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不死の魔人と閻魔姫  作者: 渡邊裕多郎
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第二章 地獄界考察・その4

       2




 午前中は何事もなく過ぎ、お昼ご飯の時間となった。


「じゃ、飯食ってくるか」


 言ってヒロキくんが教室をでた。


「じゃ、私も」


 のんびりした調子で言い、ユウキちゃんも教室をでる。ふたりして仲良く階段を下り、一階の食堂購買部まで行った。


「あ、日替わりは和風イタリアン焼きそばね。これ、シメジが入ってるんだったかしら?」


「俺が前に食べたときはシメジじゃなくてエノキダケだったぞ」


「あ、そうだった? ま、いいわ」


 ユウキちゃんが和風イタリアン焼きそばと珈琲コーラの食券を買った。つづいてヒロキくんが台湾ラーメン(名古屋飯)のアメリカンと珈琲紅茶の食券を買う(注・知らない人には意外な話だろうが、イタリアン焼きそば、珈琲コーラ、台湾ラーメンアメリカン、珈琲紅茶は現実に存在するメニューである)。


「あのな。ユウキって、占いとか予知夢とか興味あったよな?」


 でてきた料理を持ってテーブルにつき、ヒロキくんが質問した。向かいに座ったユウキちゃんが笑顔で小首をかしげる。


「そういう、おまじないとかオカルト系の話は、三度の飯より好きか嫌いかわからないくらいには興味あるけど? ほら、私って養殖ボケの不思議系少女だし、そういう世界のエキスパートだし」


 自分で言うセリフではない。


「じゃ、地獄界とか閻魔大王についても詳しいか?」


「うーん」


 ユウキちゃんが和風イタリアン焼きそばをすすりながら考えた。


「私、地獄なんて行ったことないんだけど?」


「そりゃ、俺だって同じだよ。ただ、何か知ってることがあったら教えて欲しいんだ」


 そんなものはネットで検索すればいいと考えつかなかったらしい。少しでも情報収集をしようとするヒロキくんにユウキちゃんが微笑んだ。


「ま、地獄に行ったことがないって言うのは、誰でも同じだものね。でも、それを言うなら、地獄に関して存在するあちこちの資料は、すべて、行ったことのない人間が適当に書き殴ったデタラメと考えてもいいんじゃない? 黄金の国ジパングと同じで。TRUST NO1。誰も信用するな。――これ、なんのセリフだったかしら?」


「The X-Filesだよ。ま、誰も行ったことがないって言うのは、確かにその通りだな」


「ただ、地獄なんてものが存在するとしたら? と考えるのは興味深いかも。いろいろと矛盾もでてきちゃったりでてこなかったりするかもしれないし」


「へえ? どんな?」


 ヒロキくん、話に食いつくフリをした。こういうとき、ちょいとおもしろそうな顔をして質問すると、自称エキスパートはペラペラと講釈してくれる。


「まず、地獄が存在して、死んだ人間がそこに行くとしたら、その面積はとてつもなく広大だってことになるわよね? 地球誕生から現代まで、一体どれだけの人間が死んだのかしら? しかも、これから死につづけることも確定済みだし。人間の死亡率は百パーセントだから。地獄なんて、そのうちパンクするわ。同じ理屈は天国にも当てはまる気がしたりしなかったりするけど」


「よく知らないけど、魂ってのは、地獄界で罪を償ったら、またこっちに生まれ変わるんじゃないか?」


「それだと、人間っていうのは、誰かの生まれ変わりで前世が存在するってことになるでしょう? その前世にも前世があり、その前世の前世にも前世があることになる。遡り続けて行くと、宇宙創生まで行くわ。一番はじめの魂はどこからきたのかしら?」


「あ、言われてみれば」


「とはいえ、実を言うと、一番はじめの魂はどこからきたのか? については説明ができるのよね。と言うか、説明できないことに問題がない気がするから。そもそも、どうして地球上で生命が誕生したのか説明できないんだから、魂誕生のメカニズムが不明だからって、それがどうしたってことになるし。それに、生まれ変わるということは、魂をリサイクルするってことじゃない? 何度もリサイクルすれば、魂だって摩耗したり劣化してもおかしくはないもの。そういうのは破棄して、おろしたての新しい魂を使用する。地獄っていうのは、そういう魂の管理をする部署なのかもしれないから。違うかもしれないけど」


「ふむ。地獄界ってのは魂のリサイクル工場か。――それと、こっちから、少し質問があるんだけど」


「こたえられることならこたえたりするけど?」


「死神ってのがいるよな? 大鎌を持って魂を狩る地獄の使い。それとはべつに、寿命ってのもある。地獄の閻魔大王が閻魔帳で管理してる奴。そうじゃなかったら、材質不明のろうそくが並んでて、火が消えると人間も死ぬとか、そういうパターンの」


「死神は『アジャラカモクレン、アルジェリア、テケレッツのパー』という呪文で退散するって聞いてるわよ、落語のネタだけど。それから、閻魔帳っていうのは、一般的には、生きてる人間の罪状を書きとめておくものじゃなかったかしら? 違ったかしら?」


「そんな話デタラメなんだろ? こだわるようなら、閻魔帳じゃなくてデスノートでもいい。それよりも、そのろうそくが長くて、まだ寿命が残ってるのに、死神が人違いで魂を狩ったら、どういうことになるんだ?」


「――うーん」


 ユウキちゃんが少し考えた。


「単純に考えれば、まだ寿命が残ってるのに、魂の存在しない人間が出来上がるってことになるわねェ。いきなり死んだりはしないと思うけど。魂がなくなっただけで、怪我をしたわけじゃないんだから。脳障害を起こしたわけでもないし、知性も存在すると思うわよ。植物人間のようにはならないんじゃないかと思ったり思わなかったりするけど」


「やっぱりそうか。でも、魂の存在しない知性とか生命体って、存在するのか?」


「パソコンのAIに魂は存在しないでしょう? リンゴの種には、リンゴの木一本分の生命が詰まってるけど、それでも魂が存在するとは思えないし。ほかにも、フィクションで言うなら、吸血鬼とかゾンビも魂は存在しないんじゃないかな。存在したらおもしろいかもだけど」


「やっぱ、そうなるか」


 台湾ラーメンアメリカンをたいらげたヒロキくんが大仰にうなずいた。実際、ユウキちゃんの推測とヒロキくんの実体験に大きな食い違いはない。ユウキちゃんの話は信用してもいいようである。


「じゃ、逆に、もう寿命がないのに、ミスして死神が魂を狩らなかったら、どうなるんだ?」


「逆の理屈だから、寿命がきて人間は死ぬけど、その魂は地獄に連行されないことになるわね。そういう魂って、そのへんをウロウロしてるんじゃない? ほら、交通事故の犠牲者が写真に写ったりするけど、ああいう奴」


「あーそういえば」


 するとユウキちゃんは、そのうち寿命がきて、肉体は葬儀にだされて、魂だけがその辺をうろつくってことになる。しかも、ユウキちゃんの性格だと、自分が死んでることに気がつかないで学校にくるかもしれない。心中でヤベーと思うヒロキくんであった。


「何を難しい顔してるの? 言っておくけど、これは『もし地獄が存在したら?』という話だし、推測でものを言ってるから、まともに聞くような話じゃないけど」


「俺にとっては、まともに聞くようなもんなんだよ。じゃ、最後の質問。寿命が残ってて、死神も魂を狩ってない人間がいたとする。でも、不慮の事故かなんかで死んじまったってパターン。さっきの交通事故とか、そういう奴。ああいうのって、寿命が余ることになるけど、そういうのはどうなるんだ?」


「そんなのは死神に訊くしかないんじゃない? そうじゃなかったら、その上司の閻魔大王にでもお伺いをたてるべきでしょうねー」


「――そうか。やっぱり、そうなるか」


「ただ、魂が生まれ変わるくらいなんだから、余った寿命もリサイクルされるんじゃない?」


「ふゥむ」


「ところでヒロキくん、突然どうしたの? 閻魔大王について訊きたい、なんて。普段、一緒にご飯を食べてても、こんな話、しないのに」


「実を言うと、閻魔大王のひとり娘が家出してきて、うちに居候してるんだよ。それで困ってて」


「あら、おもしろい冗談ね」


 ユウキちゃんが笑いながら珈琲コーラを飲み干した。


「ご馳走様。じゃ、行きましょうか」


 ユウキちゃんが手を合わせ、相変わらずのボケボケーっとした笑顔でヒロキくんに声をかけた。ヒロキくんも立ち上がる。食器を戻してふたりで食堂購買部をでた。

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