9、10月−49 やるしかない
ガッ!ガッ!ガッ!
とはいえ、いきなり状況が好転するはずがない。やはり防戦になってしまう。
そもそも、刀、とりわけ日本刀はその切れ味から集団相手に近距離戦闘を挑むためのもの。1対1ではリーチが長いほうが有利に決まっている。これを剣だとしても、剣なんて近距離での防御のために使うもの。攻撃のためのものではない。
ならば懐に飛び込めば、と思ったがそんな簡単ではない。長刀は遠心力を使っているらしく、女性である志木さんでも1発1発に重みがある。さらに遠心力ということはそれは先とは逆側にも発生させれるということだ。ならば懐も危険。
……どうしろと?
「ちょっ!やばいでしょ!」
槍を相手に想定したことあったけど長刀はなかった。というか、長刀ってこんな安定した武器だったのか!?
「長刀は強い武器です。遠心力が生んだ力で私のような女性でも男と対等に戦えます。……本気を出してもらえますね。」
……さすがに本気を出すしかないか?しかし……
「はぁ。」
「出さないんですか?」
「あなたみたいなのには見せたくないんですよ。気に入らない敵とかに本気を出すのはいいんですけど、あなたはダメだ。」
「どうして?」
「……恐怖するからですよ。」
真面目な顔でそう言った。
「あなたは間違いなく恐怖する。」
「……何を根拠に?」
「根拠?そんなもの必要ないですよ。必要ないんです。」
俺が当然のように言った。だがやはり、志木さんに理解できるはずもなく、ただただ不思議そうな顔でこちらを見るだけだった。
「しかし、このままじゃ勝てるか微妙なところですし、見せてあげますよ。」
俺は構えていた木刀をだらんとたらした。
「ちょっとだけ本気だ。」
そしてゆったりと構え直していく。それを見た志木さんは警戒するように長刀を構えた。
「この反乱で戦線離脱する前に言っておきたいこと、聞いておきたいことはありますか?」
「なら、なんであの会長のそばにいるの?」
お互い構えを解くことなく、視線を外すことないままだった。
「あなたが優しいからですか?」
「……なら、あなたのとなりにいる人間はあなたが決めたんですか?」
「?いえ。」
「でしょ。そういうものですよ。それが会わないほうがよかったとしても。」
「……」
音がなくなって、冷たい空気が空間を支配していく。
「「あなたがいなければ、こんな面倒なことにならなかったかもしれない。」」
ガッ!!
「……三点連突。」
勝負は一瞬で決まった。




