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開明高校生徒会録  作者: ヒッキー
12月
167/172

12月-21 知らなくてよかったのかもしれない

 俺の問いに笑った顔は完全にはがれ、動揺が表に出た。


「なんのことだい?」


「なんのことはないでしょ。ただ佐倉家の現当主で、佐倉グループの会長をされている佐倉 阿孟あもう氏の調子を聞いただけですよ」


 鏡を見なくても自分がかなり悪い顔をしているのがわかる。それくらい俺はあまりよろしくないポイントをついている。


「……いつも通りさ。今日も下から助言を求められて忙しいって言ってたわよ」


 間があったことを除けばなかなかきれいな解答だ。80点はあげてもいい。


「そうですか。なら、次の質問です。その『いつも通り』は、いつからの『いつも通り』ですか?」


「っ! あんた!!」


 女狐がこっちを睨んで立ち上がった。その反応は、俺よりも後ろのメンバーを一歩下がらせた。さすが、佐倉グループを支えてきた人間の1人といったところか。


「ねぇ、お父さんは……病気なの?」


 メエが少し震えた声で言った。メエも完全に気付いた。なぜ自分がこんなに無理矢理連れ帰されたか。


「……そうだよ」


 女狐は苦々しく言った。隠しきるのは不可能と判断したんだろう。


「メエ、どんな病気かわかるか?」


「わかんない。嫌な雰囲気はするけど、何かわかんない」


 さすがに病名まではわからないか。


「わかってほしいの、芽。あの人のサポートができるのはあの人の血を受け継ぐ、あなただけなの。あなたじゃないとできないの」


 ばれたらそうするしかないよな。しかし、それでいい。もうあの女狐に特別な情報カードはない。これでメエは単純に戦える。


「……」


 メエは悩んでいた。無言のまま、顔をずっと下げている。


「ゼロ、会長は大丈夫なのか?」


 マジさんが心配そうに聞いてきた。


「わかりません」


 俺は正直に答えた。


「わからない?」


「俺はただ、女狐の持っていた情報カードを全て出させただけです。その情報カードがメエに有利に働くわけではありませんから」


「なら、なぜそんなことを」


 マジさんはよくわからないという顔を全面に出して言った。


「マジさん、交渉において情報が多いほうと少ないほう、どっちが強いと思いますか?」


「? それは多いほうだろう?」


「普通ならそうです。でも、たまにいるんです。何もわかっていないのに核心をついてくる、メエみたいな存在が」


 俺やマジさん、ハルさんなど含めて、普通の人間は持っている情報カードを見て、そこから使えると思ったものを選んで出す。しかし、メエは違う。何も持っていないはずなのに、必要な情報カードが生み出される。そこに思考も判断も存在していない。


「そういうやつはなにもわかってないほうが強い。情報カードがあれば使い方のわからないものを気にして、思考や判断をしてしまいますから」


「……最初に私がした質問の答えになってないんだが」


 たしかに、これでは解答にはならない。


「俺たちはメエが帰りたいと言ったから来ました。そして、帰ったとします。しかし、後でメエがすべてを知ったら? たぶん後悔します。これは自分で選んだ結果なんですから」


 マジさんは何か言おうとしたみたいだったが、口をつぐんだ。メエだけの責任ではないと言いたかったんだろうが、自分を責めるとわかったのだろう。


「だから、メエはすべてを知って決断しないといけないんです。開明に帰るかを」


 俺はそう言いながら小さなメエの背中を見た。


 メエが悩みだして15分ぐらいたった。悩んでいるメエにとって、はたして長く感じているのか、短く感じているかはわからないが、結構な時間だ。


「いやはや、あっさり解決とはいかないねぇ」


 ハルさんが後ろから顔を出して言った。


「しょうがないですよ。あっさり答えが出ていい問題じゃないですし」


「しかしかし、もしメエちゃんがこっちに来ると言わなかったら逃げる算段だったでしょ? その場合はどうするの、ユー」


 ハルさんがわけのわからない行動をしまくっているが、これには突っ込まないでおこう。場面があれだし。


「予定では、逃げた後にこの原因を調査。判明したらこっちが話し合いの場所をセッティングするつもりでした。さすがに情報不足のまま敵地のど真ん中で戦いたくはないですから」


 そこまで説明してハルさんを見ると、すごいニヤニヤしていた。


「……なんですか?」


「ん? 温かい目」


 わけがわからない。


「ゼロがとてもメエちゃんを大事にしてるんだなぁ、と思ったらこんな目になっちゃったのだよ」


 余計わけがわからない。そして、なんか後ろにいるラブの視線が冷たい。できれば足して2で割ったような普通の視線をお願いしたい。


「……決めた」


 そんなことをしていると、メエが顔を上げて前を向きそう言った。


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