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後編

 魔法学校に入ったボクは、勇者と聖女を殺す手段を探した。

 だけどそんなものはなかった。分かった事は、2人が想像を絶する力を持った人間だったという事だ。勇者にはどんな魔法も物理も効かず、聖女はどんな攻撃も一瞬で癒す。


 その事実に絶望したが、ある偶然から奴らを殺せる手段を掴むことが出来た。


 魔法学校では、能力の無いものや魔力適正の低い人間は周りから見下されたりすることも少なくない。


 ボクは何の力も持たず魔力適正も低いため、本来なら見下される対象のはずだった。

 だけど勇者と聖女の娘という肩書きと容姿だけは優れていたこともあり、みんなからマスコットの様な扱いを受ける事になったのだ。


 しかし、そんな中ボクに殺意を持つ者も少なくなかった。

 魔法学校の中には前のボクのように貧民出身だった学生もいたのだ。あの勇者はそういった場所に寄っては、聖女と一緒になって遊び半分に彼らを虐げたり、村を救うために法外な報酬を吹っ掛けたりしていたそうだ。


 無論、彼らの訴えは全て勇者や聖女本人によって否定されたそうだけど。

 奴らの名誉を汚そうとした虚偽の罪で殺された貧民も結構いたらしい。


 そんな奴らの娘であるボクに殺意を抱くのは当然だ。

 憎い奴らの娘が、何の力も無いにも関わらず周りからチヤホヤされている。


 その現状にキレた1人の生徒から人気のない場所に呼び出され、そこへ行くと……怒りの籠った両手が襲い掛かりボクの首を締めあげた。


「てめぇの両親の所為で、俺のお袋は死んだんだ! なのに、なんでお前らは生きている? 悪いことをした奴が幸せになるなんて間違ってるだろ! だから、死ね。あいつらにとって大事なお前が死ねば、少しは俺の気持ちがてめぇの親にも伝わるだろ!?」


 彼の気持ちが痛いほど分かるボクは、このまま殺されても良いとさえ思った。

 アインはボクを溺愛している、メリルはボクを心から愛している。

 そんなボクが貧民出身の彼から殺されれば、自分たちがどれだけ過去に愚かな事をしたのか流石に分かるだろう。


 意識が遠くなる中で……こんな結末も有りだと納得しようと思った。


 だけど、ふと思ったんだ。


 それじゃあ、ボクの無念は誰が晴らすと言うのか?

 確かにあいつら2人は心が傷つくかもしれない。最愛の娘を失い、泣き喚くだろう。


 でも、それで終わりだ。

 奴らにとって娘は不幸な出来事で亡くした最愛の娘に過ぎない。

 首を絞めている目の前の彼は、あの2人に一矢報いたと満足するだろう。


 じゃあボクの気持ちは? 本当に納得できるの?

 幼馴染から裏切られあんな理不尽な殺され方をして、最悪な生まれ変わりを果たした挙句、復讐も出来ずに誰かの溜飲を下げるためだけにまた殺される?


 冗談じゃない。

 ボクの復讐は、ボクのモノだ。


 この人に同情は出来ても、奴らに復讐するための命を差し出すなど。


 絶対に嫌だ。


 首を絞めている両手に手をかけ、必死に抵抗した。

 復讐も成し遂げてないのに、死ぬなんて冗談じゃない! それでは死んでも死にきれない。あいつらは、この手で殺すんだ!


 強い憎悪と生の執着。

 それが切欠だったのかは分からないけど、それによってボクは――復讐する力を得た。


 首を絞めていた彼の力が突然弱まり、逆にボクの方は今までにないほどの強い力が湧き上がるのを感じた。自分が何をしたのか、この時は気づく事が出来なかった。


 だけど、後日……彼が学校を去ったんだ。

 理由は能力喪失による、在住資格のはく奪。彼は元々戦士系の能力があったため学校への入学を認められており、魔法の適正自体はまるでなかったそうだ。


 先日の1件とその話を聞いて、1つの可能性に思い当たったボクは誰にも見られないように学校に置いてあった木刀を持ちこっそりと振ってみた。

 すると――少し前まで実技は全て最低だったはずなのに、まるで手足のように木刀を操り剣技を出す事が出来た。


 そう、今まで何も無いと思っていたボクの能力とは、相手の能力を吸い取り、奪い、自分の物にする悪魔のようなものだったのだ。


 でも、考えてみればこの能力を得たのは至極当然の事だったのかも知れない。

 ボクの身体には……他者から何もかも平気で奪う勇者と、人を裏切り笑うような女の血が流れているのだから。


 力を奪い、相手をどん底まで堕とすような力はまさに奴らの娘に相応しいじゃないか。

 きっとこれは、神様がボクに与えてくれたチャンスなんだ。


 能力を奪ってしまった彼には悪いけど、けして無駄にはしない。

 あの2人には、必ずやった事の報いを与えてやる。


 その後、学校で人を虐めているようなクズ相手に色々と試した結果、ボクの力で相手から能力を吸収するには1分程度その人間に触れている必要があることが分かった。


 1分。最強と名高い勇者相手に、そんなに触れる事が出来る人間なんていない。

 通常であれば、この能力があったとしても復讐を成し遂げるのは極めて困難だったと思う。


 だが、ボクは奴の娘だ。


 触ろうとすれば、むしろあっちから喜んで触れてくることだろう。

 けれども、今まで生理的嫌悪から触れ合いだけは避けてきたボクがいきなり過度なスキンシップを取ろうとすれば、さすがに奴も何か変だと気づくだろう。


 だから、徐々に父親とスキンシップを取りたくなる娘といった感じで演技をしなければいけなかった。正直、かなりの苦痛が伴ったが……こいつを殺すためだと思えば耐えられた。


「ねぇパパ、今日は一緒に寝ても良い……?」


 自分を殺した相手に甘えた声を出し、父親が大好きな娘を演じる。

 ここで力を奪い、殺すことも出来たかもしれないが……こいつにはボクと同じような気持ちにさせてから殺すと決めていたため、運命の日までクズの信頼稼ぎに終始した。


 アインを殺するのは――ボクの誕生日だ。

 そして、奴を殺したら……次はボクを裏切ったメリルを殺してやる。

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― 新着の感想 ―
[一言] よっしゃやれ!!!
[良い点] 面白かったです( =^ω^)最後どうなるか楽しみです(≧∇≦)b
[一言] 盛大ぶちのめせ……こういう奴らに情けはいらん
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