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不死の魔人と閻魔姫  作者: 渡邊裕多郎
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第一章 魂を狩りました・その3

       2




 そして一時間後。場所はヒロキくんの家の自室。一般住宅の二階である。とりあえず、閻魔姫の自己紹介を聞いたヒロキくんであった。


 内容は単純。閻魔姫は、地獄界の閻魔大王様のひとり娘だとか。生と死をつかさどる死神軍団の長のプリンセスだそうである。


「で、その話を、俺に信じろ、と? スー」


「うん」


「信じられないけど、いまの俺の状況から考えるに、信じるしかないんだろうなァ」


 ヒロキくんが眉をひそめて首をひねる。ぐらっとずれた。


「縫っている間は、動かないでください」


「あ、すんません」


 チクチクと縫い合わせてるボタンに言い、ヒロキくんが閻魔姫を見すえた。


「ある日、空から女の子が降ってくるって話はたまに聞くけど、地の底から湧き出してくるパターンは想像してなかったぜ。それで? お嬢さん、名前は?」


「閻魔姫」


「いや、そういう奴じゃなくて、名前」


「だから閻魔姫」


「閻魔姫様は、本当にそういう名前なのです」


「あ、そうなんだ」


 ボタンの説明で納得して、ヒロキくんが閻魔姫を眺めた。


「じゃ、とりあえず姫と呼ぼう。年齢は?」


「七歳」


「あ、見た目通りなんだ。それで姫、なんで地獄界から日本にきたんだ?」


「家出してきたのよ。それでヒロキと会ったわけ」


「――ヒロキって、小学生の分際で高校生のお兄さんを呼び捨てに。せめて、ヒロキくんって言ってくれないか?」


「じゃ、あなたも、私のことを閻魔姫様って呼びなさいよ」


「わかった。じゃ、ヒロキでいい。俺も姫って呼ぶ。で、なんで家出してきたんだ?」


「パパがわからず屋だから」


「パパってのは、さっきも言ってた閻魔大王だよな。わからず屋って、どういうことだ?」


「だって、私が大人になっても、後を継がせないって言うんだもん」


「は?」


「パパが言うのよ。こんな感じで」


 言い、閻魔姫がそっくりかえった。無理に低い声をだしてしゃべりだす。


「『いつか、閻魔姫が大人になったら、お婿さんが閻魔大王だな。閻魔姫は、そのお妃様で、難しいことは考えないで、自由に生きていいんだぞ。はっはっはァ』」


 親父さんの真似らしい。とはいっても、本物の閻魔大王様なんて見たことのないヒロキくんには「ふゥん」としか言えなかった。


「とにかく、こんな感じでさ。こういうのって、男女差別って言うんでしょう? それで私、頭にきて家出してきたのよ。私でも、ひとりでできるんだって見せつけてやりたくて」


 確かに、閻魔大王様という言葉はメジャーだが、閻魔女王様という言葉は聞かない。


「それで? ひとりでできるって、何をだ?」


 ヒロキくんが質問した。ボタンに縫い終えてもらった首筋をなでながら、軽く左右をむいてみる。ポキポキと音がした。骨や関節も綺麗に縫ってくれたらしい。物理的にくっつくかどうかは甚だ疑問だったが。


 閻魔姫が、ちょっとバツが悪そうにうつむいた。言い訳する気らしく、左右の指をツンツン。


「だから、パパと同じで、私だって、寿命がきた人間の魂を狩るくらい、簡単だって思って」


 大人のやってることを簡単だと思っていたらしい。お子様の考えることである。


「それで、パパがお昼休憩をとっている間に、閻魔帳の予定部分を引きちぎって、こっちにきたの」


 地獄界でずいぶんとお転婆を働いてきたらしい。


「ちょっと説明するけど、普通なら、パパ、自分は地獄界でふんぞり返って、家来の死神たちに命令して、魂を狩らせて、地獄界まで運んでこさせるのよ。あんまり、自分じゃ、そういうことやらなくて」


 では、閻魔姫も、そうすればよかったようなものなのだが。


「でも、私がそれをやって死神を呼んじゃうと、私がこんなことしてるってパパにチクられちゃうから、私が自分で魂を狩ろうと思って」


 それで、寿命の尽きかけていた大野裕樹と、無関係な太野裕樹を間違えたということらしい。派手な失敗をしたものである。


「さっきっからなんかうっさい!! 私は間違えてなんかないわ。私、わかっててヒロキの魂を狩ったのよ。全部予定通りだもん」


「嘘八百並べてるとパパに舌を引っこ抜かれるぞ。なんで俺みたいな善良な市民の魂を狩ったんだよ? 俺の魂を狩った後、閻魔帳のメモを見て、間違えたって言ってたじゃないか」


「あら、私、そんなこと言ってなかったわよ」


「しらばっくれる気か。ボタンさんだって、俺の寿命は残り七〇年もあるって言ってたぞ」


「ボタン、あなた、そんなこと言ってないわよね?」


「はい。言っておりません」


「あ、キッタねェ」


 ふふん、と閻魔姫が余裕ぶった。


「パパの周りで働いてる死神と違って、ボタンは特別なのよ。パパの命令で、私の世話をしてる、お付きの死神なんだから。私の命令なら、なんでも聞きなさいって言われてるわ。あなたが何を言っても、話し合いなら二対一で私が勝つからね」


「ボタンさんは冥土のメイドってわけだな。でも、それ、これからの話は全部偽証ですって言ってるのと同じじゃないか。そんなもの話し合いじゃないぞ」


「だったら最初から話す必要もないわね。じゃ、さようなら。さてと、あなたから狩った魂、どうしちゃおうかなー? 野良犬の餌にでもしちゃおうかなー? っと」


「待て待て待て待て! そんなことやったら俺はどうなる?」


「そんなこと知らないわよ。実験してみる?」


「冗談でもやめてくれ。わかった。これからも話を聞く。で? 俺は姫の説明をきちんと聞いた。話を聞く場所も提供した。姫が俺の魂を狩ったのも予定通りだって信用する。このあと、俺はどうすればいい? つか、いい加減に魂を戻してくれよ。首を切られても死なないなんて、俺、まるでゾンビみたいじゃないか」


「ゾンビみたい、じゃなくて、ゾンビそのものだって、みんな言うと思うけど?」


「あ、そうか。――何ィ!?」


 ようやく自分の状況に気づいたらしい。ヒロキくんが青い顔で自分を指さす。


「すると何か? いまの俺、ゾンビ映画でご存ビの、肉食性無生物、ブードゥー類、呪術目、リビングデッド科に属する、あのゾンビ状態なのか?」


「何を言ってるの? 詳しそうに言ってるけど、そんな分類があるはずないじゃん。正確には、ゾンビない、ゾンビます、ゾンビる、ゾンビるとき、ゾンビれでも、ゾンビよ、の、あのゾンビでしょ?」


「ボケに鋭く突っ込んでくるなァ。七歳なのに、スラスラ漢字を読めたり、文法で切り返したりするのは上層教育のおかげなんだろうけど、残念ながら、ガチで言うと、そんなバ行変格活用はないぜ。そもそもゾンビは日本語じゃないんだし。本当の正解は、ゾンビ、ゾンバー、ゾンベストだな」


 どれも違う。そんな比較級も最上級も存在しない。ちなみに閻魔姫が言ったのは変格活用ではなくて上一段活用である。


「ま、くだらない冗談はここまでとして、しかし困ったな。俺、普通の高校生だったんだけど、いきなりゾンビかよ。ていうか、もういっぺんお願いします。俺の魂、戻してくれませんか? 自分の魂を自分の目で見てるなんて、気持ちのいいもんじゃないし」


 ヒロキくんの頼みに、閻魔姫、ちょっとうつむいた。


「だって私、魂の戻し方なんて知らないもん」

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