12月−13 結果決断結果
「……タバコを吸うな、変態保健医」
「いきなりの歓迎、ありがとう」
牽制してみたが、やはりノーダメージらしい。
「あの、まさか中山先生が、その当主だったり……?」
ラブがおそるおそるという感じで聞いた。たしかに、今の雰囲気で来られたらそんな気がするだろう。
「だったらあれがメエの父親だぞ」
「おいおい、それじゃあまるで僕に芽ちゃんみたいなかわいい娘がいたらおかしいと言ってるみたいじゃないか」
「それもそうですね」
「え〜?」
まさかのラブの発言に変態も軽く間延びした声を出した。
「だったら中山先生はなんなんですか?」
「そうだね〜〜簡単に言うとスパイかな?」
その言葉にまた全員が少し身を固くした。
「全員、気にしなくて大丈夫ですよ。これはスパイとしては三流なんで」
「ひどいねぇ」
「事実でしょ、佐倉家近衛部隊統括隊長殿」
その言葉で全員が驚きながら変態を見た。
「はぁ。せっかく謎の助っ人Aみたいなかっこいい役割で登場したかったのに、なんでさっさと正体を明かしちゃうのかな」
「皮肉ですよ、皮肉」
変態はそんな言葉に「いい皮肉だ」と言って笑ってみせた。なんか斑目先輩なみにやりにくい。
「中山! あなたがいくらあの人に信頼されている近衛隊長だとしても、命令に従わないなら……」
「お黙りください」
変態の表情がさっきのおちゃらけたものからいきなり真剣なものに変わった。
「ご当主が到着しました」
変態がそう言うと、車が近づいてくる音が聞こえた。それはだんだん大きくなっていき、母屋の仕切りをぶち破って現れた。桜のマークのついたリムジンだ。
「おいおい。たしかに派手に来るとは言ってたけど、いくらなんでもそれは危ないでしょ、っと!」
そう言って変態は大きく手を振った。すると、車はキリキリと擦れる嫌な音を立てながら止まった。
誰もが唖然とする中、車の運転席と助手席から黒服が出てきた。そして、ドアに回り込んでゆっくりとドアを開いた。そこから現れたのは白髪混じりの初老の男。身長は150cm前半程度と小さいが、鋭い眼光や気配で実際より大きく見える。
「出迎えご苦労」
「いえ、それほど苦ではありませんでしたから。それよりも、あそこまで派手な登場の必要はあったのですか?」
「ないな」
「なら、自分の体を労ってください」
変態はため息をつきながら言った。
男は後ろに車に乗ってきた2人を引きつれ、ゆっくりと歩いてくる。誰も何も口を開かず、誰もまったく避けようとしない。まるで、男の周りのみ時間が止まっているようにも感じた。
そして、男は俺たちと女狐の間に入った。
「やりすぎたな、命座」
「も、申し訳ありません」
あの女狐もさすがに勢いがない。まあ、相手が相手だから仕方ないとも言えるが。
「そして、お前らが開明高校の生徒か」
そして、意識の矛先がこちらに向いた。相変わらず、この人に意識を向けられたら自分より小さいはずのこの人が大きく、いや、自分が小さくなる感覚に襲われる。たぶん、ここにいるメンバー全員が逃げ出したい衝動にかられているだろう。
しかし、誰も引かない。何も感じてないわけがないだろう。つまり、全員がわかっているのだ。ここは何が何でも引いてはいけないところだと。
「……なるほど。面白いな」
男は笑ってこっちにゆっくり歩いてきた。
「自己紹介がまだだったな。私の名前は佐倉 阿孟。佐倉家の当主にして、佐倉グループの会長だ」
「お父さん」
メエが一歩前に出た。
「なんだ、我が娘よ」
「ボクはまだ開明高校に通いたい」
前置きも何もないストレート。それをメエは投げ掛けた。
「……よかろう」
そして、さらに前置きも何もない答え。
「そもそも、今回の件は命座が考えて行ったことだ。私はまだ未熟な芽を必要なほど落ちていない」
佐倉家当主の回答。それは佐倉グループの正式な回答だった。
「これで、終わりなんですか?」
ラブは拍子抜けという感じに言った。他のメンバーも同じように、あまりの急展開に困惑している感じがする。
「いいじゃないか。これにて一件落着。万事解決。それに、時間もギリギリだしな」
そう言って斑目先輩が腕時計を見せた。時間は8時前。メエのお誕生会の開始予定は18時で、学校までは約10時間かかるのでギリギリで間に合うぐらいだ。
「そうですね。マジさん、じいを呼んでください。場所は母屋の前で」
「わかった」
マジさんは電話をかけ、斑目先輩が全員を先導して歩き始めた。
「久しいな、音無のせがれ」
俺もついて行こうかと思って歩こうとした瞬間、当主に声をかけられた。
「お久しぶりです。お変わりなく、とはいかないみたいですけど」
「10年ぶりだ。何も変わらずとはいかんだろう」
「まったくもってその通りです」
当主の表情はさっきよりいくぶんかは緩い。そのおかげなのか、なんとかいつものペースでしゃべれてる。
「芽が世話になったな」
突然、礼を言われた。まさかいきなり言われるとは思わず驚いてしまった。
「まだまだ未熟な娘だ。苦労をかけた」
「最初のほうは苦労をかけられましたよ。俺だけじゃなくて生徒会も、周りの人間も。でも、今はなんとか俺がいなくても大丈夫なくらいにはなりましたよ」
「そこまで言うなら、わかっておるみたいだな」
俺はその言葉の意味がすぐにわかった。
「頼れば手助けぐらいはしてやるぞ」
「せいぜい食われないようにします」
「ゼロー! 執事さん来たよー!」
「今いく!」
俺は軽くおじぎをすると走ってバスに向かった。
「遅いぜ、副会長。タイムリミットは刻一刻と近づいているんだぜ」
「わかってますよ」
斑目先輩のセリフを流してバスに乗る。
さて、やっと帰れるみたいだ。
バスはゆっくりと出発した。