第二話――真実の先
「アキラ! 出かけるぞ」
「え、どこに?」
「おいおい……。俺らの仕事はネタを収集して、真実を伝えることだ。目の前に良いネタがあるだろうよ」
「マジカ・ルン……?」
「そうそう」
そう言うと、ススムは席を立ち廊下へ出て行ってしまった。
「メモ帳と、カメラと……」
俺が務めている出版社は、他と比べると小さな会社だ。
だから1人でできることは何でもこなさなくてはならない。
準備が終わり、ススムが戻ってくるの待っていた。
「おーし、連絡が取れたぞー」
ススムが戻ってきた。
「誰に電話してたんですか?」
「ん? モモだよ」
「えっ、モモさんと知り合いなんですか?」
「知り合いっていうより……、つい最近からなんだけど付き合ってるんだ」
「まじですか!? いろいろ聞きたいんですけどッ」
「まぁ……後でな。さぁ行くぞ」
俺とススムはモモのいるスタジオに向かった――。
「ススム君、待ってたよ」
モモがスタジオの入り口に立っていた。
「大変だったな。大丈夫だったか?」と、ススムは心配した。
モモの髪は濡れていて、肩にタオルをかけていた。
俺は自身の自己紹介が終わると、モモのそんな姿に視線が向いてしまった。
モモも俺のその視線に気がつき、「血がついちゃってね……シャワー浴びてたの。気にしないでね」と、苦笑いをした。
「例の物、借りてもいい?」
「うん、これ」
モモはテープをススムに渡した。
「先輩これは?」
「……さっきの生放送中の録画テープだよ。モモ、それと部屋を借りるよ」
「うん……。終わったら一声かけてね」
「了解」
「アキラ行くぞ」
「は、はい」
アキラは、スタジオに入るススムの後をついて行った。
ススムは迷うことなく、目的地の部屋にたどり着いた。どうやらこのスタジオは初めてではないようだ。
ススムがその部屋のドアを開けと、そこにはたくさんの編集機器が並んでいた。
「先輩! これすごいですね」
「おう。この機器を使って、もう1回あの時の放送を確認してみよう」
俺もススムも気になるのは、あの電気が暗くなる場面だ。
あの場面まで早送りをした――。
――カメラは橋本ヨシヲを映している。
「お前はやっぱり偽物だ! このいんちき――」
「マジカぁー、ル――ンッ!」
そのマジカ・ルンの呪文が唱え終えた瞬間、すっとそのカメラの先が橋本ヨシヲに向いた。そして照明が落ちる。
照明が落ちる前にほんの一瞬だが、最期の橋本ヨシヲを映していたのだ。
照明がつくと、カメラは頭部のない橋本ヨシヲを映していて、そしてマジカ・ルンの方にカメラが向く。
そのマジカ・ルンは左手を背後に回している。多分もうその時には、左手の先に橋本ヨシヲの頭部があったのだろう。
「先輩、おかしな所ってあります?」
「あります? じゃなくて探すんだよバカたれ」
俺とススムは何度も巻き戻して、少しでも気になる点を探した。
「先輩これどう思います?」
「そうだよな……」
標準速度じゃまったく気がつかない。
スローモーションでさえやっと気がつく程度のものだが、照明が落ちる寸前、橋本ヨシヲの左肩に黒いもやが映っていた。
「なんだろうな……これ」
ススムはその部分をさらに細かく処理を施した。
1秒を24コマで割り、その24枚の静止画を1枚ずつ確認していく。
「これだ……」
10枚目でボッと黒いもやが出始めた。
11枚目にはその黒いもやが渦を巻いている
「きっと次でわかるぞ……」
ススムが12枚目の静止画をクリックしたときだった
「うおッ!」
俺とススムは声を上げた。
その渦を巻いた黒いもやは、マジカ・ルンの顔に変わっていた。
その顔は橋本ヨシヲをギッとにらみつけている。
そして13枚目にはその顔が薄くなり、14枚目には再度黒いもやに変わっていた。
「先輩……これ」
ススムはしばらく黙っていた。そして、
「ちょっとマジカ・ルンの所へ行って取材してくる。モモならマジカ・ルンのいる先を知っているはずだ」
「えッ、俺も行きますよ!」
「いや、お前はここに残れ……」
……俺は後悔している。どうしてあの時止められなかったんだろうと。
ススムが出かけてから2時間が経とうとしている。
何も連絡がなく俺はそわそわしていた。その時、
ガチャ……
ドアの開く音がした。
「先輩ッ?!」
振り返ると、なんとそこにはマジカ・ルンが立っていた。
「マジカ・ルン!?」
「あなたが目を覚ましたときには、私の予言通り、あなたの大事な先輩はもうこの世にはいないでしょう。……1つあなたに忠告をしておきます。これ以上私に首を突っ込むのはやめなさいッ」
「アキラ君ッ!」
「うわっ!」
俺は椅子から転げ落ちた。
「モモさん……?」
(あれ? 夢……?)
モモはなんだか悲しそうな顔をしている。
「モモさん……どうかしました?」
「ねぇアキラ君……。ススム君、死んじゃった」
「え……?」
「電柱にぶつかって、即死だったみたい……。現場にちょっと一緒にきてもらえる?」
半信半疑の中、俺とモモは事故現場へ到着した。既に警察やマスコミが集まっている。そのススムが乗っていた車のフロントは、ぺちゃんこにつぶれてしまっていた。
ちょうどその時、車の中から遺体を運び出すようだ。
その遺体の顔からは判断ができないほど、頭部がぐちゃぐちゃになっていた。ただ血に染まったズボンや靴、そしてススムの気に入りの腕時計などを見て、この遺体はススムなのだと判断した。
「モモさん……マジカ・ルンがどこにいるか知っていますよね?」
「えっ?」
「先輩は……マジカ・ルンに殺されました」
その根拠のない俺の言葉を聞いても、モモは反論することはしなかった。
「俺は先輩の敵を討ちに行きます。モモさん……お願いします、マジカ・ルンのいる場所を教えてください!」
モモは黙って少し考えている様子だった。
「車の中に来て」
そうモモに言われ、俺は車に戻った。
そこでモモからメモ用紙と鍵を手渡され、そのメモ用紙にはマジカ・ルンのいる先が書かれていた。
「この鍵は合い鍵ね。今回の件で警察の捜査がある程度終わるまで、私達の用意した所で寝泊まりしてくれってお願いしといたの」
「モモさん、ありがとうございます!」
あの後俺は自宅に戻り、マジカ・ルンを殺す準備をした。
ペンライトや手袋、そして日頃から料理で使っていた包丁をタオルで巻き、それらをリュックに入れた。
俺は今夜実行する――。