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開明高校生徒会録  作者: ヒッキー
12月
154/172

12月-8 校舎の上で……

 夕日に染まった、とまではいかないが、少しオレンジ色に染まった階段を俺は昇っていた。周りには当然、誰もいない。


 いつも、この時間に階段を降りて生徒会棟に向かっているはずなのに、今日はいつもと全然違う気がする。周りに人がいないからなのか。


 こうしてみると、学校というのは寂しい場所に感じる。……いや、これは俺の気分が落ちてるからそう感じるだけだ。学校が寂しい場所なわけがない。


 タッ、タッ、タッ……


 最後の階段を昇っていくと、そこにはただ外とつながる扉があるだけの踊り場。そして、その扉にゆっくりと手をかける。


 ガチャ


 扉を開いたら、まず、吹き込んできた冷たい風が頬を刺した。そして目に飛び込んで来たのは、茜色に染まった空と、屋上にたたずむラブだった。


「やっぱりラブか」


「……わかっちゃうんですね」


 ラブは夕日を背に、笑っていた。しかし、その笑顔は最後に見たメエの笑顔に似ていた。


「ラブだって、俺がわかるのがわかってたろ」


「なんとなく、ですよ」


 いつもよりラブとの会話がぎこちない気がする。


「どうしたんですか?」


 しかし、ラブはいつも通りにも見える。……なら、なんでだ?


「それは、ゼロくんがいつもと違うからです」


「!!」


 ラブに心を読まれた!?


「今日のゼロくんは読めます。いつもは心まで闇で覆ってるみたいになってるのに、今日は無防備になってる」


 俺は確認するように自分の左胸をさわった。しかしそこから聞こえたのは、早くなっている心臓の鼓動だけだった。


「ゼロくん」


 俺は体まで反応しなかったが、心は警戒するようにびくびくしている。


「聞いてほしいことがあるんです」


「な、なんだ?」


 初めてかもしれない。こんなに人が怖いと思ったのは。


「私の気持ちをあなたに伝えます」


 自然と体に力が入る。


「私はあなたのことが、好きです」


 ……え?


「あなたのことが大好きです。もちろん、LIKEではなく、LOVEです」


 ラブから告白。


 正直、わかっていなかったと言ったらうそになる。自分を騙しながら、心のどこかではわかっていたはずだ。


 ラブが俺を気にしていたことは。


「大丈夫です。私はどこにも行きません」


 ラブは俺の心の弱くなっている部分をつくように、俺の求めている言葉を与えてくれるように、俺の気持ちをわかってくれるように、言葉を選んでいた。


「これからは私がゼロくんをフォローしてあげます」


 ラブの言葉を聞いてると、すがりたくなる。そして、自分がどれだけ弱くなっているかがわかる。


 でも、受け入れることは弱い心が拒んでいる。なぜかはわからない。しかし、拒んでいる。


「ラブ、俺は……」


「答えないでください」


「……え?」


 答えようとしたわけではなかったが、なぜかラブは俺の言葉を止めた。


「きっと今なら、私でもゼロくんを頷かせれます。でも、メエちゃんのいない場所でそれはできません」


「なんでだ?」


 ラブは真面目な顔で言ってるが、おかしい。


「メエちゃんはいつも、みんなが大好きです」


「だから、なんなんだ?」


「だから、誰もメエちゃんを悲しませたくはないんです。メエちゃんの気持ちを、裏切れないんです」


 そこまで言われてやっとわかった。榊の言ってることの意味が。


 あの無邪気を裏切るなんて考えてもできないわけだ。結局のところ、俺も。


「はぁ、悲しくなってくるな」


 それなのに、俺はメエにいろいろなことを言ってたわけだ。


「……ラブ、頼みがある」


「なんですか?」


「メエの携帯に、電話をかけてくれないか」


 ラブは笑顔で頷いてくれた。


「……どうぞ」


 ラブは携帯を渡してくれた。耳を当てると、何度かコール音がした。そして、ちょうど8回目にそれは切れた。


『……ラブ?』


「残念ながら、俺だ」


『ゼロ?』


 不思議そうにしているが、驚いてはいない。


『……どうしたの?』


 落ち着いた声だ。悟ったような。近くに誰かいるのか。


「……質問だ」


 ゆっくりと話し始める。


「学校は、好きか?」


『え?』


 この質問は予想していなかったようだ。


『……大好きだよ』


「どんなところが?」


 俺は間髪入れずに続けた。


『みんなが優しくて、楽しそうで、いつも笑顔で、いたら温かい気持ちになって……みんな……』


 どんどん声が小さくなっていく。


「……メエ、帰りたいか?」


『……』


「帰って、またみんなと笑える日常を送りたいか?」


『……』


 答えない。やっぱりダメか。


『……たいよ』


「え?」


『帰りたいよ!! 帰ってみん』


 メエの言葉は切れ、プープーという電子音が残った。


「ラブ、ありがとう」


 携帯をラブに返した。


「どうでした?」


「あいつの答えが聞けた」


 その答えにラブは微笑んだ。


「さて、これからどうするか。マジさんに会話を録音してもらってればよかったな」


「できてるぞ」


 屋上に現れたのはマジさん。


「どういう、ことですか?」


「ごめんなさい。実は真島先輩に頼んでいたんです」


 ラブは申し訳なさそうに、マジさんはいい笑顔でいた。


「はは……俺って、そんなにわかりやすかったですか?」


「「前よりは」」


 2人に言われてしまった。


 しかし、おかげで道は開かれた。まだ用意しないといけないことはあるが、それでもいける。


 あいつを取り戻す。


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