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『ラビットさま』  作者: 木尾方
2/3

~中編~

1日目


紬希つむぎは普段通りにアパートを出た。

すれ違う人に何の変化もなし。

「当たり前か。」

黒ラビットもいない。

御津駅から電車に乗り、南御津に着いた時、白いオーラに包まれている人がいた。

「誰だろう?…あ、」新汰あらたであった。

何度か、電車で見かけて話す程度の人だったが、初めてオーラを感じた

学校についても、周りの生徒からはオーラは見えなかった。しかし、予鈴が鳴るころに

教室に戻ると やはり黒いオーラを持つ者を見つけてしまった。唯奈ゆいなだ。

紬希つむぎは、できるだけ唯奈ゆいなの視界に入らないように席に着いた。

椅子を出したとき、椅子の上に黒ラビットが居た。

「きゃ」一瞬、驚いたが、紬希つむぎは小さく柏手を2度叩いた。

「黒兎、見つけた。」と小さく呟いた。

すると、黒いもやは飛び跳ねるように消えていった。


紬希つむぎは黒兎が消えた椅子の上を見ていた。

椅子の上には、どす黒い血のような液体がかれていた。



黒いもやがかかった人には近づかないこと。

黒ラビットにも近づかないこと、でも柏手で回避できる場合もある…


紬希つむぎは注意深く一日を過ごした。




2日目、3日目、どういうことだろう、イジメや不運が回避されているのであった。

今までの自分は何だったのかとさえ思えてきた。


4日目、ホームルーム すれすれで教室の前にいつものように来ると、扉にもやがかかっていた。

唯奈ゆいなが待っていたのだ。

「あ、紬希つむぎ やっと来た。」

「な、なに?」

「なに?じゃねぇよ。最近、遊んでないから放課後一緒に帰ろうよ。」

「わ、私 放課後委員会があって、先生に呼び出されてるの。」

「あ?そんなこと知らねえよ。」


「おーい。お前ら何してる。ホームルーム始めるぞ。」

担任が廊下の先で声をかけてきた。


「っち…はーい。入ろ。紬希つむぎちゃん。」



やはり、黒いもやには近づいてはいけないと、紬希つむぎは確認した。


5日目、今日も何とか回避できた。見えなかったときは気が滅入り不安だったが、見えている今は、精神を削っている感覚だった。


風呂に入って鏡を見ると紬希つむぎは少し違和感を感じた。

自分の目が少し充血していて、黒目部分が一回りほど大きくなっているのだ。


「な、なんで?まだ5日目なのに…」


湯船に浸かって考えていると、白ラビットが風呂場の隅に見えた。

「あ、…どうしよう。」

ボヤッともやのかかる白ラビットを見つめる紬希つむぎ

「…捕まえよう。明日は土曜日だし…」


風呂場で白ラビットに触れると紬希つむぎは呪文のように唱えた。

「白ラビットさま、捕まえた。」

すると、白いもやはスーッと空気に溶けるように消えていった。


鏡をみる紬希つむぎ

目は少し充血していたが、黒目は元の大きさに戻っていた。

「…よかった。」





紬希は、土曜、日曜と『ラビットさま』を行ったが、返事は『まだだよ。』だった。

「明日は、月曜日…学校どうしよう…」



案の定、学校で紬希つむぎは、唯奈ゆいなたちに、暴力を振るわれていた。

「寂しかったよ。紬希つむぎちゃん。なんでか知らないけど、先週ぜんぜん遊べなかったよね。」

「あはは、その分も楽しんでやるよ。」

紬希つむぎは、できるだけ唯奈ゆいなたちに、刺激を与えないように、体を小さくし抵抗しないで、飽きるまで殴られ続けた。火曜日も水曜日も…



新たに『ラビットさま』ができたのは水曜日の夜だった。

「あー、これで、逃げられる。」




月曜日の朝 いつものように黒い靄と黒ラビットを避けながら駅に着いた。

沿線上の駅で人身事故があったため、ホームが人で溢れかえっていた。


《間もなく、2番線に電車が参ります。白線の中側でお待ち下さい。》


ホームに電車が到着し扉が開く。

人がどっと車内に流れ込む。

紬希つむぎは、反対側の扉に押し込まれた。

「…」

本を読みたくても身動きが取れなかった。

仕方がないので、両手で鞄を胸元に抱えて外を見ていた。

しばらくすると、お尻に違和感を感じ始めた。

痴漢だ。

電車のガラスに写った男からは黒いオーラがはっきりと出ていた。

身動きが取れず、怖さと恥ずかしさで声が出せない。

早く、駅についてと願うばかりだった。


《次は南御津、お出口右側。》


駅に着いても、痴漢男は紬希つむぎに張り付いた ままだった。


「だ、だれか…」声に出ない声で助けを求めようとしていた。


「はい、すみません。通ります。」


混雑はしても、会話のない車内で人の声がした。


痴漢男の横に無理やり入ってきたのは、新汰あらただった。


紬希つむぎさん。おはよう。大丈夫?」

白いオーラに囲まれていた新汰を見て、紬希つむぎは泣きだしてしまった。


「おい、おっさん。次の駅で降りろ。」

痴漢男をみらみつける。

身動きの出来ない痴漢男


新汰あらたくん。私なら大丈夫です。だから…」

事を大きくしたくなかったのか、紬希つむぎは、これ以上しゃべらなかった。


《次は、豊一とよいちお出口右側》


「おい、おっさん。次見たら、やってようが、やっていまいが、警察行くからな。…降りろ。」


「は、はい。す、すみませんでした。」


電車が駅に着くと、痴漢男は消えていった。


紬希つむぎさん、本当に大丈夫?」


「はい、大丈夫です。ありがとうございました。」


混みあう車内で、新汰あらたは扉に腕を伸ばして紬希つむぎを守るように空間を作っていた。













紬希つむぎは、そんな事もあり、『ラビットさま』に依存し始めていた。

ラビットが見えない期間は、家から出るのが恐怖に感じられるぐらいまでなってしまっていた。



そんな日がしばらく続いていた。


ある朝、珍しく母親も朝出社だったため、一緒に支度をしていた。

紬希つむぎは母親の白いオーラがにごっているように見えた。

「白いオーラに黒いもや?」

不思議だった。黒いオーラや黒ラビットは危害を加える。黒いもやは災いや危険な場所。

「…ねぇ。お母さん、何か変わった事ある?」


「なに? 何もないわよ。ほら、学校でしょ」


「う、うん。」





学校へ向かう電車の中で紬希つむぎは母親のもやが気になっていた。


紬希つむぎさん。寝不足?」そう聞いたのは新汰あらただった。


あの事件後から紬希つむぎと朝の通学を一緒にしていたのだ。


「ううん。違うの少し悩み事。」


大翔はるとたちの事?」


「え、違うよ。そっちは、今落ち着いてる。」


「そっか、僕でよかったら話聞くよ。」笑顔の新汰あらた


白く暖かいオーラの新汰あらた紬希つむぎは安心していた。





学校でも、唯奈たちの嫌味は以前ほど気にならなくなっていた。

暴力からは逃げられるようになってきたし、黒ラビットも柏手で回避できる。

『ラビットさまさま』だった。



授業が終わるってスマホを見ると薄く黒いもやがかかっていた。

「…スマホにもや?」

恐る恐る、スマホを開くと数件の電話が入っていた。

その電話にかけてみる。


トゥルルル…トゥルルル…ピッ


「はい、豊一総合病院です。」


「あ、あの、私 晴野はるのと申しますが、電話が入っていたもので…」


「あー、晴野さんね。ちょっと待ってもらえます。」



電話での内容は、母親が仕事中に倒れて搬送されたとのこと、念のため入院して検査をするので病院まで来てほしいとの連絡だった。



「はい、すぐに行きます。」



学校から一駅隣の豊一駅に着きバスで向かった。

「もしかして、お母さんに付いてたもやって」


嫌な予感しかしなかった。



病院に着き、母親の顔をまずは見に行った。

「お母さん」

「あ、紬希つむぎちゃん。ごめんね。心配かけちゃった。」

「なに、言ってるのよ。」

「最近、ちょっとダルくて風邪ぎみだったから…」

母親のもやが消えていない。普通の風邪じゃないと紬希つむぎは思った。

涙目になる紬希つむぎ

「お母さん、ゆっくり休んで無理しないで、私 頑張るから ちゃんと検査して」

紬希つむぎちゃんどうしたの?お母さんなら大丈夫だよ。」

涙を我慢する紬希つむぎ

「うん。」





数日後 母親は急性骨髄性白血病と診断された。





紬希つむぎは、これまでにない絶望感を抱いていた。

母親が、もしかしたら死んでしまう。

父親の暴力にも、イジメによる暴力にも我慢してきた。

それは、母親がいたから我慢もできた。

二人で協力して支え合って生きてきた。

その母親がいなくなってしまう?そう考えただけで紬希つむぎは、この世の終わりと思えた。



 何回目の『ラビットさま』だろうか、紬希つむぎ内腿うちももは切り傷だらけだった。


「……、49、50。ラビットさま、ラビットさま。もういいかい?」


『もういいよ。』

慣れた行為だった。


鏡を見る紬希つむぎ

「ひどい顔。」


母親の居ないアパートは荒れ始めていた。





紬希つむぎさん、疲れてない?顔色悪いよ。大丈夫?」新汰は心配そうに紬希つむぎの顔を見ていた。


「だ、大丈夫です。あまり見ないでください。」


「あ、ごめん。…ねぇ、紬希つむぎさん」

「はい?」


「もし、よかったら、今度の日曜日 ど、どこか遊びにいきませんか?」


「えっ?」


「ぶっちゃけ、紬希つむぎさんの行きたい場所ならどこでもいいけど、できれば、二人で決めたいなって…」


「あ、ありがとうございます。でも、ごめんなさい。日曜日は母親の見舞いにいかないと…」


「え? お母さん、具合悪いの」


「うん。」


「そっか、それで元気がなかったんだね。」


「すみません。」


「あやまんないでよ。紬希つむぎさん。」


紬希つむぎは暖かい新汰あらたの白いオーラが痛いと感じた。





~後編へ続く~



読んで頂き誠にありがとうございます。


前編は、ほぼ『ラビットさま』の説明だったような気がしますw


後編も楽しんで読んでいただけたら幸いです。m(._.)m

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