12月-17 すべて読めるからすべて読まれる
「何?」
信じられないように黒服が言った。
「あんたの陽炎、システムはただのフェイクだろ」
あいつのやっていたのは超高度な騙しだ。こちらから攻める場合、迎え撃つほうが何倍も有利なのは言うまでもない。ゆえに、近距離の高速戦闘ができる距離までは相手の動きの読み合いになる。それがいわゆる、敵の隙を探すということだ。
しかし、あいつはそれを逆手に取った。体軸の動き、微妙な視線の動き、構えの高さなどをすべてある一点の行動のために動かしておいて、それを狙ってきたら強引にずらす。それで、そこにあるはずの黒服がすり抜けたように感じたのだ。
「それならあんたが太刀を使っている理由や、サングラスを外して体を揺らし始めた理由にも説明がつく」
太刀はこちらより長い刀。ゆえにこちらのリーチよりも黒服のリーチが長い。リーチが長いということは、相手の攻撃を掻い潜らなければこちらは攻撃を仕掛けられないということだ。ゆえに、こちらは黒服の動きをより読まないといけなくなる。
さらに、サングラスを外すことで視線という情報を与えた。体を揺らしたのは、これも選択肢を制限するためだ。体を揺らすと、体にいらない力が入るためできる行動が制限される。
「……たった2回で見破ったのか」
「あんただって俺の秘密に気付いてるんだろ」
「……到底、信じられないがな」
「だったら、それが正解だ」
「ならばお前は、筋肉を暴走させれるのか」
筋肉を暴走。言い得て妙だな。
人間は筋肉をフルパワーで使うと筋肉が壊れるため、無意識に2、3割までしか使えないようにしているというのは有名な話だ。そして、それを突破できるなんてのもよくある話だろ。
ただ、俺は筋肉が他の人間より異常にしなやかで強固だったためできるだけなので、出せても6割ぐらいが限界だ。しかし、それだけ出せれば人間の域を越えることはできる。
まあ、いままではたいてい、4割程度しか出していなかったのだが。
「しかし、それも無理か」
俺はゆっくりと構えなおした。剣道でよく見られる右手右足前、中段の構え。そのままゆっくりと深呼吸。体の中心に通る芯にエネルギーをゆっくりと、大量に送る。そしてどんどん熱くなっていく体を感じながら、俺は大きくため息をついてつぶやいた。
「最悪の気分だ」
これが、本気の本気だ。