12月-3 現実はとても厳しい
シーンとした空気。さっきのように感情が殺された静寂と違い、誰もがどう反応すればいいかわからないという感じの空気。
「……どういう、ことなの?」
この静寂を破ったのは、ラブだった。
「諦めるっていうのは、メエちゃんを助けることだよね?」
「そうだ」
「何でですか!? いつものゼロくんならメエちゃんを助けるはずです!!」
ラブの顔は必死だ。その理由はわかっている。
「ラブ、お前ならわかるだろ。俺がどう思っているか」
「わからないですよ! わからないから聞いてるんですよ……」
おそらく、ラブはわかっている。俺が考えていることを。
しかし、ラブは認めようとしていない。俺が考えていることを。
「どういうことか説明してくれるな、ゼロ」
さすがに、説明なしで止まることはないか。
「理由は2つです。1つは、マジさんがどんなに探しても完全に見つけるのは不可能だからです」
「それは私の実力が足りないと取ってかまわないのか?」
マジさんは厳しい表情で聞いてきた。
「いいえ、違います」
俺は重くなりすぎないように言った。
「マジさんの実力は関係ありません。極端な話、今やろうとしていることは、普通の高校生がどっかの組織とけんかするみたいなものです」
「不幸な高校生が必殺技、男女平等パンチを武器に魔術師たちと戦う感じ?」
「どこの魔術VS科学ですか!」
ハルさんの頭の中はこんなときでも相変わらずらしい。
「むしろCの3乗でしょ」
「どっちも違いますよね!?」
ラブが突っ込んできた。なぜだ?
「もう1つはなんだ?」
マジさんが真面目な顔で続きを促すので、冗談はこの辺にしておこう。
「絶対的な戦力不足です」
「戦力?」
マジさんは意味がわからない感じだ。
「まさか説得してメエが帰ってくるとは思ってませんよね? 話し合いなんて、しようにも門前払いくらいますよ」
マジさんは「そんなバカな……」とつぶやいたが、話し合いでうまくいくなら、連れ去られる段階でメエを助けてる。
「ニヤニヤ……」
……なぜかハルさんがニヤニヤ言いながら、ニヤニヤとこっちを見ている。
「なんですか?」
「いやいや、ゼロにちょっと嫉妬してたんだよ」
あのニヤニヤ顔で何を言ってるんだか。それよりも、なぜ嫉妬?
「私たちよりもメエちゃんのことを知ってるみたいだし、どこまでいってるのかな、なんて」
「どこまでも何も……」
「そこで!」
聞いといて答えにかぶせますか。
「ハルちゃんのする数個の質問に、正直に、答えて欲しいんだ」
わざわざ正直に、を強調してきた。しかし、ここで無理に拒否してもいいことはないか……。
「わかりました。ただし、黙秘権は下さいよ」
「OK! では最初に、メエちゃんとキスは……」
「黙秘権を行使します」
やっぱりハルさんはハルさんなのか?
「冗談だよ、じょ☆う☆だ☆ん」
本日のハルさんはキャラが安定してない気がする。
「では、真面目な質問です! 戦力不足っていうのは私やなっちがいて不足?」
なっちって……榊か? なんか不思議なニックネームが付いてるな。
それよりも質問だ。……黙秘する意味なんてないだろうな。
「そうですね」
「じゃあ、もしゼロが入っても?」
俺が入ったら?
「……不足してますね」
俺が入ったぐらいでどうにかなるとは思えない。
「ふーん……じゃあ、これが最後の質問」
「最後ですか」
「ハルちゃんはメエちゃんを連れて行った人間を、ゼロが助けなかったことから、メエちゃんに近い人間じゃないかと思ってるわけなのだ。例えば、メエちゃんの親とか。
そこで質問。メエちゃんの家って、どういう家なの?」
……やけに遠回しな質問を連発してくると思ったら、すべてはこの質問のための布石か。
できれば口先で逃れたいが、マジさんの情報網にひっかからない、ハルさんや榊だけでは突破できない家がまともなんて、あり得ないよな。
「ゼロ、正直に、答えて」
生徒会メンバー全員が固唾を飲んで、こっちを見ている。……しょうがないか。
「わかりました。正直に答えます」
こうなったら、何も言わないというのは無理だ。
「メエの親は、佐倉グループの会長です」




