7、8月−11 夢に映るものは何か
「お前は俺の言う通りにすればいいんだ。」
「はい。」
「だから、俺の命令は絶対だ。俺が命令してないところでは俺のために臨機応変に対応しろ。」
「わかりました。」
ああ。思い出したくもない俺の過去だ。あのときとまったくかわらないあいつ。
見た目だけでそれ以外は変わったのかわからない俺。
そしてこのあと、俺は初恋の人に会って……
「また、会えるよね?」
場面が変わった。たぶんこれは帰るときだ。
「わかりません。しかし会えることを願っています。」
……たぶん、俺はこのときに心の底からそう思ったんだろうな。
キンッ!
「ぐっ!」
頭に何か突き刺さったように痛い!これは……わかるがわかりたくもない。そこでまた俺の意識は闇へと落ちていった。
「……先輩、高月先輩!」
「うおっ!」
起きたら目の前にリンの顔があった。
「起きましたか?」
「ああ。……今、何時だ?」
「12時前です。真島先輩や藤原先輩は部屋に帰ったみたいです。」
「そうか。」
「これ、どうぞ。」
グラスには1杯の水がくまれていた。いちおう確認してみたが、ただの水だ。
「ありがとう。」
水を1杯飲んで意識もはっきりしていた。そして、自分が椅子で寝ていたことや結局、1時間ぐらいしか寝れてないこと、体が少し痛いことなどがわかってきた。
「なにか嫌な夢でも見たんですか?」
「?どうしてそう思う?」
「だってうなされてましたし寝汗もひどいですよ。」
そういえば首のまわりあたりがとくに濡れている。
「……何か嫌な夢を見た気はするが、内容は覚えてない。」
「そうですね。夢ってなかなか覚えてませんよね。」
「……」
「……」
そんな言葉のあとに微妙な沈黙がうまれた。いやではないが、この状況のきりぬけかたがわからない。
「あの……」
リンがいきなり話し始めた。
「本当にまったく覚えてないんですか?夢のこと。」
「……俺がうなされていたならたぶん、昔のことだろうな。」
「昔?」
「恥の多い生涯を送って来ました。」
「……」
答えに有名な小説の序文を返した。
「……」
「おいおい、何か言ってくれよ。言った俺がはずかしいじゃないかよ。」
「あ!す、すみません!あの……お兄ちゃんが好きな小説だったんです。」
たしかあの小説は人づきあいの苦手な男が道化みたいに生活していき、そこから心身のつかれから堕ちていき、最後に自分は人間を失格したのだという話だったはずだ。
「それが好きとはかなりの小説好きだな。」
「はい。私が読んでもちんぷんかんぷんでした。」
それが普通だと思う。
「……そろそろ部屋に帰れよ。時間も時間だし。」
すでに12時を回っている。
「え?」
「俺はシャワーでも浴びて寝るから。」
「……あ、あの!」
「どうした?」
「こ、ここで寝ちゃ、だめ、ですか?」
顔を真っ赤にしてそう言った。
「別にいいぞ。」
「え?え?え!?」
「先に寝といてくれ。」
そのまま俺は脱衣所に入った。リンは驚いたみたいだが正直、こうなったら3人も4人も変わらないだろ。