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前編

「もうあなたの事なんて、好きじゃないの。私ね、今はアイン様の事を愛しているんです」

「そういうわけだ。メリルはお前じゃなく俺を選んだんだよ」


 仲良く肩を寄せ合った二人が、揃って僕へとそう言って来た。





***





 メリルとは、幼いころからずっと一緒だった。

 いつも僕にベッタリ付いて来て、将来は僕のお嫁さんになると言ってくれた……大切な幼馴染。


 僕達が15歳の頃――今から丁度3年前に、彼女から告白されたんだ。


『これからは幼馴染としてじゃなくて、恋人として傍にいさせてくれない、かな?』


 とっても嬉しかったよ。

 だって、僕もメリルの事がずっと好きだったんだから。


 付き合ってから、毎日が幸せだった。

 沢山の思い出を作り、初めてのキスを交わして……そして、愛し合った。


 それなのに。


 今目の前にいる彼女は、その笑顔を別の男へと向けている。

 その唇を、別の男へと捧げている。


 吐き気がした。

 この光景を現実だと認めてしまう事を身体全体が拒否しているかのようだった。


 僕の存在など忘れたように、彼女と口付けを交わしている目の前の男……。


 アイン・スフラッド。


 この国の――勇者だ。





 ***





 事の始まりは、僕とメリルが付き合ってから2年が経った頃だった。

 突然、メリルの腕に不思議な痣が浮かび上がったのだ。


 不思議な痣だなと僕達は思いつつも、さして気にも留めずにその日を過ごした。

 だけど、それからすぐに王国の兵士達が村に押し寄せてきたのだ。


「聖女の聖痕を宿した者がこの村に居ると、天啓が下された! 身に覚えのあるものは、前へと出よ!」


 先頭にいた神の使いと名乗る神官様の言葉で、先日の事を思い出した僕達は前へと出た。

 メリルの腕にある痣を見た神官様は大声を上げると、すぐにメリルは多くの人に取り囲まれ、やがて馬車の中へと入れられてしまったのだ。


「待ってくれ! 彼女は、僕の大切な人なんだ!」


 抗議の声を上げると、僕の顔を少しだけ見た後に神官様はこう言った。


「彼女は聖なる神によって聖女としての素質を見出されたのだ。しかし、安心するが良い。我々は1年の間だけ、神の御心を学ばせるだけだ。その後、どうするかを決めるのは彼女自身。汝への愛が深ければ、必ずここに戻ってくるであろう」


 僕の前で十字を切るポーズをし、神官様達は村を出て行った。


 いきなりの事で当初は納得できなかったが、その後、王都から手紙が届き。


『突然の事でビックリしたけど、1年間王都で頑張れば帰してくれるそうです。ハレンに会えないのは寂しいけど……早く戻れるように、私、頑張るからね!』


 メリルらしい前向きでホッとするような内容の手紙を見て、僕は待っていようと決心した。メリルが頑張ると決めたのに、彼女を支えるべき僕がウジウジしてどうするんだって……そう思ったんだ。


 けど、日に日に手紙の頻度は少なくなっていき……半年後には、彼女から手紙が届かなくなってしまった。何かあったのではと気が気ではなかった僕は、毎日神へと祈りを捧げた。


 どうか彼女が無事に戻ってきますように、と。


 そんな状態で1年が経とうとしていた時。


 家で祈っていると、「メリルが村に帰って来たぞ!」と村の人が知らせに来てくれたのだ。

 僕は喜び、神に感謝した。望んでいた奇跡が起こったと、そう思った。


 だけど、彼女に会いに行った僕は――硬直する。


 1年ぶりに見る彼女は、村に居た頃よりも上品に洗練された感じとなっており、より美しく可憐になっていた。しかし、そんな事で驚いたわけではない。


 メリルは、見たこともない様な美丈夫と腕を絡めながら帰郷していたのだ。





 ***





 銀色の髪、切れ長の瞳と全てが完璧とも言える整った顔立ち。

 メリルと共に来たのは、この国が自慢とする勇者と呼ばれし男だった。


 僕に気付いたメリルが、彼と共に近付いてくる。

 その際に、彼と目が合うと、まるで僕の事をゴミでも見るような目でつまらなそうに見つめていた。


「こんな価値の無さそうな貧民が、君と付き合っていたのか?」

「はい、アイン様……」


 明らかに僕の事を侮辱したにも拘らず、メリルは素直に肯定していた。

 それを見て、焦燥感が襲い掛かる。


 ――何かが、おかしい。


 そう思った僕は、急いでメリルに近づいた。

 何だかそうしないと、彼女が遠くへ行ってしまう気がしたのだ。


「ま、待ってたんだよメリル! いきなり手紙が来なくなったりしたから、心配で堪らなくてっ……1年間……ずっと、神様に祈り続けていたんだ」

「…………」


 涙を浮かべながら彼女に話し掛けたが、どこか白けたような眼で僕を見つめてくる。

 少々困惑しながらも、久しぶりにメリルに会えて嬉しくなった僕はすぐに気を取り直し、彼女の手を引こうと腕を伸ばした。


「とりあえず、僕達の家に戻ろうか! 勇者様が来た理由も、その時にでも――」

「やめてッ! 汚い手で、触らないでよ!」

「……えっ?」


 だが、伸ばした手を思い切り振り払われ、メリルは僕を睨みつけて来たのだ。

 直後に、顔に凄まじい衝撃が走った。


「ゴミがッ、うすぎたねぇ貧民の癖に、メリルに触ろうだなんて――死ねよッ!」

「がっ……! ゆうしゃさっ、や、やめでくださっ……」


 倒れた僕は、何度も勇者様からお腹を蹴り上げられた。

 口から血を吐き、お腹に激痛が走る。


「うっ……うぅ」


 痛みで僕が地面に(うずくま)っていると、メリルの冷たい声が上から響く。


「何か勘違いしているみたいですけど、私ね……今日はあなたとサヨナラをしに来たんです」

「……あ、え? メリ、ル?」

「ごめんなさい、ハレン。私と別れてくれませんか?」


 なにを言われているのか、理解できなかった。


「もうあなたの事なんて、好きじゃないの。私ね、今はアイン様の事を愛しているんです」

「そういうわけだ。メリルはお前じゃなく俺を選んだんだよ」


 仲良く肩を寄せ合った二人が、揃って僕へとそう言って来た。


 どう、して……? メリルは僕の事が好きで、告白されて……今まで幸せで。




『ねぇ? 私の事、ずっと離さないで下さいね』


『結婚したら、子供は2人くらい欲しいかな……』


『ハレン! ……大好きッ!』




 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!! メリルと別れるなんて、嫌だよ……!


「い、いやだ……メリル、ぼくと……一緒に、かえろうよ……」


 縋り付くように、地面を這い、彼女へと手を伸ばす。


「本当に……気持ち悪い男」


 でもそれに対して返って来たのは、侮蔑と嫌悪に満ちた、メリルの顔だった。


「アイン様。この男は、私に対して付き纏おうとしていますけど……どうします?」

「あ? 聖女に対してそんな事するようなクソ貧民はな――死刑だ!」


 そんなやり取りを聞いた後、僕は背中とお腹が熱くなるのを感じた。


「え、がふっ……?」


 あ、れ? うごけ、ない。

 まるで地面と身体が、縫い合わされたようだ。


「自慢の聖剣の味はどうだ? 貧民の最期には贅沢すぎるな。聖剣の土台となって死ねるなんてよぉ」

「良かったですね、ハレン。勇者様から天へと召して貰えるなんて……そのままゆっくりと眠りなさい」


「ごふっ……メ、リ……ル」


 意識が途切れて、寒くなるのを感じた。

 薄れゆく意識の中で、最後に聞こえて来たのは。


「本当にありがとうございますアイン様! 過去の汚点を始末してくれて!」

「未来の妻の頼みだ、ゴミ掃除くらい引き受けるさ。それに、貧民の一匹や二匹殺したところで、大した問題もない」

「これで、ようやく何の憂いもなくアイン様と一緒になれるんですね……」

「幸せになろうな、メリル」


 なんなのさ、それ。

 ずっと、まってたのに……。


 僕は、信じてたのに。


 ひどい、よ。


 ああ……もう、いしき、が……。


 あっ……メ、リ……。


 …………。





 ***





 あれ、ここは……どこだろう?

 僕は、一体どうなったんだ?


「奥様! 旦那様! 元気な女の子ですよ!」

「そうか、女の子か!! よく頑張ったなメリル!」


 え、メリル? メリルって、ボクを裏切った上に殺すように仕組んで玉の輿みたいな感じを喜んでいたあのメリル? って、よく聞くとこの声はボクを殺した上に貧民扱いして、いや確かに貧民だけど凄く馬鹿にしてしかも殺したあの勇者の声じゃないか!


 くそ、どうなったのかは知らないが、まだボクは危険地帯に居るという事じゃないのか?

 見つかったら、またあの二人から命を狙われるに違いない。


 ぐっ、だが動けない……やはり怪我の症状が重すぎるのか……!

 万事休す、再びボクは死ぬ!


 と、ここで気づく。誰かに抱えられてない?

 チラッと目を開けると、優しそうなおばちゃんが見える。


「あう、あうあー」

「ふふっ、賢そうなお嬢様になりそうね。おーよちよち!」


 あ、喜んでくれたっ……って、なんなのこれ!?


「お、おい! 俺にも早く抱かせてくれ!!」

「あらあら、天下の勇者様も娘には弱いみたいでちゅねー」

「あうー……?」


 事態が全く飲み込めない状態でいると、突然ボクの身体に何かが触れてくる。


「ほーら、捕まえた~。パパだぞ~!」


 そのまま引きずり込まれるように、おばちゃんから離され。

 目に映ったのは――ボクを殺した勇者、アインその人だった。


「おー、メリルに似てとっても可愛い娘じゃないか」

「アイン様ったら、まだ赤ん坊ですよ……誰に似てるかなんてわからないでしょ」

「いや、俺の勘が言っている! この娘は、メリル似だと!」

「うふふっ、アイン様がそういうのでしたら、そうなのかも知れませんね」

「おーもちろんだとも……ん? ど、どうしたんだ?」


 ボクを殺した殺人鬼が目の前にいて、生殺与奪の権を握られている。

 そう確信すると、精神は乱れ……感情が抑えられなくなり。


「ふぇ……ふええ……」

「え、な、待ってくれ」

「ふぇ……ふえ……」

「こ、怖くないぞーー怖いものはパパがみんなぶっ殺してやるから安心するんだ!」


 殺す、という一言を聞いて――ボクは大泣きした。


「もう、アイン様ったら!」

「俺の所為なのか!?」

「だめですよ、お嬢様を怖がらせちゃ……」





 後々になり、ボクは気づくこととなる。

 何の因果なのか――ボクという存在は死んで。


 裏切った幼馴染である聖女と。

 彼女を寝取りボクを殺した勇者の。


 ――――娘として、生まれ変わったのだ。

相変わらずニッチな話ばかりで、しかも不定期ですがよろしく!!!

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― 新着の感想 ―
[一言] はい勇者と聖女の資格なーし ドクズゴミカスですわ
[良い点] これはまた胸元を抉るような危険球をw [一言] これは前編固定で、様々な展開の後編なんて手法もアリではないかと。 積極的にNTR返しで元カノざまぁ、その後「実は俺です」のベーシックな顛末…
[一言] ぶっ殺すとか気軽に言ってる時点で人の親として糞だな。勇者と聖女っていつも真逆の性格してるゴミ共がなるの多いから、勇者と性女の表記見るだけで嫌になりそう。
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