12月−9 すべてを選ぶかいとう
『……なので冬休みは……』
12月24日。今日は終業式の日だ。今は生活指導の教師が冬休みの諸注意を説明している。
『……して、ちゃんとケガのないようにすること』
長かった生活指導の話が終わった。いつもならこれでおしまい。しかし、今回はこれで終わらない。
『続いて生徒会から緊急生徒総会です』
司会の先生はそう続けた。体育館はあきらかなブーイングはないが、なんか嫌なムードは流れている。
「……質問だ」
そんな雰囲気のなか、放送が流れ始めた。突然のことに体育館は少しざわざわし出した。
「学校は、好きか?」
『え?』
メエの声が聞こえて、スピーカーに集中が集まる。
『……大好きだよ』
「どんなところが?」
俺は間髪入れずに続けた。
『みんなが優しくて、楽しそうで、いつも笑顔で、いたら温かい気持ちになって……みんな……』
どんどん声が小さくなっていく。
そして、体育館もどんどん静かになっていく。
「……メエ、帰りたいか?」
『……たいよ』
「え?」
『帰りたいよ!! 帰ってみん』
メエの電話が切れて、放送も切れた。すでに、体育館は静まりかえっている。
俺はそんな中、壇上に上がった。
「これが会長の言葉だ」
シーン、となっている体育館に俺はそう言った。
「この生徒総会では多数決を取りたいと思う。生徒会が現生徒会長、佐倉芽を助けに行く。それについて」
それに対して生徒側だけでなく、教師側もざわついた。
俺達生徒会は、メエの奪還を同じ学校の仲間たちに決めてもらうことにした。すべてを生徒会が決めては意味がない。だから、あいつが誰もからいてほしい存在かを聞くことにした。
「質問していいですか?」
そう言って、手を上げたのは式守だ。
開明高校は集会のとき、一番前に学級委員長が並び、後ろは出席番号順に並ぶ。そして、生徒総会は学級委員長が質問をしたりする。
「どうぞ」
「今回、会長を助けに行くと言いましたけど、生徒会のみですか?」
そういえば、式守は学級委員長だったな。いつかの敵意むき出しの雰囲気とは全然違うな。当然かもしれないけど。
「そうです。基本は生徒会が動きます」
「なら、私もよろしいですか?」
今度は志木さん。
「会長を助けに行くのはいつごろからするつもりですか?」
「今日ここで賛成多数となったらすぐに」
「今日すぐに、ですか?」
志木さんだけでなく、他の一部の生徒も驚いていた。すぐに行動は予想外だったみたいだ。
「俺もいい?」
軽い雰囲気で手を挙げたのは斑目先輩。俺はなんとなく身構えている。
「……どうぞ」
「会長を助けに行く。かっこいいねぇ。でも、それの影響はわかってる?」
……影響?
「君達は生徒会として行くわけだ。つまり、君達の行動は学校の評価につながる」
……体育館に大きな変化はない。しかし、俺は動揺を隠すのに必死だった。
もし問題を起こしたら学校の評価が下がる。斑目先輩は暗に『成功しようとも多くの生徒や学校に迷惑をかける可能性がある』ということを伝えていた。
「さて、答えてもらえる?」
斑目先輩は目を細めた。ここで間違えたらおしまいだと訴えかけるように。
「答え、ですか」
きっとメエなら心に思ったことがこの場の答えになるんだろう。でも、俺は計算して正解を導かないといけない。まったく、最悪だ。
「会長は学校の代表であり、1人の生徒です。1人の生徒を助けられないのに、多くの生徒を助けることが……」
「そんな解答は求めてないよ」
自分でもかなりできあがっていた解答だと思った。突然言ったが、他の生徒もいい解答だと聞いていた。
しかし、そんな解答は斑目先輩によってぶった切られた。
「君の回答を聞かせてくれ」
斑目先輩はそう言った。
正直、斑目先輩の求めている回答はわかっている。しかし、それは間違っている。きっと斑目先輩は納得させられる。しかし、その代償にここの大半の票を失うだろう。
……最悪な気分だ。俺は選ばされている。解答を示すのか、回答を示すのか。
ちょっと心を落ち着かせよう。そう思って考えをやめ、前を見た。
そこにいたのは開明高校の生徒。壇上という場所は意外と人が見える。こっちを見ている奴もいれば、完全に明後日の方向を見てる奴、眠そうな奴も見える。……あいつは、この視線を集めていたのか。
「……さっきも言った通り、メエは1人の生徒です」
俺はしゃべり始めた。
「メエ1人を助けられないようで多くを助けられるわけがありません。しかし……」
ただ何も考えず、ただ口を動かす。
「これがメエじゃなかったら、きっとここまでしません。俺はいろんなことを言ったが、結局はメエを助けたい。それが……俺の回答だ」