12月ー22 まだまだ足りていない
「決めたよ、お母さん」
「そうかい。で、どうするんだい?」
「ボクじゃ手伝えない」
手伝わないじゃなくて、手伝えないか。
「どういうことだい!?」
「わからない。でも、ボクなんかじゃ、まだ手伝えないって感じた」
メエは女狐の威圧的な瞳にも臆さず、まっすぐと目を見た。そこには感情の揺れはない。
「でも、芽が一番あの人を……」
「たしかに、ボクが一番向いているのかもしれない。でも、ボクじゃだめなんだよ」
メエははっきりと感じていた。ここまで来て完璧に、はっきりとわかった。
メエは自分の力をまだ完璧にコントロールできていない。
なんとなくはわかっていたが、やっぱりそうだった。あの力を完璧にコントロールできているなら、俺がヒントなんて出さなくてもわかったはずだ。
「お母さん、ごめんなさい。でも、きっと周りのみんなで助ければ……」
「認めないわよ!」
女狐はそう言って壁ぎわのボタンを押した。そうすると、壁だった部分が横に開いて外とつながった。そして、目の前の庭には大量の黒服。
「ちっ!」
いち早く俺がメエの前に出た。それに続いて、戦える人間は全員、臨戦体勢をとった。
「女狐。あんたはこんな方法でメエが思った通りに動くと思っているのか?」
「今は芽を渡さないようにするしかないのよ! 説得なんて後でもできるわ!」
完全に冷静さを失ってやがる。これは話して引かすのは不可能か。
「黒服たち! こいつらを捕まえなさい!」
そう指示された黒服たちの最前列にいたのは一番やっかいなやつだった。
「黒岩、あんたか」
そこにいたのは、腰に日本刀を差した黒服。さっき全力で戦い、なんとか排除した黒服、黒岩だった。予定では病院に行かなくてもいいが、今日は戦えないぐらいのダメージを与えたつもりだったが、どうやらダメージの見当を間違えたらしい。
それにしてもやばいぞ。俺はまだ完璧に戦える状態まで回復していない。こうなると黒岩クラスと戦えるのは斑目先輩だけになる。それは、俺らが斑目先輩抜きで非戦闘員をかばいながら戦うということだ。正直、かなり厳しい。
「夫人、よろしいですか?」
そんなことを考えていると、黒岩が口を開いた。
「なんだ?」
「自分は、夫人の命を聞けません」
黒岩はそう言った。一番前にいたことを考えても、黒服の中でもかなりの地位にいるのだろう。それが、いきなり裏切り発言。全員が固まった。
「お嬢様は学校のことをいつも思っていました。電話で話した後、後悔もしていましたが、それ以上に嬉しそうでした。私はお嬢様に学校に戻っていただきたいのです」
突然の事態に少し固まっていたが、女狐ははっとして黒岩をにらんだ。
「黒服たち。こいつを捕まえなさい!」
しかし、他の黒服たちもなかなか動かない。いきなりのことで混乱しているようだ。
「お前ら、早く……」
「待て!」
女狐の声を切り裂いて誰かの声がした。そして、空から何かが降ってきた。
「……メス?」
それは手術などで使われるメスだった。そして、俺はさっき叫んだ人間がわかった。そして、俺は全力で逃げ出したくなった。
「ずっと働いてくれた優秀な人間を1回、たった1回命令に背いただけで捕まえろなんて、それは強引だと思うよ。それに……」
まず最初は黒服の後ろにオレンジのまぶしい髪が見えた。そして、黒服たちが避けていき次に似合わない白衣が見えた。最後に、気に食わないにやにや顔。口にはタバコ。
「黒服たちは、あんたに忠誠は誓ってない。誓うのは当主だけだ」
現れたのは中山保健医がだった。