12月−15 最強の助っ人たち
「まったく。なんでここにいるんですか? というか、どうやってここがわかったんですか?」
「ちょっとしたコネと有能な会計さんのおかげだよ」
ハルさんがやったのか。どうやったかはわからないけど、昨日の夜だろうな。
「さて、ここは俺がどうにかしてあげるから、君は白馬の王子様になってお姫様を助けに行っておいで」
「あんたが言うと気持ち悪いの一言で片付けたくなりますけど、今だけは感謝させてもらいますよ」
俺は木刀を投げた。当然、黒服たちは反射的に避ける。その一瞬の隙で俺と斑目先輩は一気に駆け抜けた。黒服たちも気付いたが、俺たちはすでに黒服の集団を越えた。
「ここからは俺を倒してから通ってもらう」
斑目先輩は小屋の入り口で振り返ってそう言った。そして、腰から模造刀を2本引き抜いた。右手に長刀、左手に小太刀。そして、独特の構えを取った。
「斑目二心流、斑目龍騎。久しぶりの本気モードだ」
俺は勝手に名前を名乗っている斑目先輩にここは任せて、先に進むことにした。
「まったくよ。うじゃうじゃ出てきて、虫か!」
「人を虫で例えるのは失礼だと思います」
「あんたは相変わらず頭が固いな。悪口なんだから失礼であるべきなんだよ」
……こんなことを話しながらすでに30人近くの黒服を2人で倒している。正直、楽で暇。
「そういえば、どうやってここに来たの?」
ゼロが言うには、ここは基本見つからないはず。
「さあな。俺はあのバカが動くから付いてこい、って言ってきたから来ただけだ」
「私も、あなたたちを助けると聞いて動いたんです」
つまり、誰もわかってないと。
「ふぅ」
なんだか疲れてしまった。正直、どうでもいい。
ガッ!
私は突っ込んできていた黒服を軽くいなした。
「早く終わらせて帰ろう」
私の言葉に話していた2人は頷いた。
「いやいや。すごいね、こいつ」
バスの下、そこで宮野先輩はテンション高くキーボードを叩いていた。
「美香ちゃんの手足のように動いてくれるよ」
「……噂は、本当だったんですね」
かなり前から流れていた噂だ。生徒会前副会長、宮野美香先輩。表ではちょっと変わったキャラだが、裏ではハッカーとして活躍している。
「そうだね。ただ、違法行為はしてないよ。企業とかに依頼されて、耐久性をチェックしているの。本音を言えば私の専門はハッキングで、クラッキングは専門外だから直接システムを見せてもらいたいんだけどね」
「宮野先輩。ありがとうございます」
私が頭を下げると不思議そうに見た。
「なんでお礼を言うの? 私は開明高校の生徒として会長を助けに来ただけだよ」
「……実際、私は実力不足だった。宮野先輩がいなければ、負けていた。私は、自分の才能のなさが悔しい」
「……会長ちゃんを連れて帰ったらさ、ハッキング教えてあげる」
宮野先輩がディスプレイを見ながら言った。
「ハッキング自体は違法じゃないからね。その技術を知るのはいいことだよ」
「しかし……」
「私の後継者が才能ないなんて言わせないよ」
宮野先輩は明るくそう言った。その言葉を聞いたら、なぜかどうでもよくなってしまった。
「……よろしくお願いします」
「うむ。じゃあ、早く会長ちゃんを助けないとね」
花咲さんが大きく手を振った。それによって黒服が警戒して突っ込んでくるのをやめて、その場で立ち止まる。しかし、ハル先輩の手にはスーパーボール。
「ハルちゃんスペシャル、ver.1.01!」
ハル先輩の手から放たれたスーパーボールは黒服の前で地面にぶつかり、バラバラに跳ねた。変な方向に跳ねたが、それは空中で突然、進行方向を変えた。空中に張り巡らされたほとんど見えないワイヤーに当たったのだ。スーパーボールは空中で跳ねるごとにスピードを上げていく。そして、四方八方から黒服を襲った。
「撃退!」
突っ込んできていた黒服たちは全員やられた。
「……私たちの出番、ありませんね」
「そうね」
私だけでなくアスカちゃんや式守さんまで手持ちぶさたな状態になっていた。
「こんなことなら志木部長と一緒に行けばよかった」
「そういえば、風紀部の人以外は誰か来ているんですか?」
「前生徒会の三頭も来てるわよ」
三頭……斑目先輩、宮野先輩、波照間先輩のことかな。でも、他の役員の人は来てないのかな?
「説明しよう!」
「きゃっ!」
ハル先輩がどこからともなく現れた。
「去年はトップ3があんなんだから誤解されやすいけど、他の3人はいたって普通の優等生なのだ」
「え? そうなんですか?」
てっきり、斑目先輩の集めた特別な人たちだと思ってた。
「斑目前会長はそのさらに前の会長に気に入られていて、早い段階から次期生徒会長が内定しており、役員も自分で決めていいと言われてたのだ。
最初の斑目政権は2年3人、1年3人のメンバーを揃えるつもりだったけど、それに前前会長が難色を示した。一応、決定権は前前会長が持っていたため、やむなく適当な2年3人を選んだってわけ」
「そうだったんだ」
気付けば、敵が落ち着いていたため全員がハル先輩の話を聞いていた。
「あの、なんで藤原先輩がそんなことを知ってるんでしょうか?」
「みずくさいじゃないか、姫ちゃん。私のことはフレンドリーに師匠と呼んでよ」
「師匠ってフレンドリーにはほど遠いですよね!?」
私はすぐに反応できたけど、他のみんなはどうリアクションすべきか困っている。
「おっと、慣れてない人ばっかりなのにあまりにも遊びすぎたね。えっと……そうそう。なんで知ってるかだよね」
ハル先輩は自分で話を戻した。
「それについては簡単に説明できるさ。だって、私はその1年役員予定の1人なんだから」
ハル先輩は明るく言ったけど、こんなにあっさり言ってよかったんですかね?
「正確にはハルちゃんとマジ、サーリーの3人だよ」
「部長もなんだ」
どうやらサーリーで志木さんだということは周知らしいです。
「斑目前会長曰く、私は斑目前会長、マジは美香先輩、サーリーは波照間先輩を受け継ぐような形にして回していくつもりだったらしいよ」
上から下へ技術を引き継いでいく、ってことですね。
「でもさ、今考えるとそれって不可能だったんだよね」
「え?」
ハル先輩は遠くを見た。そこには黒服の第二波。前に倒した黒服も何人かは回復し始めていた。
「お話おしまい。続きはまたの機会に」