12月-12 こんなところにいます
出発して約10時間。バスは山道の中を通っていた。道は整備されていないように見えて、かなり緻密に整備されていた。
「かなり整備された道だな」
「見た目はばれにくいようにしてますけど」
山道を少し進んだ先。そこでバスが止まった。
「? 着いたの?」
ハルさんが不思議そうに周りを見回した。実際、道は続いてるし、周りは相変わらず山だらけだ。
「ここから先はちょっとやっかいなんで歩いていきます。ついて来て下さい」
俺はバスのドアを開けてもらい、山道をちょっとはずれた道を進んだ。
「こんなものでいいのか?」
「ここのセキュリティはゆるいんですよ。そもそも、見つからないことが前提みたいな場所ですから」
2kmほど歩くと目的地が見えた。
そこにあったのはあり得ないほど大きな家。池などがある広い日本庭園のような庭に、大きな平家建ての母屋、その横には小屋が3つある。
「ひっろー!!」
ハルさんがあり得ないものを見るように叫んだ。
「これが会長の実家なのか?」
「正確には別宅ですね」
「別宅……」
ラブはもはや次元の違うもののように見ている。
「おそらくメエはあの奥に見える小屋にいます」
俺は母屋に少しかくれている小屋を指した。
「わかるのか」
「ええ」
マジさんは細かいところまで聞いてはこなかった。
「で、どうやって助けるの?」
榊がそう言った。
「作戦は単純だ。3つ門が見えるだろ。その3ヶ所から同時に奇襲をかける」
「…………え? それだけですか?」
ラブは不思議そうに言った。
「それだけだ」
「秘密の脱出路を使って、みたいなことは?」
「ない。あるかもしれないが、俺は知らない」
「……そうですか」
ここまで言われるとラブも何も言わなくなった。
そもそも、戦力不足を指摘したのはこういう事態を予想してだ。こっちの戦力で戦闘が強い面子は俺と榊ぐらいなものだ(ハルさんはオールラウンダー、ラブは特殊)。
それで一番追い詰められたのは風紀部の騒動だ。あのとき、偶然ラブが勝てる相手がいたことと、体育館で斑目先輩がうまくやってくれたおかげでどうにかなったが、普通なら戦力を4ヶ所に分けないといけない時点でこっちの負けになる。
まあ、戦力が必要な生徒会なんて普通ならマンガの中だけしかないけど。
「さて、戻りましょう」
とりあえず、細かい作戦はバスで決めることにした。
「しかし、3ヶ所から攻めると言ってもどうするんだ?」
バスに戻っての作戦会議。マジさんがそう言った。
「どうする、とは?」
「たしかにセキュリティはゆるいが、さすがに監視カメラや防犯対策ぐらいはついているだろ。まさか、そこも強行突破か?」
その通り。記憶が正しければ監視カメラもあるし、門の開閉は電気制御だったはずだ。
「そこをマジさんにお願いしたいんです」
俺はそう言ってバスの側面についた荷物用のトランクを開けた。そこにあったのはバスに取り付けられた大量のコンピュータだった。
「これは……」
「こいつは拠点攻略のために俺が作らせたんですけど……」
「ゼロがパソコン使えないのに?」
「……」
ハルさんのツッコミに空気が止まった。
「……話を続けます」
「珍しいハルちゃんの鋭いツッコミはスルーなのだね? オーケーオーケー。ハルちゃんは笑いながらスルーに耐えるかわいそうな女の子になれるのだ」
「こいつの機能として……」
「本当にスルーしないでぇぇぇぇぇぇぇええ!!」
ハルさんが俺とマジさんの間に入ってきた。
「真面目な話を切らないでください!」
「ゼロがとても真面目な話をしていて冷たい空気だったから爆発させてやろうと思ったんだよ!」
「見事に爆発しましたよ! おかげで空気が完全に凍り付きましたよ!」
あえて突っ込まないようにしてたのに!
「ふふふ……これ以上話したければ暗黒界序列第12万2682位、悪魔軍最強の軍曹、いないと困るけどいなくても問題ない、と呼ばれる設定があるハルちゃんを倒してみせろ!!」
「いろいろ突っ込みどころ満載ですけど、とりあえず暗黒界序列の約12万位って威張れるほどなんですか!? 最強の軍曹って微妙すぎるでしょ! しかも扱いは完全に便利屋ですし! そして最後に、設定とか言っちゃたらだめでしょ!!」
すべての突っ込みどころを全部突っ込んでハルさんを見たら、なぜか満足そうにしていた。
「さすがの突っ込みだ。我の負けだ。好きなだけ話せ」
なぜか勝ったらしい。とりあえず、邪魔者はいなくなったから話を再開しよう。
「こいつは場所に関係なく、もっとも近くにある無線から強引にネットにつなげて、強引に相手のパソコンに侵入する、ハッキング専用のパソコンです。スペックは、さすがにスパコンとまではいきませんけど、企業で使われている大型のやつくらいは装備しています」
実際、話を聞いただけなので、細かいことまではわからないけど。
「……設定をいじったりして大丈夫か?」
「はい」
むしろ、してほしい。
マジさんはキーボードを叩いていろいろなことをしだした。
「それの調整って早朝までにできますか?」
「してみせるよ」
マジさんがかっこよく言ってくれた。