今さら謝っても遅い
例えるなら全身が泥まみれの太った中年のハゲオヤジ。
見た目からして不愉快なモンスター、マッドマンがBGMと共に扉を開けて泥をまき散らしながら突撃してくる。
美しいパーティ会場は瞬く間に泥まみれというわけだ。
(…あ?あぁ…!?あぁぁああああああああああっ!!)
今更ながら俺は取り返しのつかない状況であったことを思い出す。
続いて2階の窓ガラスからガーゴイル達が汚い雄たけびを上げながら乱入してくる。
彼らはビラをまき散らしながら天井を飛び回る。
『勇者のバァーカ!』
『王女は誰にでも股を開くー!』
『魔法使いはコミュ障ー!』
ビラに書かれている内容をガーゴイル達が連呼する。
勇者達の狼狽し俺も狼狽した。
(やばいやばいやばいやばい!)
早く彼らを止めなくては!
しかしどうやって?
そんな事を考えてる間にも作戦は着々と進んでいく。
半年もの訓練の成果はバッチリだ!
次に大量のコボルト達がパーティ会場に乱入する。
彼らは会場に振舞われていた王女お手製の料理を汚く食べ散らかす。
それを口にしたコボルト達は一斉に料理を吐き出した。
(ちょっ、まっ!)
そして料理を床に叩きつける。
『犬にでも食わせとけ!!』
マンガならばそこそこの大ゴマに集中線がついて顔がアップで映し出されるような激高っぷりだ。
王女が放心し膝から崩れ落ちる。
(あああああああ!!俺は、俺はなんてことを…!)
『ヒャッハァー!ドケドケドケェーーー!!』
畳みかけるように砲塔を引いてゴブリン達が現れる。
いきなりの兵器登場に会場はの人々からは悲鳴が挙がった。
だがコイツは兵器ではない。
『発射ー!!』
砲塔からゆっくりとした軌道で放たれるのは勇者達の顔を模した風船玉だ。
風船玉はパーティ会場に設置されている巨大なケーキに着地する。
(も、もうやめてくれぇぇえええ!)
俺の祈りは届くことはなかった。
『次弾、撃てー!!』
ケーキに着地した顔に赤い塗料がブチ撒かれる。
風船玉はさながら勇者達の生首のようになった。
この流れ、見事という他にない。
『キル・ユー!』
ゴブリン達が勇者を煽る。
(と、とにかく止めねば!つ、次はなんだっけ!?)
俺がまごつく間に3体の巨大な生物が会場に乱入してくる。
『ゆーしゃさまぁぁぁぁああん!』
『ゆーじゃさまはわだぢのものよぉぉおおん!』
『ふたりともあいしてるよぉぉぉん!』
オークが勇者、サイクロプスが王女、オーガが魔法使いを模した風船人形を抱いて突撃してくる。
(それはだめぇえええええ!)
『誓いのキィィイイーーーッス!』
3匹が風船人形の顔を押し付けると圧力に耐えきれず風船人形の顔は破裂する。
『べぇー!ヤワな愛だぜ』
(そ、そこまでしなくてもいいだろ…)
顔の無くなったゴム人形が床に横たわり、ケーキに着地した顔と床に横たわった身体でコンボが決まった。
恐るべき緻密な計算である。
俺の情緒は完全に粉砕された。
もはや俺は体を丸めて机の下に隠れるだけの存在と化した。
(どうしよう?
勇者達にどう詫びればいい?
そしてモンスター達をどう逃がせばいい?)
勇者達の真意を理解した今、彼らと戦うことはできない。
だがモンスター達も心を通い合わせた仲間なのだ。
彼らを見殺しにすることもできない。
俺はどちら側にも加担することが出来ないのだ。
『今だ!ジェノサイドゆう…むむっ!?』
魔術師キッコロが現れた。
だがキッコロは勇者達が己に背を向けていない事に気付く。
『ど、どうしたのだ我が友アーレスよ!』
様子がおかしい事に気付いたキッコロが俺に叫ぶ。
や、やめてくれ。
俺はもう戦えないんだ。
『お前が動かないとジェノサイド勇者が完成しないだろぉ!?』
ジェノサイド勇者という目的がわかりやすすぎる単語が会場に響き渡る。