ジョージ・ガーデニアと時の宝玉(上)
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『ジョージ・ガーデニアと時の宝玉(上)』
〇登場人物
●イライジャ・ヴェラトラム(39)
15年前に吸血鬼になった元騎士。
●ジョージ・ガーデニア(27)
ダークマター技術を駆使して戦う魔法使い。
●マリー(17)
ジョージの恋人。
●シェリー・ウィスティリア(25)
マリーの妹。魔法技術の研究者。
夜。古城の一室。
ジョージがカチャカチャと機械をいじる音。
ジョージ「……ふう」
ジョージの背後から声をかけるマリー。
マリー「ジョージ? 何してるの?」
ジョージ「ちょっとした工作だ」
マリー「疲れた顔してる」
ジョージ「そうか?」
マリー「そうだよ。ハグで癒してあげましょうっ」
ジョージに抱きつくマリー。
ジョージ「うお、これは癒されるけど! でも俺の身体、機械油で汚れてるぞ」
マリー「気にしないよそんなの。……あ」
ジョージ「ん?」
マリー「今、お腹を蹴った」
ジョージ「え? ……ああ、赤ちゃんか」
マリー「うん。お腹の中の赤ちゃんだよ。最近元気に動き回ってる」
ジョージ「もう臨月だからな」
マリー「名前、決めないとだめだよ?」
ジョージ「そうだな」
マリー「ふふっ。愛してるよ、ジョージ」
ジョージ「ああ、俺もだよ。……マリー」
タイトルコール。
ジョージ(N)「ジョージ・ガーデニアと時の宝玉」
研究室。シェリーのプレイするゲームのBGMやSE、ゲームパッドをカチャカチャと操る音。
ドアが開き、イライジャが入ってくる。
イライジャ「ん、博士、またゲームか?」
シェリー「その呼び方やめてほしいッス、イライジャ」
イライジャ「シェリー」
シェリー「それでよし。レイドなうなんでちょっと待って──はぁ!? あのヒーラー何やってんスか!? うわ全滅したし。はいクソー」
イライジャ「負けたのか?」
シェリー「そッスね。散開位置間違ったうえに回復放棄して謎に攻撃し始めやがったんスよあのバカ。他のメンバーも動きあやふやだし、黒魔道士に関してはあいつスキルもまともに回せて──、」
イライジャ「──シェリー、デバイスの開発状況を報告してくれ」
シェリー「……失礼しました。デバイスは先ほど連絡した通り、完成しました」
イライジャ「いつも通り豹変ぶりがすごいな」
シェリー「公私は切り離すタチですので」
イライジャ「現物を見せてくれ」
シェリー「ええ、こちらです」
シェリーがジュラルミンケースを開ける音。
シェリー「吸血鬼用対日光プロテクター。コードネーム〝夜の帳〟です。完成したとはいっても今後更なる改良は見込めますが」
イライジャ「……ネックレス?」
シェリー「はい、形はネックレスです。装備品のカテゴリーもアクセサリーに分類されます」
イライジャ「ありがとう、シェリー」
シェリー「感謝が欲しくて作ったわけではありません。イライジャ、私はあなたを今でも恨んでいます」
イライジャ「もちろんだ」
シェリー「10年前の姉の死……マリーお姉ちゃんの死の原因はあなたにもあります。責任は取ってもらいます。〝夜の帳〟はそのための装備です」
イライジャ「ああ、これがあれば攻勢に転じることができる」
シェリー「本当にこちらから攻撃をしかけるのですか?」
イライジャ「この十数年でダークマター技術は飛躍的な進化を遂げた。敵の使うダークマター兵器群は吸血鬼の真祖たる僕すら脅かす。防戦一方ではジリ貧になり、いずれチェックメイトだ」
シェリー「チェックされては逃げるを繰り返すわけにはいかないということですね」
イライジャ「その通りだ。意表を突いて攻撃をしかけなくては、勝機はないと僕は見ている」
シェリー「……奇襲までしてやっと互角ですか?」
イライジャ「ああ、敵は恐ろしく強い」
シェリー「ダークマター兵器の登場は確かに軍事革命ですが、それでも吸血鬼の真祖の討伐に必要な戦力は一個大隊と言われています」
イライジャ「そうだね。吸血鬼は無限の魔力を持っているけど、血液を摂取しない限りその魔力を魔法に変換できない。それは契約の悪魔に科せられた制約だ。だから、大隊で包囲して、吸血鬼の血液切れまで粘るのが基本戦術だ」
シェリー「しかし、イライジャは血液切れを起こしません」
イライジャ「シェリーが以前作った人工血液結晶錠剤のおかげでね。だから僕は大隊に包囲されても負けることはない。覚醒状態を半永久的に維持できるから」
シェリー「そのイライジャを単騎で窮地に追い込む敵がいます」
イライジャ「普通に考えたらおかしいよね」
シェリー「個人の戦闘能力だけでなく、装備や魔法の開発能力も常軌を逸しています。執念とは恐ろしいものです」
イライジャ「だけど勝つのは僕だ。長かった戦いも、もうすぐ終わる」
シェリー「作戦実行時は私がオペレーターとして通信による情報支援を行います。必要物資の転送も任せてください」
イライジャ「頼りにしている」
シェリー「敵を……ジュリアを倒して、世界を救ってください」
イライジャ「もちろんだ。必ずジュリアを倒すと誓おう。だけどシェリー? 救うのは世界だけではないはずだ」
シェリー「ええ、もちろん……ジョージも」
イライジャ「そうだ。ジョージくんも僕は救ってみせるよ」
間。
時計の針が進む音。時計塔の鐘の音。
古城の一室ででお茶をしているジョージとマリー。
ジョージ「もうこんな時間か」
マリー「空が白んできてるよ」
ジョージ「そうだな。綺麗だ」
マリー「夜の空は嫌い。こんな風に光が生まれる瞬間が好きだな」
ジョージ「……ん、マリー、今日も紅茶残すのか?」
マリー「ごめんね、気分じゃなかった」
ジョージ「それは構わないが。いつも口をつけてすらいないなと思って」
マリー「もう冷めちゃったね」
ジョージ「淹れ直そうか?」
マリー「ううん、いい。紅茶があるかないかで、ジョージといる時間に価値の差は生まれないよ」
ジョージ「マリーと過ごすこの時間が永遠に続けばいいのに」
マリー「その願いは叶えられるよ。時の宝玉さえあれば」
ジョージ「ああ、必ず宝玉を手に入れよう。そのための力はあるんだからな」
マリー「早く欲しい。ジョージ、すぐに宝玉を……」
ジョージ「大丈夫だマリー。考えてあるから。それよりほら、そろそろ準備をしないと」
マリー「ん……そっか、今日だったね」
ジョージ「客もこちらに向かっている頃だろうしな」
マリー「昨日いじってたあれを使うの?」
ジョージ「ああ、手に入れるのも調整をするのも苦労したけど」
マリー「楽しみだね。お客さんも喜んでくれるといいな」
ジョージ「きっと喜んでくれるさ。特注品だからな」
マリー「そうだね」
ジョージ「マリー」
マリー「ん?」
ジョージ「何年も俺を支え続けてくれてありがとう。お前を心から愛しているよ」
マリー「こちらこそ、ありがとう」
ジョージ「マリーは俺の生きる理由だ。希望を与えてくれたから」
マリー「どんな境遇の誰にだって、希望はあるものだよ。それが他の誰かの絶望に繋がってしまうこともあるけど、それでも希望は希望」
ジョージ「ああ、だから俺は俺達の希望のために迷わず進むんだ」
マリー「そう、ジョージはそれでいいんだよ。時の宝玉だけが私達の幸せを取り戻してくれる」
ジョージ「もうすぐだ。待っていてくれ」
マリー「……あ、また」
ジョージ「赤ちゃん?」
マリー「うん。またお腹を蹴ってる。わんぱくなんだね」
ジョージ「臨月だから、赤ちゃんも早く外に出たがっているのかもな」
マリー「そうだね。きっとそう」
ジョージ「早くその子に会いたい」
マリー「そのためにも、宝玉を。ね?」
ジョージ「ああ。そろそろ行こう、マリー」
マリー「そうだね。お客さんのためにお城を飾り付けないと」
ジョージ「さあ、パーティの時間だ」
間。
ばさっと翼が空を切る音。
空を飛ぶイライジャ。
イライジャ「シェリー、応答してくれ」
通信によるノイズ交じりのシェリーの音声。
シェリー「聞こえています、イライジャ」
イライジャ「目的地付近上空1200mを飛行中。到着までおよそ5分だ」
シェリー「モニターしています」
イライジャ「まさか、吸血鬼が昼の10時に空を飛ぶとはね」
シェリー「〝夜の帳〟は日光を物理的に遮断するのではなく、結界を張るシステムです。装備者の周囲を結界で囲み、その内部を概念的に夜にする仕組みです」
イライジャ「日の光を違和感なく浴びられる。良い気分だ」
シェリー「だからといって散歩になんて行かないでくださいね?」
イライジャ「冗談なんて珍しいな?」
シェリー「目標地点の様子を偵察してください」
イライジャ「……了解。目標、アディス城に動きはない。警戒されている様子も見受けられない」
シェリー「了解。こちらでも確認しました。作戦を開始します。イライジャは人工血液結晶錠剤を服用し覚醒状態に移行してください」
イライジャ「錠剤を服用、覚醒状態に移行する」
薬を飲むイライジャ。
イライジャ「覚醒した」
シェリー「確認できました。目標地点への奇襲攻撃を開始してください」
イライジャ「了解。戦術級魔法による攻撃を開始する。……深淵の竜よ、静かなる怒りを息吹に宿せ。極まりし闇を紅き炎へ込め力と成せ。理を紐解き具現化する憤怒の瀑布をここに。呼び覚ませ混沌を、神への叛逆の意志を示し絶対なる破滅の歌を。〝昏き怒り燃ゆる永劫の大火(ケイゴヅァス・メ・スィーモ・アイオーニア・フォティア)〟!」
魔法が発動する音。
シェリー「目標への攻撃を確認。着弾まで3、2……っ! 目標から熱源反応! 魔法による反撃を確認!」
イライジャ「魔法が相殺された。敵はこちらの攻撃を予測していたのか?」
シェリー「追撃、来ます!」
イライジャ「む」
イライジャに直撃する魔法。
イライジャ「ふむ、これは敵が一枚上手だったな。城に降り立つ」
シェリー「了解。注意してください」
ばさっと翼の音。
城の屋上。イライジャを待ち構えるジョージとマリー。
降り立つイライジャ。
マリー「あ、お客さんがやっと降りてきてくれたね、ジョージ」
ジョージ「ああ、そうだな。……待っていたぞ、吸血鬼」
イライジャ「待たせてすまないね、ジョージくん。まさか昼間の襲撃を予知していたとは思わなかったけれど」
ジョージ「こちらにも諜報手段はあるということだ」
イライジャ「見くびっていたよ。……なら、騎士らしく真正面から戦わせてもらうとしよう。正々堂々ね」
ジョージ「それは良いな。さあ……パーティを始めようか。時の宝玉をよこせ、吸血鬼!」
続く