7、8月−23 喧騒とお祭り騒ぎと届く音
「ここまでくれば……」
「ここまでくればなんだ?」
俺はでかいダンボールを担いだ男にたずねた。
「くっ!」
「まったく。けっこう捜したんだぞ。」
ここは海岸。祭りにほとんどの人が行ってしまっているため他に誰もいない。
「どうしてここが……」
「最初はメエが勝手にどっかに行っただけかと思った。でも近くにほとんど残ったりんご飴があってな。それがおかしいかった。今さっきまでなかったことを考えるとおそらくメエが落としたんだろ。それはありえないと思ってな。」
「な、なぜ?」
「メエがバカだから。」
「は?」
「あいつはバカだからこそ自分が落とした物をほっておくことなんてしない。絶対に拾ってごみ箱に入れる。」
「……」
「あとは単純。人をこっそり運ぶとなるとかなりの大荷物になる。ならば、でかいダンボールか何かを担いでいる男を捜せばいいというわけだ。」
「……」
相手は無言のまま何もいわない。俺はそれを肯定と受けとった。
「さて、そろそろメエを返してもらうぞ。尾道 大悟。」
「気付いとったんか。なら標準語を使う必要ないのう。」
最初の広島弁を使い始めた。
「いつから気付いとったんじゃ。」
「最初におかしいと思ったのは組長の話を聞いたときだ。役員になるならたいていは3年生のはずだからな。そしてなぜ斑目先輩じゃなくて今の会長を狙うのか。いろいろとおかしいと思うことはあったが、まあ、他人だからわからないこともあるでほとんど気にしなかったけどな。」
「じゃが、確信はされんはずじゃったがな。」
その通りだ。確信はなかった。
「だから、最後はそのダンボールに入ってるやつの言葉が決め手だった。」
「なんじゃと?」
「昼飯をメエやラブと食べたんだがそのときにお前が来てないことをメエと話したんだがメエに、尾道は来てないな、って言ったらあいつなんて返したと思う?」
「??」
あのとき、メエは当たり前のような顔をしていた。
「あいつは、尾道くんは戦いにきただけだもん、って言った。」
つまり尾道は生徒会会議に来たわけではない。そういうことだった。
「だから、何かをするつもりなんじゃないかと思ったわけだ。」
「……予想外じゃな。」
そう言ってダンボールを置いた。
「この会長は役立たずと踏んどったんじゃが、とんだ誤算じゃな。」
そう言いながらかまえをとった。
「今度は真面目にしてやるよ。」
俺も背中から木刀を取り出しかまえた。
海岸に祭りの喧騒はほとんど届かず、聞こえるのは海が寄せて引く音だけである。
「ふっ!」
挨拶がわり、地面に垂直に切り下ろしをした。しかし、それに尾道は木刀の勢いを殺さないように軽くつかみ投げとばした。俺はそのままちゅうを舞い砂浜に叩きつけられた。
「くっ!」
「まだじゃ!」
そして立ち上がろうとした俺の服を持ち、そのまま巴投げを繰り出した。
ズシャァァァア!!
また砂浜に叩きつけられた。
「ここまで強いとはな。」
戦っている場所が運よく砂浜だったからよかったが、コンクリなんかで戦ってたら死んでたな。
しかし、その砂浜と浴衣のせいでスピードは半減。しかも、浴衣は柔道着と形が似ているから掴まれやすい。いろいろとハルさんをうらみそうだ。
「やっぱり砂浜じゃとダメージは少なそうじゃが、わしにとっては大きな問題じゃないわ。」
ということは、目的は時間かせぎか。しかし、尾道の型はおそらく柔道と合気道を我流であわせたもの。つまり完全柔術だ。そういうのは攻めにくい。
「やりにくいな。」
しかし、攻めなければどうにもならない。
俺は水平切りをやってみた。
「甘い!」
尾道は俺が近付いた瞬間、一気に近付き掴もうとした。俺はなんとか下がり回避できたが、かわりに攻撃もできなかった。
「なるほどな。」
瞬発力に絶対的な自信。だからこそ武器を持つ俺にもひるまないわけか。これは……
「さすがにちょっとは本気になるか。」




