に出さず泣いていた。






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

『照さーん!』

『ああ、神宮寺。』

『麗華。』

『はい?』

『彼女なんだから、れ・い・かです!』




露骨だ。

私の前でイチャイチャしてる。



照が私の方を向く。

『ああ、そうだ。鹿島。』


『あーはいはい?なんですか?照さん?』


刺さるような視線を感じる。

神宮寺だ。

照を名前で読んだからか。


『あー幸田さん。』


『あ、ああ。次のコンクールは、出品しようと思うんだ。』


『ほ、本当っ!?』


『この前のその、お前の激励に触発されたかな。』


鼻息が荒くなるのがわかる。

思わず、照ににじりよる。




『うん!絶対!いいと思う!照の絵はみんなを元気にするからっ!太鼓判押すわよおっ!』


『鹿島っ、ちょ、近いっ。』




我に戻る。

身を乗り出し、照の鼻先に触れそうなくらいの距離だ。



『あ!ごめん、、、つい。』


『いや、こっちこそ、、、って痛っ!』


照は神宮寺に耳を引っ張られていた。





『鹿島先輩!照さんは、私のなんですからねっ!』




ジロリと睨まれる。



そうだ、照の彼女は神宮寺だ。


♦︎♦︎♦︎♦︎

『ーーー涼。』


『・・・・。』


『涼!』


『わっぷ!ほえっ!あチッ!』


飲みかけの紅茶を少しこぼす。




『あーあー、全く涼は変わってないね。』


『うるさいわねっ。』


カフェの机にもたれかかる。

京介との何年振りかのデート。

私とは別の高校に編入し、大学を目指すそうだ。教師を目指すようだ。



『京介は元気そうね。』


『うん、プレッシャーから解放されたというか、、音楽の喜びを伝えられればいいなあって思ってさ!』


京介は笑顔だ。

挫折しても京介は、京介だ。

だからこそ終わらせないといけない。




『あのね、京介ーーーー』


京介は勘がいい。


『小学校がいいかな!中学もいいよね!吹奏楽部の顧問とかになってさーー全国大会とか出てさ!一緒に青春するみたいなっ!』


京介は弱い。

私の本音と向き合わない。



私も弱い。


『京介、いいね!なんか、京介っぽいよ!』


いつまでこの恋人ごっこは続くのだろうか。



♦︎♦︎♦︎♦︎

『鹿島ー、どうだ?このデッサン。』


『あー、うん。控えめにいって超イカすね。照の個性も出てるよね。』



照さんと鹿島先輩はいいパートナーとして絵画に関しては切磋琢磨してる。


照さんが絵を描き、それを鹿島先輩がコメントする。


『おーし、じゃあまた明日。』


『じゃあね照。』


呼び方を変えない鹿島先輩。

ムカつく。



♦︎♦︎♦︎♦︎

神宮寺との帰り道。

『照さんは凄いですよね。どんどん遠くへ行っちゃう感じ。』


『そんなことないよ。』


『いいタッグですよ、鹿島先輩とは。』


『うーん、アイツ絵画に関しては知識量半端ないからな。何が流行りでどんな描き方がいいか、本場ではあれがいいとかめちゃくちゃ凄えんだよ!さすがだよな。』


『ええ、さすがですよね。ふふふふ・・・。』






神宮寺を見る。

口元は笑っているが、眼が死んだ魚のようだ。


『鹿島先輩はよく、照さんをフォローしてますよね!あー、すごいすごいなあ。めっちゃジェラシー。私なんて、乳がデカいだけの能無し女ですから。ええ、私なんてね、だめなんですよ。でもね、照さん。うさぎさんは構ってくれないと死んじゃうように、私もなんか認められないとだめなんですよ。なんで、鹿島先輩を褒めるの?なんで、鹿島先輩みたいにお話ししてもらえないの?いいなあ、鹿島先輩。かわいいし、絵画の知識量すごいし。ねえ、照さん私なんかだと飽きちゃいますよね?へへへ、別にいいんですよぉ。ふふふふ・・・・・。』





神宮寺の様子がおかしいのだ。


『じ、神宮寺?』


『どうしてっ!照さんは私のモノですよねっ?鹿島先輩に向ける顔と私に向ける顔は全然違うっ!あっああああああああああああ!!』




神宮寺はそのまま発狂して、橋から身を投げた。



『神宮寺っーーーーー!!!』




♦︎♦︎♦︎♦︎


『涼!カラオケ行こ?』

『ああ、うん。』


カラオケに行く。京介が歌う。


(来週にはコンクールに出品しなきゃかあ。)


スマホを取り出して、チャットを立ち上げる。


『照、絵の方はどう?明日の放課後、部室行くね。』



送信っと。



『涼も何か歌おうよ!』

マイクを渡してくる、京介。


『そ、そうだね。』




・・・・。



『涼、ずっと履歴見てさ、どうしたの?』


『ごめんなさい。ちょっとボーっとしちゃってね。あ!じゃあこれ歌おう!』


履歴に入ってた流行りの歌を入れる。



(絵、ちゃんと描けてるかなあ。)


歌い出す。


スカートのポケットのスマホがバイブする。照からだ。気になる。照は今、何をしてるのだろう?神宮寺さんと一緒?


歌い終わる。


『涼、デュエットしようよ!』


間髪入れずに、マイクを持たされる。スマホがバイブした。 


京介の声がうるさい。私の声もうるさい。私は今すぐスマホを見たいのに。



♦︎♦︎♦︎♦︎

『涼、たくさん歌ったねー。』

『うん。』

スマホを見る。



『神宮寺が病院に搬送された。今落ちついてるから、これから部室で、絵を描くよ。明日の放課後な。了解。』



神宮寺と一緒にいたんだ。彼氏だもんね。私だって今彼氏といるし。


『涼?なんか、食べて帰らない?』

『あー、うん。今日疲れちゃってさ。今日は帰るよ。』


『そうだよね。ごめんね、無理に付き合わせちゃって。』



『そ、そんなこと、ないよ。』

照は今、部室で絵を描いている。早く行きたい。


『家まで送るよ。』


『だ、大丈夫。あ、学校に忘れものしちゃって。』


『一緒に行こうか?』


『大丈夫!大変だよ。』


『でも、少しでも涼と・・・・。』


『部室に忘れものだからさ。他の部員いるからさ。ちょっと恥ずかしいのよ。』


『そうかい。じゃあ、また学校で。』



私は京介に嘘をついた。だって神宮寺は病院だし、部室には照しかいない。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

『我が眷族よ!久しぶりだな!ワシの魔力に引き寄せられてやってきたのだな!供物は何かあるのか?』


『供物なんて・・・・あ、お腹すいてない?メロンパン買ってきた。半分にして食べよ?』


『・・・・・くるしゅうない。』


メロンパンの袋を開けて半分にする。

『その辺に置いておくのだ。供物とはそういうーーーんぐっ!?』


照の口にメロンパンを咥えさせる。


指先でメロンパンを持ち続ける。

『これなら絵を描きながら、食べられるでしょ?』


照の横に座る。


照は絵を描き、メロンパンをもぐもぐ食べていく。照の口の動きを見る。なんだか、リスのようでかわいい。


勢いづいたのか、照の唇と私の指先が触れる。



『きゃっ!』


拍子で椅子から落ちそうになる。


『危ない!』


照は私を抱きかかえる。

私は転倒をまぬがれた。



『だ、大丈夫か?』


『うん、ありがとう。』


『よいしょっと。気をつけろよ。』


照はパレットと筆を拾い、絵を描き始めた。


全身の血流が良くなる。体が芯から熱くなる。

照を一瞥する。いつもの照。絵を描いている時の照。凛々しい照。かっこいい照。







私が本当に好きな人。

























『なんで、、、涼。』

僕の彼女は、多分僕よりもあいつのことが、、




♦︎♦︎♦︎♦︎

コンクールは金賞だった。それなりに大きいコンクールだったようで、美術雑誌の取材が殺到し、俺の日常は変わった。


『照くん、雑誌の取材受けたんだって。』

『すげーよな、あいつ。』

『海外の芸術大学から直々にオファーが来たらしいよー。』

『えー、素敵ー、私ちょっと声かけちゃおうかしら。』

『やめておきなよ、照の彼女、結構ヤバいからさあ。』




いろいろな噂を聞くようになった。確かに、海外の大学への進学の話も来た。俺は、このまま海外に行き、画家の道を進んでいいのだろうか。


あと、神宮寺だが、、、



『照さん?はい、あーん。』

『ああ、うん。』


教室でこれみよがしにイチャイチャしてくる。わざわざ昼休みにお弁当を持ってくる。


『美味しい?』

『ああ、うん、まあ美味しいよ。』



クラスメイトの女子が近づいてくる。


『神宮寺さんのお弁当すごいね!』


偶然その子と俺の距離が近くなろうものなら。





『ふ、ふざけんなあ!照さんに近づくなっ!死にてえのかっ!ああん!?』


『ひいっ!』


カッターナイフをチラつかせる神宮寺。


『神宮寺やめなよ、、ごめんなーーー』

『て、照さんは私なんかより!この女がいいの!いやっ、捨てないでっ!いやああっ!!』



ヒステリックを起こし、カッターナイフで手首を切ろうとする。


『神宮寺!何やってる!』


通りかかった教師に抑えられて、保健室に直行することが増えた。




こんな風に神宮寺になられるくらいなら、、

筆を折るべきでないか。だってまさに、俺の家族を崩壊させた、父親と同じだから。





♦︎♦︎♦︎♦︎

俺の父親は、売れない画家で母さんはそんな父さんと結婚した。

母は普通の会社員で、親父の絵を見て感銘を受けて付き合うことになった。


母さんは俺を産んですぐ仕事に復帰した。俺は保育園にいれられて、父は家でずっと絵を描いていた。お迎えも、俺を風呂に入れるのもご飯も全部、母がやっていた。


そんな生活を続けて、俺が10歳になった時。

母はついに倒れた。


父は倒れた母の見舞いにすらいかず、ずっと絵を描いていた。母の見舞いに行くと必ず俺に聞いてきた。



『お父さんは絵を描いていた?』


『うん、描いていたよ。』


『そう、良かったわ。』



母は笑顔であったが、涙を流し、ため息をついていた。子どもながらに、見舞いにすらこない父に対して母がどう思っているくらいはわかった。


母はそのまま帰らぬ人になった。



父は葬儀には出たものの、涙一つ流すことなく

淡々としていた。


父も母の後を追うように亡くなった。

父の死後、絵が飛ぶように売れて、俺は図らずも憎い父の残した絵で、食えていたのだ。






同じように。

彼女である神宮寺がこんなになってしまった。俺は筆を折るべきでないか。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

次の授業は図らずも、美術だった。


ため息をつく。

男女ペアになり、2人1組でお互いを書く。



周りは後で、神宮寺に知られたらーと思い、俺を避けている。


(絵はやはり、、、誰も幸せにしないんだ。)


俺の心に影が落ちた。周りの景色が白黒になり、クラスメイトの顔もキャンバスのように真っ白に。頭がおかしくなったのだろうか。



お前は、絵画の呪いから放たれない。

お前は幸せになれない。

お前は絵しかかけない。

お前は憎い父の絵で今も暮らせているのだろう。



頭にこだまする声。


俺の周りから、大事なものが溢れてゆく。

視界が揺れる。















がばっ!

『え?』


視界が開ける。

『照!』


黒髪のロングヘア。

すらっとした腕で俺の手首を掴む。

俺をどこかへ攫うようにキャンバスの前に連れていく。そして、俺と対になるように座る。



『私を、私を綺麗に描いてよね!!』


そう。俺の絵を肯定し、俺の絵を受容してくれた女の子。





鹿島涼は黒髪を手で後ろに払いながらまっすぐ俺を見ていた。





コンクールで金賞を取った絵より、綺麗な鹿島を俺は描けたんだ。



鹿島の姿を描き、そして目の前にはない赤いバラを3本絵に添えた。


誰か1人が絵を受容してくれるのなら、俺はその人を思いながら絵を描いていくことにしよう。



『絵にはタイトルをつけるように。』


教師の声。決まっているさ。この絵のタイトルはーーーー






♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

駅前の喫茶店。

私達は、会っていた。



『・・・・ねえ、京介は何か今、やりたい事ってないの?』


『うーん、難しいね。フルートは辞めちゃったし。なんで?』


『ううん。』


スマホのロック画面を見る。ある絵画の写真が載っている。



『涼この絵は?』

『私の好きな画家の絵なんだ。もう亡くなったんだけどね。私にとっては希望の絵なんだ。』


『へえー。絵はよくわからないな。そんな事より、今日はどこ行く?』



そんな事よりか。


ここまでかな。





『ねえ、京介。私たち。終わりにしましょう。』




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

私の両親は事故で亡くなった。小学校6年生の頃だった。親戚に預けられた私はそれなりに幸福に育った。しかし、実の親を失った悲しみは癒えない。



そんな時、公園で絵を描いている男性に出会った。その絵はとても綺麗で鮮やかだった。虚しく過ごしていた私に、彩りを与えてくれた。



『おじさんの絵、綺麗だね。』

『私が描く絵は、人を不幸にしてしまうんだ。』


『こんなに綺麗なのに?』


『これはね、私の奥さんだから綺麗なんだ。』


『奥さんはなんでベッドにいるの?』


『病院なんだよ。もう死んでしまった。』


『じゃあなんで、今描いてるの?』


『本当はね、病院で描きたかったんだけど、奥さんはおじさんに、病院になんか来るな。それより絵を描いて私に夢を見せてって言ったんだ。だから、死ぬ時も会えなかった。』


そう話すおじさんは涙をたくさん流していた。



『だからね。なんとしてもおじさんが生きてる間に、有名になって死んだ妻の墓で報告したいんだよ。』


おじさんは咳込む。地面に赤いものが落ちる。

血だ。


『おじさんも病気なの?』


『ああ。もうすぐおじさんも死んでしまうんだ。そう君みたいな年齢の息子がいてね。嫌われているみたいでね。おじさんがずっと絵を描いていたからかな。せめて息子には幸せになって欲しいからさ。この絵で、有名になれればおじさんの子どもは不自由な暮らしをせずに裕福に暮らせる。だから、絶対この絵は売れないといけないんだ。』



『おじさん・・・・。』



その後、おじさんの絵は売れた。



♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

『なんでだっ!なんで別れなきゃいけない!?』


『・・・。』


『なあ、頼むよ。俺の何が悪かった?あの絵描きに惚れたのかっ!?見てたんだ、この前俺と別れて、あいつに会っていた君に・・・・。』


『・・・・。』


『俺が頑張るからっ、、俺の前からいなくならないでくれよ・・・・・。』


泣いて懇願される。


喫茶店はお客は私達だけ。喫茶店のマスターが気まずそうにしている。


またこれだ。

前と同じ。

泣かれるとダメだ。私は、、こういうダメな彼に

ずっと繋がれたままなんだーーーー。











数年後。



海外の芸術大学を出た俺は、海外でも絵画が評価されていた。

俺はあの時、美術の時間に描いた絵は、『クラスメイト』というタイトルで出した。本当はそんな名前で出したくなかった。


久しぶりの日本。


俺はあの後、神宮寺をかつての俺のようにできないと思い、別れる事にした。

神宮寺はしばらく荒れていたが、俺が卒業する頃には美術部の新しい後輩と交際を開始して、そのまま社会人になってから結婚したそうだ。


今日は、ある美術雑誌のライターに会う。

なんでも俺をかっこよく書いてくれるそうだ。



待ち合わせは、なんと思い出のあの部屋。

よく許可が出たと思う。





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

懐かしい校舎。


守衛室を抜けて、職員室に挨拶に行く。

かつての生徒が大物画家になって帰ってきて、かつ対談をあの部屋でやるというのだ。


私はあの後、京介とは別れた。

私が遠くの大学に行くと伝えたらあっさり別れを切り出された。実は別の女に乗り換えたのは後で知った。



『全く、、、』


黒髪を手で払う。

男運は相変わらずない自分に嫌気がさす。



部屋を開ける。


『部室か、、懐かしいわね。』





♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

扉が開く。


懐かしい顔が目の前にある。


『よお。久しぶり。』


『元気そうね。』


『ああ元気だ。』


『じゃあ対談をーーー』


『その前にこれを見て欲しい。』


キャンバスにかけたクロスを取る。




♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎

『懐かしいわね、あなたのクラスメイトって作品。』


『はは、まあクラスメイトだしね、実際。』


『ふーん。あれ?こんな3本のバラ。教室にあったかしら。なんで絵に描かれて・・・・。3本のバラ?どんな意味が、、、』


鹿島はスマホで調べ出したようだ。



あの時の俺とキミの日常は、多分お互いに思いを伝えられなかった。それでも絵画を通してキミだけを見ていた。客観的に見れば、移り気だ。浮気なんてものをする気もなかった。でも、確かにずっとずっと言えなかった。





『なあ、鹿島この絵の本当のタイトルがあるんだけど、聞きたい?』


鹿島はスマホをいじっている。手を止めて、顔を赤くしている。スマホで顔を隠しながら。床には、何か濡れたような跡が。まるで雫が1粒1粒落ちたように。


今なら言える。



だから言おうと思う。鹿島が望んでいなくてもそれだけが言いたかった。






『鹿島、俺ーーーーーー』


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