9、10月-38 恐いのに踏み出せない
「お疲れ。」
リン、フーちゃんコンビも帰り、1時半。仕事ノルマ終了だ。
「ハプニングはあったが、結局忙しかったな。」
あのあとも並んでいる客が減ることはなく、ずっと働きっぱなしだった。
「あ、あの、ゼロくん!」
「ん?」
やけにテンパってラブが声をかけてきた。
「き、今日も一緒に見て回りませんか!?」
「ああ、すまんが今日は先客がいるんだ。」
「先客?」
「終わった?」
その先客がやってきた。
「ああ。」
メエに向かって俺は軽く答えた。
「えっと……メエちゃんですか。」
「そう。昨日なぜかわからないけど俺と2人で話したがっていただろ。だから2人で回ってやるからそのときに話せってことにしたんだ。」
「そ、そうなんですか……」
「すまないな。」
「いえ、気にしないで、ください……」
「ありがとう。メエ、行くぞ。」
「うん!」
俺はメエを連れて適当に歩くことにした。とりあえず腹に何かを入れたあとでもいいだろ。
その後、メエといろんなところを回った。料理部でうまいお菓子を食べ、科学部の水素爆発実験でちょっと失敗していたのを見て、陸上部が予定にない100m走対決で笑わせてもらったりもした。
そして、俺たちは人の少ない屋上のベンチに座った。人の多いところじゃ冷やかしが多くてのんびり話ができないから、という判断だ。
「ほれ。」
「ありがとう。」
買ってきたあっまいオレンジジュースを渡してやった。なんか炭酸はシュワシュワするからいやらしい。
「さて。」
「……さて?」
「話があったんだろ。」
「……」
なんか目を閉じたり頭を抱えたりしてる。
「……ジュース飲む?」
そう言って自分が飲んだペットボトルをさしだしてきた。
「……いいのか?」
「何が?」
「間接キスになるぞ。」
「はっ!?とっ!よっ!?」
メエは驚いて落としそうになったペットボトルをナイスキャッチした。
「ゼ、ゼゼゼゼゼ、ゼロ!!ハレンチだよ!!」
「自分からさしだしておいてひどい言いがかりだな。」
「ううぅ……ねぇ、これって不純異性交友にならないかな?」
「……は?」
「なっちゃったら会長なんて続けられないよ……」
なんかものすっごい真面目な顔でそんなことを言っている。なんだ?これは笑えばいいのか?いや、メエだから本気で言ってるんだろうなぁ……からかってやろうかと思ったが、そんなことしたら本当に辞表を提出しそうだな。
「大丈夫だ。というか、不純異性交友なんて言葉どこで知ったんだ?」
「ハルが貸してくれたマンガにあった。」
「……」
決してそのマンガが間違ってるわけじゃないから何も言えない。
「で、結局話したいことはなんだ。」
「え?」
「ごまかすな。お前が忘れたふりしているのはわかってる。」
「……」
「……」
なんか沈黙が重い。しかし、ここで逃げても意味がない。
「言っても怒らない?」
「怒らない怒らない。」
「えっとね。ゼロ……」
ピンポンパンポン
ん?この音は放送か?
『みなさん、体育館に行って下さい。』
なんだ?このどこぞの犯行声明に使われる声だ?
『行って下さい。行かない人間の安全は保障しかねます。時間は今から30分間です。』




