11月−12 嵐の前に駆け引き
「……眠い。」
今の時間は午前8時前。せっかくの土曜日だが、こんな時間に起きないといけない。理由は簡単だ。俺が寮生だから。
寮生というのは食事に関しては1人暮らしの数倍楽だ。昼飯以外は寮の食堂で食べさせてもらえるし、昼飯も休みの日とかに頼めば作ってくれる(別料金)。
不便なところといえば、昼飯はチャージしたマネーカードを使わないといけないところと食事の時間が決まっているとこ。
ちなみに朝食は平日はAM7時〜AM8時半。休日はAM7時〜AM9時。ギリギリでもいいんだが、その時間は混むのであまり好きじゃない。ゆえにこんな時間に起きて朝食を食べようというわけだ。
「朝食下さい。」
「はいよ!」
おばちゃんが元気に返事して、手早く用意してくれた。朝から元気だよね。
「お待ちどうさま。」
そんなに待ってないが、いつも通りの決まったセリフで朝食が出てきた。
適当に座れそうな場所を見つけて座る。
「前、いいですか?」
まだまだ席に余裕があるはずだが、と思いながら視線を上げてみるとそこには志木さんがいた。となりには不機嫌そうにそっぽを向いてる式守もいる。
「もちろんどうぞ。」
「失礼します。」
志木さんが俺の前に座り、式守がその隣に座るような形になった。
「久しぶりだな、式守。」
「そうかしら?」
「白桜祭から避けられてるみたいだったからな。」
そう言うと式守はちょっと頬を赤らめた。どうやら、式守はかなりうぶだったようだ。
「そんなことないわよ!」
「式守。」
式守をじっと見つめた。式守が驚きで大きく見開いた目に、俺が映っている。だんだん式守の顔が真っ赤になっていき、湯気みたいなものが出てきた。
「そろそろ許してやってくれないか。」
ちょっと楽しくなってきたんだが、志木さんに止められた。……榊の気持ちがわかりそうで怖いな。
「大丈夫か、式守?」
「だ、大丈夫れす。」
「まだ顔が赤いな。熱があるんじゃないか?」
そう言って志木さんが式守のおでこに自分のおでこを当てた。
「せ、せせせせせせ……」
そんなことすれば、式守の顔が真っ赤になっていくわけで……
バタンッ!
「式守!?」
そうなるよね。
「ところで、何か話があるんでしょ?」
倒れた式守は置かれていた長椅子に寝かせて、席に戻って来たところでそう言った。そんなによく話すわけでもないし、他に座る場所もあるのに来たんだ。何もない、はないだろう。
「そうだな。……今朝、張り出された明解新聞のインタビューについてだ。」
「やっぱりそれですか。」
このタイミングだからわかっていたが。
「お前はそこで『中立の立場をとる』と言ったな。それはどういうことだ?」
「そのままですよ。」
昨日のインタビュー、俺はこの言葉を載せることを条件にインタビューを受けた。
「新聞部の動きは早いな。これに対する現生徒会と西蓮寺側の反応も書いてある。」
現生徒会は、メエが「わかってるよ。」と言って、マジさんが出入り禁止にしたことを明かした。
西蓮寺さん側は、新島さんが「こちらにとっては嬉しい結果だ。」とコメントを残している。
「現在、お前を中心にいろんなことが回っている。一体、何が狙いだ?」
「俺は偶然、中心に立ってただけですよ。」
「そんな冗談が通じるとでも?」
俺が軽く笑って流そうとしたが、そうはさせてもらえなかった。
「……俺は、よりすごい方に付くつもりなんですよ。」
「すごい?何を基準に?勝利した方に付くということか?」
「そういえば、現在の両候補の支持率、どうなってましたっけ?」
俺の急な話の変え方に、志木さんは不振そうにこっちを見たが、真面目に考えてくれている。
「……たしか現会長の支持率は38%、西蓮寺は21%ぐらいだ。」
明解新聞は本物の新聞のごとく、選挙の支持率まで調べてくれる。かなり低いように見えるかもしれないが、無支持が30%近くいるので現在はこの2つがかなりの支持を持っていってる。
「正直、これがひっくり返るかなんてどうでもいいですよ。」
志木さんはよけいわからないという感じで見た。
「必要なのは、本来の力。」
「本来……?」
「それを調べます。まあ、それがあるほうが勝つと思いますけど。」
俺は朝食を食べ終えたので席を立った。
「風紀部は現生徒会を支持する。」
立ち上がった俺の背中に志木さんは、そう声をかけた。
「それは自由です。問題ないですよ。」
今日はちょっと街に出て、そのあとは部屋にこもろうと思いながら食堂を後にした。