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不死の魔人と閻魔姫  作者: 渡邊裕多郎
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第八章 魔人同士の対決・その7

「かまわないぜ。カーン」


 魔人の返事と同時にヒロキくんが間を詰めた。迎撃圏内に入った瞬間に、水月を狙った中段蹴りを撃つ。だが、魔人も貫手を放っていた。


「がは!」


 喉を貫かれ、鮮血を吹きながら倒れ伏したのはヒロキくんであった! しかし、同時に魔人も後方に跳ね飛ばされる。手より足は長く、破壊力は三倍から五倍あると言われているが、それで互角とは。


「ゾンビでよかったな俺。まさか、喉を潰されるとは思わなかったぜ。おー痛ェ」


 しゃがれ声で言いながら、それでもヒロキくんが起きあがった。表情に余裕がない。喉を潰されたのだから当然である。もっとも、それは魔人も同じだった。膝は突いていないものの、眉をひそめている。瞳には驚愕が宿っていた


「妙だ。昨日と違うぞ」


 ダメージから回復しないのか、魔人の構えがふらついている。


「しつこいくらい衝撃が響いて、まるで消えない。何をやった?」


「単純な話だぜ。ボクシングで聞かないか? 顔を殴られたら気持ちよくてダウンする。腹をえぐられたら地獄の苦しみで悶絶するってな。昨日は脳味噌に揺さぶりをかけて眠らせようとしたら失敗したから、作戦を変えたんだよ。ローキックは避けやがるし。すまないが、コツコツと内臓を狙わせてもらうぜ」


 隠すでもなく、ヒロキくんが説明した。――これは、見るだけで技を学んだという、天才肌の魔人ならではの弱点であった。確かに魔人の破壊力は目を見張るものがあるが、肉体を酷使する鍛錬を積んでいないから、打たれ強さまでは培われていなかったのである。魔人が顔を歪めながらも、無理に笑みを浮かべた。


「ずいぶんと地味な作戦だな。種明かしありがとうよ」


「本来、武道ってのは地味で残酷でつまらなくて、人には見せられないくらいえげつないもんなんだ。コロシウム光線を発射するなんて中二的必殺技は妄想上の産物なんでね」


 べ! と血塊を吐き捨て、ヒロキくんが構えなおした。滑り足で近づき、間合いに入った瞬間、身体をかがめて突進する。魔人の廻し蹴りがヒロキくんの頭をとらえたが、ヒロキくんが根性で衝撃に耐えながら魔人を押したおした。魔人が足をヒロキくんの胴体にまわしてガードポジションの形をとる。だが、ヒロキくんの猿臂は顔面ではなく、水月に振り下ろされた。


「ぐは!」


 今度は魔人が鮮血を吐きながらのたうった。右手で腹を押さえながら、それでも苦悶の表情で左手を伸ばし、ヒロキくんの喉をえぐる。鬼の表情でヒロキくんがこらえながら、魔人の左腕をとった。魔人のガードポジションから抜けだし、左腕を両手でつかみ、抱き込みながら全身をそらせる。腕ひしぎ十字固めで関節をへし折りにかかったヒロキくんだが、その直後、魔人の左腕が、肩からポンと外れた。


「あ、あれ!?」


 木工ボンドでくっつけただけなんだから、力をこめたら外れてあたりまえである。格闘技のセオリーには存在しないアクシデントに、一瞬、ヒロキくんがポカンとなった。その隙に魔人が起きあがり、右貫手を飛ばす。狙いは、あくまでもヒロキくんの喉であった。


 えぐった瞬間、魔人の口が笑みに歪んだ。


「やっとつかんだ。もらったぜ」


 言うと同時に、魔人が右腕をひいた。その指先には糸がからんでいる。それがヒロキくんの首筋から一気に流れでた。これこそが魔人の狙い。――大鎌で切断され、離れ離れになった首と胴体をつなぐ、ボタンが縫い合わせた縫合糸だったのである。


《あ!?》


 というヒロキくんの声がでることはなかった。空気が漏れ、首がずれる。慌てて首を押さえにかかったヒロキくんだが、それより早く魔人が右正拳突きを放った。モロに食らったヒロキくんの首が派手に飛び、サッカー場に転がる。


 不死の魔人が持つ一種の超能力なのか、首を失ったヒロキくんの胴体が、それでもウロウロ歩きまわって自分の首を捜すが、うまく感覚がリンクしていないらしく、見つけられなかった。


「勝負あり、だな。ボディブロー、かなり苦しかったぜ。にわかもんの不死の魔人にしちゃ、大したもんだった。ただ、作戦を考えていたのは俺も同じだったんだよ。肉を切らせて骨を断つならぬ、腕を折らせて首を獲る作戦だ」


 口元の血をぬぐいながら、魔人がヒロキくんの首を見下ろした。


「悪いけど、これで俺は行かせてもらうぜ。あとでボタンって死神のスマホに連絡を入れてやるから安心しろ」


 言い、魔人が左腕を拾いあげた。少しだけ笑いかける。


「最後に言っておくけど、おまえ、いい奴だったな。前、人間界にいた頃、俺は不死だったもんで化物扱いされた。問答無用で地獄界に連行されてからは釜に封印されたし。だけど、おまえは俺と対等にやり合おうとした。正々堂々とな。約束も守ったし。嫌いじゃなかったぜ、そういう奴。できたら友達になりたかった」


 魔人が背をむけた。


「あばよ」


 と、言いかけたときだった。


「ヒロキ!」


 聞き覚えのある、幼い声が飛んだ。愕然と魔人が振りむく。それだけではない。ヒロキくんも驚きの瞳をむけた。


 そこに立っていたのは閻魔姫だった。そしてお付きのボタンもである。スマホで検索して、ヒロキに会いにきたのであった。


「ボタン、あいつ、やっちゃって!!」


「はい!」


 という返事と同時に、ボタンが手を振った。瞬間移動の先は魔人の背後。移動と同時に生みだした大鎌を振りかぶるよりも早く、魔人が右手でバックハンドを放つ。左腕をにぎったままだからロングレンジ。バットでブッ叩かれたみたいな感じでボタンがたおれこんだ。


 だが、それだけでは済まなかった。


「破ったのか?」


 静かな調子で魔人がヒロキくんに訊いた。押し殺した声のなかに怒りが燃えている。


「一対一でやり合うという俺との約束、破ったのか?」


《いや、違う。破ってない。姫は勝手にきたんだ。こんなこと、俺も想像してなかった》


 慌ててヒロキくんが弁明するが、声にならないから魔人には聞こえなかった。


「武道精神にかけて誓うというから、信用したんだがな。所詮はおまえも、俺を化物扱いして騙し打ちを仕掛ける奴だったか。ペナルティは受けてもらうぜ」


 魔人が言い捨て、ベンチに駆け寄った。置いてあるガラスの瓶の前で魔人が足を跳ね上げる。打ち下ろされたのは踵落とし。けたたましい音を立ててガラスの瓶を粉砕するどころか、ベンチまで一瞬にしてへし折り、魔人が振りかえった。

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