11月−2 嵐の前の嵐
「誰に投票する?」
「やっぱりメエちゃんかな?でも他の人次第だよね。」
出馬受付の終了した週明け、クラスで生徒会選挙の話もちらほら聞こえ始めていた。
「いやはや、いろんな話が聞こえるね。」
席で忘れていた英語の予習をしているとレンが話しかけてきた。
「邪魔かい?」
「いや、今終わったところだ。」
ノートを閉じてレンのほうを向いた。
「それにしても、やけに話がされているな。生徒会選挙なんてもっと適当にやるものなんじゃないのか?」
「普通なら、ね。この学校の選挙はあいさつ、パフォーマンス、マニフェストみたいな普通のだけでなく、裏金、賄賂、脅迫みたいなものまで発生する。一般生徒にとっては暇潰しなわけだ。」
なんとも危険な暇潰しだ。
「さすが新聞部で選挙管理委員だな。」
「いやいや、そんなにすごいものじゃないよ。」
選挙管理委員とはその名の通り、選挙管理のための委員だ。クラスから男女1人ずつが選出され、選挙の集計などを行う。たいていのこういうことは生徒会の仕事だが、生徒会を決める選挙で生徒会が仕切るわけにはいかないため、組織されるわけだ。
「別に。昔の記事とか先輩たちの話でわかったことだよ。それに、そういうのがおおやけになったのは去年だしね。」
「去年?」
「そう。斑目前会長が投票前日に候補者7人の内、5人の賄賂や脅迫の証拠を出して選挙管理委員会に摘発してね。その結果、5人は出馬を取り下げになる予定だったんだけど斑目前会長がそれを止めた。けど、そんなことがあった5人が勝てるはずもなく斑目前会長の圧勝となったわけさ。」
なんともよくできたストーリーだ。どう考えても斑目先輩が仕掛けたんだろう。
選挙前日にやることで評価を上げた状態で選挙にのぞみ、また賄賂、脅迫などで動いていた票も獲得。これだけ仕掛ければ当然、勝てるだろう。
「しかし、あの斑目先輩がここまで仕込まないといけないと感じたってことは、かなりやばいんだろうな。」
「それでも今年は去年よりましさ。賄賂や脅迫に対しては選挙管理委員会と風紀部が共同で目を光らせるし、単純にマニフェストや人望の勝負になるよ。」
「……それだとやばいんだがな。」
メエは去年の斑目先輩のシステムを引き継いだだけで、派手なことはしているが何も大きくは変えていない。
さらに、メエは1年生だ。自分の学年がなれない3年生は大丈夫だろうが、2年生はやはり同級生を押したがる。1年生も同級を押すだろうが、メエに不安を持っている奴も少なくはない。
「先行きは不安と言わざるをえないな、これは。」
「でも、それは他の候補者しだいとも言えるでしょ。」
候補者の発表は今日の放課後に行われる。
「というか、お前なら出馬している人数みたいな細かいことを知ってるだろ。」
「もちろん。そして、そのことで話がある。」
突然、レンの表情が真面目なものになった。この雰囲気だけで重要な話だということがわかる。
「……なんだ?」
俺もさっきの雰囲気から真面目な雰囲気に変える。
「お前は……」
「高月!!」
レンが話そうとしたその時、トバリが叫びながら入ってきた。
「あんた、どういうことなの!?」
?いきなりなんだ?
「落ち着きなよ。それについて今……」
「なんでメエちゃん以外の副会長になってるのよ!?」