街で噂の転移冒険者は最強装備で無双する
俺の名前はサイタ キョウスケ。大学生。…… だった。
三日三晩寝ずにゲームをやり続けた結果、心臓マヒで死んでしまったらしい。『らしい』というのは俺も自覚が無く、聞かされたからだ。
誰にって?
それはもちろん『神』さ。
なんでも手違いで俺を死なせてしまったらしく、そのお詫びとして別世界へ転移させてくれるというのだ。しかもお得なスキル付きで。
いやぁ、嬉しかったね。これがあのライトノベルなんかで見た光景かってね。
それが約1年前。
不馴れだったこの異世界での生活も神からもらったスキルのお陰で次第に慣れ、今では最強の冒険者の一角にまでのしあがったさ。
冒険者としての最初は誰からも相手にされなかった。
そりゃ日本で生まれ育った大学生がいきなり戦えなんていわれても戦えるはずがないからね。無い知恵を振り絞ったね。
まず、神からもらったスキル『鑑定』を使い、採取系の依頼をこなし資金を貯める。その資金で強い冒険者を雇い経験値を貯める。こんな計画を立てたんだ。
この計画が大当たり。『鑑定』のスキルを使い続けることによって『コピー』のスキルが発現したんだ。
この『コピー』のスキル、なんと他人の持っているスキルを自分へとコピーできる超便利なスキルだったんだ。
そこからはもう、強い冒険者を雇う、コピーで強いスキルを自分へとコピーする。それの繰り返し。
そんなこんなで、ありとあらゆる剣技を使用できるスキルである『剣聖』、ありとあらゆる魔法を使いこなすことができるスキル『大賢者』を手に入れた。
もうこうなったらこっちのもの。未踏破のダンジョンへ潜り、お宝を見つけながら踏破する。もちろん見つけたお宝は無尽蔵に物が入れられるマジックバッグへ収納だ。
このマジックバッグには世界の秘宝と呼んでもいい代物の装備がわんさかと入っている。
ゴーン!
お、昼の鐘が鳴ったようだ。
さて、装備をして冒険者ギルドへと行くとしますか。
俺はマジックバッグから現時点で最強と思われる装備品を出し次々に装備していく。
頭には魔素吸収板が二枚付いた金色の『ゴルドラヴァの兜』をかぶる。これで何もしなくてもじわじわと魔力を回復してくれる。
胴体には鬼神『ダイオーン』の顔を模した意匠のある漆黒の『ダイオーンの鎧』だ。この鎧は返り血を浴びると装備者の体力を回復してくれる効果がある。
小手は東方の剣豪『ゴロウザエモン』が使用していたと言われる真紅の『剣聖の小手』。剣技を使用する際の魔力の消費を抑える効果付きだ。
下半身は濁りの無い透明なクリスタルで作られた『ピュアクリスタルクウィス』。弱い魔法なら簡単に跳ね返してしまうぜ。
そして足は風の精霊の名を冠した『シルフェンのサンダル』。これで俺の素早さは何倍にもなる。
右手の指には毒を無効化してくれる『防毒の指輪』、マヒを無効化してくれる『耐マヒの指輪』を装備する。
左手の指には『力の指輪』『魔力の指輪』『素早さの指輪』を着ける。
首には呪いを無効化するドクロの飾りの付いた『解呪のネックレス』
これで防具は完璧だ。
最後は武器だ。
見た目はボロボロの剣だが、使用者の魔力を流すことで凄まじい切れ味の剣となる『神剣 エクスカリバー』、切りつけることで相手の血を吸い使用者の傷を癒す全身漆黒の『魔剣 ブラッディブレード』
この二振りが俺の今の愛剣たちだ。
「鑑定」
スキルを使い、俺自身を鑑定する。
鑑定結果はやはり予想した通り、俺自身の素の値を何倍にも押し上げている。
この装備をした俺に勝てる者などこの世界にいるのだろうか、って感じだな。
「よし、冒険者ギルドへ行くか」
ダンジョンへ潜るための申請を出すために冒険者ギルドへ向かわなくてはならない。別に出さなくてもいいんだが、出さなければ宝石や装備品の買い取りに時間がかかるらしい。
ちょっとのことですぐに金が手に入るならやっておいた方がいいだろうという判断だ。
宿を出てこの街の大通りへと出る。既に高くなった太陽、雲ひとつ無い青い空、俺のダンジョン探索の結果を暗示しているようじゃないか。
「あれが最強の冒険者、キョウスケですか……」
「すげぇ装備だ……」
「ママー!あの人がキョウスケって冒険者さん?」
はは、照れちまうな。
そんなすれ違う人の俺への言葉を耳にしながら大通りを歩き、冒険者ギルドへ到着する。ギルドの重厚な扉を開けると、最強の冒険者である俺の登場に一瞬にしてザワッとなる。同業者でも俺のことが気になるようだ。
俺は他の冒険者の言葉を聞き流しながら受付カウンターへと歩をすすめる。今日の受付はミューナちゃんか。
「あ…… キョウスケさん。今日はどんなご用で?」
「今からダンジョンへ潜るのでその申請に」
「わかりました。この書類に記入して提出してください」
ミューナちゃんは素っ気ない態度だ。しかし、それが可愛らしくも見える。
さっと書類を書き提出をする。これで準備完了だ。
俺は街を出てダンジョンへと向かう。
さて、今日はどんなお宝に出会えるのかな?
―――――――――
キョウスケが去った冒険者ギルドでは……
「おいおい、見たかよ。今日日女でも着けないウサギの耳飾りを兜に着けてたぞ」
「あの鎧もなんだありゃ。顔の付いた鎧なんて恥ずかしくて着れねえよ」
「下半身なんて下着丸出しだぞ。あいつは羞恥心ってものがないのかね」
「足元はサンダルだった。『冒険者は足元から』って言葉があるの知らないの?」
「貴族でもねぇのに指輪をじゃらじゃらはめやがって。俺は最強の冒険者様だぞってか?」
冒険者たちは口々にキョウスケのセンスの無い装備にダメ出しをしていく。
「武器もなんだありゃ。ボロボロの剣だったぞ」
「もう一振りも真っ黒でセンスがねぇな」
キョウスケは知らない。
街で流れる噂がどんなものなのかを。
『センスの無い装備の最強の冒険者、キョウスケ』
それが街で流れるキョウスケの噂だった。
ある冒険者がぼそりと呟いた。
「あんな装備をしなきゃ最強になれないんじゃ、俺は最強にならなくていいや」
その言葉に周りの冒険者も静かに頷くのだった。