11月−9 嵐の前が長い
「ちゃんと持ってきてくれたかい?」
「ええ。」
俺は予算と議事録のコピーを渡した。
「ありがとう。」
「それでどうするつもりですか?一応、予算も議事録も俺やマジさんのチェックが入ってますよ。」
「それはどこかに金が流れすぎてないかや正確に議事録が録られているかなどだろ。」
選挙が始まってから2日目。公示から1週間で投票ということもあって、各立候補者は積極的に動いている。なのに西蓮寺さんとメエたちだけは動いてない。
正直、嫌な感じしかしない。
目の前にいる新島さんはニヤニヤという感じで書類を見ている。たしかに、これは個性的なキャラだ。あまり好印象ではないけど。
「失礼するわ!」
西蓮寺さんがここに来てから初めて姿を現した。
「高月 零夜!私についてくれたこと、感謝しますわ!」
「実は敵状視察です。」
「え!?馨!この方は敵ですわよ!」
「冗談だよ。高月はこちらの味方だ。」
西蓮寺さんは表情をころころ変えた。なかなかおもしろいな。騙されやすい、信じたらその道を進む。……メエと似ているな。まあ、珍しいとはいえ、メエに似ているやつならいるしな。
「で、結局どうするんですか、それ?」
俺は予算と議事録の束を指した。新島さんがまたニヤりと笑った。
「お前ら、予備予算がやけにあるな。」
「そうですね。」
予備予算ってのは名前通り、予備の予算だ。どこにも割り振られておらず、予想されない(例えばどこかの部活が全国大会に出場することになって、その遠征費用や、災害などで学校施設が壊れたときの修繕費用など)に使われる予算だ。
まあ、これは名目なので、他のことにも普通に使える。以前は、斑目先輩が改革しまくっていたときに使ったという記録も残っていた。
「なんでだ?」
「総予算が多すぎるからです。」
予算案に不満があったから上をゆさぶって予算を出させたが、実際あれだけの予算、高校生が使うには身に合わぬ袈裟。ゆえに増やした予算のほとんどは予備予算として保管されている。
「大規模に使う予定は?」
「まだありません。」
去年の斑目先輩が大規模なものはやってしまったのでやることもない。
「そうか。ククク……」
今度はどこかの悪役みたいな笑い方を始めた。見ているといろいろおもしろい人だ。
「馨、何をするつもりですの?」
「それはお楽しみさ。」
西蓮寺さんにも教えないのか。これは西蓮寺さんも起こるだろう。そう思った。しかし、西蓮寺さんは「わかったわ。」と満足気に頷くと、それ以上は何も聞かなかった。
……2人の関係がよくわからないな。




