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不死の魔人と閻魔姫  作者: 渡邊裕多郎
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第五章 命・その2

「で?」


『いま、校門の外に死神がきてるのよ。ボタンに結界を張らせたから、内部には入ってこられないみたいだけど』


「へェ。ボタンさんって、そんなこともできるのか。ほかの死神にもできるのかい?」


『あ、それは、ちょっと待ってね。ボタン? いま、ヒロキが質問してきたんだけど、結界を張るのって、ほかの死神にも――もしもし? どんな死神にもできるってわけじゃないみたい。やっぱり、私のお付きだから、ボタンは特別なのね。私も知らなかったな』


「なるほど。ということは、ほかの死神が強制的に結界を解除することは不可能と考えて問題ないな。一応は安全てことか」


『たぶんね。じゃ、結界の外にはでないで待ってるから』


 こっちの声はヒロキくん、スマホのむこうの声は閻魔姫である。小学校の外で、どうもまずいことになってるらしい。


「わかった、すぐ行く。しかし、放課後まで待ってくれるなんて、相手の死神さんも律儀だな。おかげで授業をさぼらずに済んだし、俺も助かったぜ」


 学生の本分は学業である。このへんは普通の学生らしい台詞を吐き、ヒロキくんがスマホを切った。小走りで下駄箱まで突き進む。後ろから、ヘタな尾行が壁に隠れながらついてくるんだが、ヒロキくんは気がつかなかった。武道の達人じゃあるまいし、いくらヒロキくんでも背後の気配までは探れない。


「だけど、またアズサさんかな。人目につく場所でセクハラ作戦はまずいし。どうしよう」


 ブツクサ言いながらヒロキくんが下駄箱で外履きに履き替えて外に飛びだした。校門をでて、隣の小学校に目をやる。少しだけ目を細めた。


「なるほど。結界って、これか」


 小学校全体を覆う薄桃色の光の紗幕。下校中の子供たちが気にしたふうもなく通り過ぎるのは、やはり常人とは異なる世界に住む死神の、不可視の能力によるものゆえか。オーロラのごとく揺らめき、神秘にきらめく光の奥に、黒百合を連想させる清楚な美貌の少女が立っていた。


 閻魔姫である。隣には半透明状態のボタン。ふたりして校門の前に並んでいる。


「ヒロキ遅い」


 閻魔姫がブーたれ顔で言う。ヒロキくんが苦笑した。


「呼びだされて三〇秒で駆けつけて遅いはないだろう。それにしてもこの結界、普通の人間は通過できるみたいだけど、俺、ここ、入れるか?」


「入れると思いますが、いいのですか?」


 と、これはボタンの質問である。言われてヒロキくんも気づいた。高校生が小学校の校門を通過するわけにもいかない。しかも冷静に考えたら、結界の張ってある小学校に侵入したからって、だからどうしたという話である。


「それで姫、死神ってのは?」


 校門前で、一応の質問をしてみたヒロキくんであった。閻魔姫が面倒そうに空を指さす。


「あ、あれか」


 ヒロキくんが納得した。上空に、死に装束で、ポニーテールで、中学生くらいで半透明の美少女がウロチョロ飛びまわっている。スマホで閻魔姫が言っていたとおり、死神は結界の内部に入ってこられないらしい。


 それはいいとして、ノーパン状態の和服で空を飛ぶとは。


「どうすっかなー」


 こちらはこちらで、目のやり場に困るヒロキくんであった。


「とりあえず、ボタンさんに質問です。この結界と同じものを小さくつくって、俺と姫とボタンさんを囲うようにして、それに覆われて移動するって、できませんか? なんて言うか、こう――装甲車に乗って、安全に運ばれるって感じで」


「あいにくと、動くようにはつくれません」


「あ、やっぱりね」


 そんなことができたらスマホでヒロキくんを呼んだりしてない。校門前でヒロキくんが考えこむ。通りすがりの小学生が妙な視線をむけてきた。気がついたヒロキくんが、軽く咳き払いをする。少しその場で立ちつくして、人けがなくなったところで姫とボタンに目をむけた。


「じゃ、姫、ボタンさん、この結界を超えて、こっちにきてください」


「え、ヒロキ、いいの?」


「死ぬまで籠城ってわけにもいかないからな。それからボタンさん、この結界、もう解いちゃってかまいません」


「わかりました」


 ボタンが言い、軽く手を振った。薄桃色光の紗幕が、見る見るうちに大気に溶けこみ、消えていく。それに気づいた上空の若い死神が下をむき、音もなく下降しはじめた。


 ザクロである。そのザクロが、閻魔姫たちと並んで立つヒロキくんに目をやった。


「これが人間の大人の男の人か。はじめて見たけど、アズサ姉様より背が高いんだな。知らなかった。――少し、格好いいかも」


 ザクロは、まだ新米かなんかで、はじめて人間界にきたらしい。珍しそうにヒロキくんをながめてから、あらためてザクロがボタンに目を移した。


「結界を解くなんて、あきらめたの?」


 ザクロの質問にボタン、冷ややかな視線でザクロを見つめかえした。


「あなたまできたとはね」


「ボタンさん、こっちの死神さんは?」


 ヒロキくんが質問した。ぎょっとした顔でザクロがヒロキくんを見る。


「彼女は、ザクロという名前です。アズサを慕って行動していることまでは、私も知っていますが」


「この人間、どうして私たちが見えるの!?」


「アズサから聞かなかったの? この人は閻魔姫様の家来よ。私たちが姿を消しても、なんの問題もなく見えるから」


「そうよ。それに、ヒロキは強いんだからね」


 胸を張ってテキトーほざいたのは閻魔姫である。ヒロキくんが困った顔をした。


「あのー。申し訳ないんですけど、ザクロちゃん? おとなしく帰ってくれないかな?」


 ちゃんで呼ぶのはザクロが中学生くらいだからだが、こんな台詞で、おとなしく帰る死神なんざ、いるわけがない。泡を食った表情のザクロが右手を振る。大鎌が出現する寸前にヒロキくんが前にでた。アズサのときと同じパターンである。


「武道では、先の先とか、後の先って技術なんだけどね」


 言いながらヒロキくんが、ひょいと大鎌をとりあげ、背後にポイと投げ捨てる。放り投げられた大鎌が大気に溶けこむように消失したのは言わずもがなであった。


「ま、難しいことは抜きにしておこうか。アズサさんを追い払ったのが俺だってことは言っておく。さ、どうする? ザクロちゃんがアズサさんより実力があって、自分だったら姫を地獄界につれ帰れるって自信があるんならとめないけど。パッと見、そんな感じでもないし」


「それは――」


「それに、はっきり言っておくけど、愉快なことにはならないと思うよ?」


「あなたもアズサと同じで、ヒロキにやっつけられちゃいなさい。アジャラカモクレンっていう、すごい呪文があるんだから」


「アジャラカモクレン?」


「いや姫、あれはただのネタだって。それより、どうするザクロちゃん?」


 ザクロが無言で左手を伸ばした。むけられたのはヒロキくんの顔面である。ヒロキくんが苦笑した。相反するように驚愕したのはザクロである。


「やっぱり、実際にやってみないと信じられないか」


「そんな。魂が狩れないなんて――」


「俺は変わってるもんでね。アズサさんに聞いてなかったのかい?」


「聞いてなかったわよ。アズサ姉様からは、閻魔姫様の前で、しばらく時間を稼いでくれってだけ――」


 勢いで返事をしかけたザクロが、ハッとして口を押さえた。ヒロキくんが首をかしげる。

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