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開明高校生徒会録  作者: ヒッキー
12月
166/172

12月-20 狐と呼ばれた魔女

「……中も広いですね」


 ラブは建物を見回しながらそう言った。


「別荘とはいえ日本最大クラスの会社社長の別荘。しかも、こんな山の中だしな」


「それよりもゼロ、会長についていってるだけだが大丈夫なのか?」


 マジさんが心配そうに聞いてきた。その理由はおそらく、この母屋の構造のせいだろう。


 この母屋は広く部屋数も多いが、使われている部屋はごく少数である。そして、同じデザインの部屋が延々と続く。これは侵入者がいたときに侵入者の距離感を狂わせ、自分の位置をわからなくさせる罠である。たぶん、マジさんもあまりに同じ風景が続いているから不安になってきたのだろう。


「問題ないですよ。こういう小細工はメエには通じませんから」


「?」


「それに、一応俺が歩数で位置を把握してますけど、間違いなく目的の部屋に向かってます」


 疑問符を投げてきたマジさんにそう補則しておいた。


 メエの能力はギリギリまで隠しておこう。知らないで終われるとは思えないが、知らないで終われるならその方がいい。


「ここだよ」


 考えているうちにメエが1つの部屋の前についた。


「ここに悪の親玉がいるのかい? そしてハルちゃんの正義の光に焼かれて消滅しろ!」


「とりあえず、こんなところでボケないでください」


 そんなやりとりで場を和ませて、俺は扉を開いた。


 中は普通の和室。そして、その中央に茶器と女性が1人いた。黒髪をかんざしでまとめて、服は着物。表情は笑顔だが、強い眼光を持っている。齢はだぶん42ぐらい。


「あらあら、噂の侵入者さんたちですね。少し落ち着いてお茶でもしませんか?」


 そう言って、女性はお茶をたて始めた。どんなやつが現れるのかと警戒していたこっちの陣営は、あまりに予想と違ったので警戒を解いた。


「そんな手に乗ると思ってるんですか、命座みょうざ婦人……いや、魔女や女狐と呼んだほうがいいですか?」


「あら、知ってるのがいたのね」


 さっきの雰囲気より少し嫌な雰囲気になった。そして、お茶が出された。


「わかってると思いますけど出されたお茶は飲まないでくださいね。毒は入ってないでしょうけど、睡眠薬ぐらいは入っててもおかしくないですから」


 俺とメエ、斑目先輩をのぞく全員が警戒を強めた。


「失礼な坊やだね」


「そう思われても仕方ないようなことをしてきたのはあなたでしょう」


 俺は特に表情を変えることなく言った。


「……それにしても」


 それが微妙に怖かったのか斑目先輩のほうに目をそらした。


「芽と話した坊やが警戒しないのはわかるけど、そっちの金髪坊やはなんで無警戒なんだい?」


「気にしないでください。これが俺の基本スタイルです。それよりも娘さんとの感動の再会なんですから、娘さんの顔を見てはっきりと腹を割って話してくださいよ。俺らなんてその辺の石ころ以下の空気として扱ってくれて結構ですから」


「……まさかさらにやっかいな坊やがいるとは思わなかったよ」


 女狐は苦笑いしながら言った。どうやら、今の応答で斑目先輩は俺やメエより相手にしてはいけないと判断されたらしい。実際いい判断だろう。斑目先輩とは話すべきでない。


 斑目先輩は知ってる情報を交渉に使わず、当たり前のように言う。普通ならこちらの持っている情報カードはできるだけギリギリまで隠しておきたい。しかし、斑目先輩は情報カードをただオープンする。それで相手の心の揺れをつかんで、相手の情報カードを理解する。


 斑目先輩は間違いなく、この中で最強の戦闘力、最強の交渉力、そして最強の判断力を持っている。そんなのをわざわざ相手にするなんて間違っているだろう。


「話があるんだ、お母さん」


 メエが一歩踏み出して言った。後ろからでもメエの強い意志を感じれる。


「言ってごらん」


 女狐も斑目先輩から目をはなして、メエを見た。ちょうど斑目先輩から話をそらしたかったのかもしれないが上出来だ。とりあえず、席にはつかせた。ここからはメエを信じるのみだ。


「ボクはまだ開明高校をやめたくない」


 メエは特に強く言わず、ただはっきりと言った。


「なんでだい?」


 それをしっかりと聞いて女狐は反応した。しかし、雰囲気はゆずるような様子はない。完全対決の構えだ。


「ボクはまだ開明高校でみんなといろんなことを学びたい」


 相変わらずメエの意見は単純にまっすぐだった。今この時点で正しい解答とは思えない。しかし、メエを止めるつもりはない。


「開明高校じゃないといけないのかい? 他の高校じゃいけない理由はあるのかい?」


 さて、重要な問いが回ってきたぞ。メエはどう応える?


「わからない」


 正直、ずっこけそうになった。ここまで言って、わからないかよ。


「でも……開明高校じゃなきゃいけない気がするんだ」


 その応えに女狐は少し笑った。


「……今の受け答えではっきりしたよ。芽を開明高校に戻すわけにはいかない」


 ……やっぱり。やけに焦ってメエを呼び戻した理由はそこか。


「嫌だ。ボクは開明高校を離れたくない」


「わかっているのかい? 芽が開明高校に通えてるのは親である私が学費を払っているからなのよ。芽のわがままでどうにかできる問題じゃないのよ」


「それはそうかもしれないけど、でも……」


「ストップ」


 俺はメエの言葉を止めた。


「なんだい? 親子水入らずの会話に差し水かい?」


「ちょっとした疑問が生まれて、聞くタイミングなら今かなと思ったので」


 俺の答えに女狐は軽く苦笑いをした。


「で、なんだい?」


「ご当主は元気ですか?」


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